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不自愛



首筋にそっと唇を当てる。
甘い声が、もう一つの唇の隙間から漏れる。

そのまま舌を鎖骨に這わせ、下へ、下へと降りてゆく。


肝心の言葉は口から出ない。


・・・


僕は自分が好きではない。好きではなくなったというべきか。
去年までは、自分が好きか嫌いかなどという事は考えたことも無かった。

自分には何も無い。

その事に気づいてからは、自分をむしろ嫌悪している節さえある。


彼女の中心に到達する。
自分を支える理性がボロボロと崩れてゆき、心が昂るのを感じる。
身体を重ね、溶けあうように絡み合う。窓の外には静かな闇。妖しく光り、荒い息遣いが包むこの部屋だけ、世界から切り取られている。


ほとんど全て否定された。
あの人にだけ、褒めてもらったことはない。
無理矢理笑顔を作っていた。毎朝、笑顔の仮面を何枚も重ねてから車を降りた。
夜には仮面は全部割れていた。
仮面が足りない日もあった。そんな日は先輩が心配してくれた。
仮面の枚数は日に日に減っていった。
そんな日々の中で、次第に心に余白がなくなっていったのだろう。右を見ても左を見ても、怒られている自分や1人で泣いている自分がいた。


・・・


後ろから彼女を抱き抱える。
しっとりとした綺麗な背中に、額から落ちる汗が一つ二つと滴り落ちる。
何故僕のことを気にかけてくれるのだろう。
顔が見えないことをいいことに、一つ二つと、汗ではないものまで背中に滴り落としてしまう。


嫌いで、寂しくて、悲しくて、苦しくて、暗くて、ぬるくて、辛くて、思うように力が入らない。こんな顔では親にも会いたくならない。
たぶん、もう少し時間がかかるだろう。
自分のことをちゃんと好きになるまで。
家に閉じこもっているだけじゃたぶん解決しない。
自分の足でしっかり立つこと。怖がらずに飛び込むこと。無理だと思わずに手を伸ばしてみること。
ここから始めていくことが、今の僕には必要だ。


終わった後も、お互いの体温を肌で感じ、胸の鼓動に聴き惚れる。
もう一度首筋に唇を当て、抱きしめたまま、唇を重ねた。
耳元で、二言三言言葉を交わす。
だけど、肝心の言葉は出てこない。


僕は自分が好きではない。
自分が好きでないものを、他人に勧めるなんてできない。受け入れてもらおうとも思わない。
今のままだときっと、とてつもなく負担をかけてしまうだろうから。
自分が好きな自分になれたら、飲み込んだ言葉はちゃんと出てくるだろう。



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