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【感想/ネタバレ】私の初恋相手がキスしてた 3巻読了

※めっちゃネタバレなのでお気をつけください。

安達としまむらロスがすごくて。
同じ作者である入間人間先生の作品ということで買ってみました。
まさかあんな結末になるとは、表紙とタイトルからは一切予想していなかったのだけれど。

三角関係かと思わせた、二人の姉妹vs負け確定ヒロインの物語。
読み始めてしまった時点で、不幸は始まっている。

あだしまとクロスオーバーしていることを何も知らずに読み始めたのですが、先にそちらを全て読み終えていて良かったと思いました。

なので日野の家とか、しまむらが出てきた時にはすごく驚いたし、嬉しかった。

で、結論から言うとこれは見事なバッドエンドですね。3巻の表紙詐欺はすごい。
そして、それがなんともゾクゾクしてしまった。

一巻の中盤頃からは全く予想していなかった衝撃のラスト。
もう百合作品でもなんでもない、めちゃくちゃにこじらせまくった人間たちが展開するホラー。
わかりやすいグロとか呪いみたいなのではなく、人間はここまで変わってしまうのだ、という精神面の恐怖。

育った環境、出会う人間でいとも簡単に人は、人生は壊れてしまうという。

これは確かにフィクションであるから存在しない人物たちのお話なわけだけれど、あまりにも巧みな情景描写、実在する場所、見事な心理表現により、実際こういった人がいてもおかしくはないよな、と感じさせられました。

そして全てを見届けてしまった後で思うのは、これあだしま関係者以外、登場人物みんな不幸過ぎないか?ということ。

3人の主人公をはじめとして、性格や人間関係、家庭環境がみんな狂ってるわけで。
育児放棄の毒親、規格外の金持ち、親子で他人の家渡り歩き、歪みすぎた愛、基礎的教育の欠落、スーパーシスコン共依存、特殊性癖、と。

シホと海は2人きりで一緒に暮らして確かに幸せなのかもしれないけど、あの関係性はどう考えても、あまりにもいびつすぎる。
タカソラといえば結局、最後の最後で完璧に精神が破壊されて、自分が嫌なことをされた相手と同じことを人にしてしまっているし。あかんやつ。

高空に結構感情移入してしまっていたので、可哀想だという思いが強いですよ。
失ってしまった人の理想像を別の相手に重ねても何にもならないし、偽りの幻想が膨らみ続けて現実は歪み続けるばかり。嘘の愛を他者に向けてもそれは誰も幸せにならないし、やめてくれよ、と。

なんかねぇ。もっと広い世界に触れてさ、誰かに話すとか、本を読むとか、色々できることはあったんじゃない?
まぁ、渦中にいるとコップの中の嵐というか、それしか見えないというか、そういうものはあるわけだけども。

あっちーとしまっちーはどんな世界線でも必ず結ばれるうんめーだったからこそ、今作で関係者全員が不幸になる運命が描かれた、ということなのかもしれないですね。

星高空。不幸の星の元に選ばれた、まさに文字通り悲劇のヒロイン。

衝撃のラストを知った上で一巻や最初のころを思い出してみると、やっぱり水池海とその母親が星家アパートに転がり込んできた時点で、終わりの始まりだったのだなぁと。
それは高空自身が「海とあの女(シホ)に出会ってから全てがおかしくなった」と吐露していたように。

出会わなかったら、もっと素晴らしい人に出会えていたら、もうちょっと年齢を重ねてある程度落ち着いていたら、人生を俯瞰して考えることができるようになっていて、幸せな人生を歩めていたのかもしれないのに。

3巻後半、別人に変わり果てた水池海。
なんかこんな人実際にいそうだよな、と思って笑ってしまいました。
自分という芯が全くなくて、目の前の相手が唯一無二であるかのように錯覚していて。これまで見た目が良いということだけで生きながらえてきたから、内面はスッカスカ。

シホのことが好きだとはいえ、何でもかんでも相手の言いなりになってしまっているのを見て、裏切られたという気持ちよりは、「ざまあみろ、やったぜ」という感情になってしまっていました。
思えば始まりのころから、中身がないこのキャラクターはあまり好きではなかったのかもしれない。
そう考えると、やっぱりラストで高空がモンスターへと変わり果ててしまったのは悲しいし、感情移入が強かったのかもしれないですね。

「二度と会いに来るかよ、ばーか」
別人に変わり果ててしまった海に対して、高空は開き直って絶望と諦めを受け入れるシーン。
あまりにもワクワクするし、面白い。
なんかいいなぁとすら感じてしまって。そうそう、これが人間だよね、生きているということだよね、と。

実際無知でアホだった高校生の頃の自分、確かにどうしようもなく不安定で盲目的で、でもだからどこまでも突っ走っていけそうな気持ちがあったことを思い出しました。

今が何でも知っているというわけではもちろんないけれど、それでもかなり世の中のことはわかったし、それに伴い落ち着いてしまった。
だからこのお話のようなどこまでもドロドロしていて、無知と純粋、汗と涙がむき出しで感情がごちゃ混ぜになっているもの、とどまるところを知らない、見ているだけで火傷しそうな若さというのは、あぁいいなぁって。

その後すぐに疲れるから嫌だ、と思ってしまうのだけれども。それこそしまむらのようにだらーんとして生きていたい。

そうそう、あだしま11巻で登場していた花の香りの和服のお姉さんというのは地平潮だということで、そう考えたらしまむらがあーだこーだされていたらどうなってしまっていたのだろうか、と。

うーん、そう考えたらやっぱり、同性同士だとはいえシホがやっていたことは本人開き直っていたけども売春であり犯罪なわけで、そしてそれが一巻の頃はただ面白みしか感じていなかったけど、最後まで見届けて、海と高空が別人になってしまうことを考えると、やっぱり諸悪の根源はこの地平潮では、と思うわけで。
一巻のラスト、高空が海を追いかけていった時、海とのキスを見せつけるようにしていたのもうわぁ…だし、シホは海と付き合うことを宣言したくせに余裕で浮気しているのもえぇ…だし。
3巻終盤二人が新しいマンションで生活を共にするようになっても、高空を呼び出してなんかちょっかいかけようとしているし。呆れて…おい…としか言えない。

まぁつまるところ悪役ということでしょう。

だけども彼女は彼女で幼少期に暴力だったり虐待だったりを受けた壮絶な生活をしてきたわけで、一概に否定できないのでは、とも思う。

しかしそういうシホが海や高空に行っていたのはある意味精神的な虐待と言えるでしょう。

相手の期待を無闇に煽って、反応を見て楽しむ、弄ぶ。
自らの美貌を悪い方向に活用しまくった、相手よりも自分の方が優位な立場であることを自覚した詐欺、心理操作。

いやこれ字面にするとやってることヤバすぎるな。人間として終わりすぎてる。
実際、海や高空も「100個も警告灯が危険を発している」と心情を述べていたように、確かに気がついていたわけで。

しかしそこで思いとどまれなかったのは、生育環境のせいか、高校生という未熟な年齢のせいか、あまりにも現実と乖離したシホという存在のせいか。
海も高空も、見た目だけで好きになるってのも、ちょっと優しくされただけで揺れ動いて心を許すようになってしまうのも、何ともまぁ若いなぁと。

この作品はガールズラブというアウターを羽織っているものの、しかし中身は人間という生き物のあまりの脆さ、裏の面、生きることの難しさをとことん表現した人間ドラマであるな、と感じました。
むしろ、通常男女間に生じる性的なものがない分、いやシホは同性、特に女子高生にそれを求めるわけだけども、男女間のそれほど直接的なものがないので、純粋に人間と人間のぶつかり合いが表現されているというか。

読者は初め、「百合小説だ〜、わー!」と、何も考えずに、まさか脳が破壊されるどろっどろの人間関係、とすら言えない何かを構築してはぶち壊す狂った登場人物が展開するバッドエンド人間ドキュメンタリーを嬉々として読み始めるわけです。

それこそ一巻中盤とか、結構性的な描写が登場するから期待に胸高鳴るわけで。ニヤニヤが止まらないわけで。
まさか読了後の感想が「怖ぇ、うわぁ、、、」になるとは全く思わない。

作者が「主人公は誰なのかわかりません」と述べていたように、確かにわかりませんでした。
だからこそ読者は自分で主人公を無意識のうちに決めながら読むのか、と。
僕は地平潮が主人公だと思っているのですが。
出会う人間の感情を引っ掻き回して、この小説を展開させてきたのはいつも彼女だったわけだし。
実際、高空と海は1人ではほとんど何もできなかった。

価値観でぶん殴られるとはまさにこのこと。
これがたまらなく快感。痛快というのだろうか。
掻いてはいけない虫刺されを掻きむしるような感じ。
うわーーーーーってなりながらも、そこに満足感を覚えてしまっている自分がいる。

だから本を読むのは好きなのです。

読了後、いつまで経っても心はザワザワしているし胸騒ぎはあるのだけど、でも同時にどこか爽快さがあるというか、またいつか読み返したいと思ってしまう。
結果が変わらないことはわかりきっているのに。

淡い炭酸飲料?微妙に酸っぱいラムネアイス?
この感情はどう言い表せば良いのだろうか。

うーんでもなぁ、やっぱり、結局、ハッピーエンドを求めている自分がいますよ。
あだしまの脳死百合が恋しい…
いや別にあれも何も考えずに読めるわけではなくて、かなり色々考えさせられるものだけれども。
最初のころはただの百合なわけだけど、巻数を重ねるごとに物語はどんどんと予想しない方へ展開していくし、99.9でこんなにも心を揺さぶってくるとは全く分からなかった。

あだしまも今作も好きだけど、なんかモヤモヤする。

だから、それらも中和してしまうくらいに新しい本にもっと沢山触れれば良いのだと思いました。

あだしまは13巻もあって、その中で比較的純粋なラブコメを堪能できたわけだけど、今作は3巻という短い形式でここまでの感情を味わわせてもらったという意味では、かなり良い体験であったし、とにかく非常に面白かったです。
どうもありがとうございました。

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