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『就活生、神になる。』③ キミ、ちょっと怖いよ。

■まえがき~本編に入る前に~

 本記事は、『就活生、神になる』の初回、2回目を踏まえた上での内容となっております。まだお読みになられてない方は、下記リンクにお進み頂けると、よりお楽しみ頂けます。



 なるべく時系列順に印象に残っている面接を取り上げる予定ですが、書いてる途中で急に思い出したりした場合は、若干順番が前後する可能性がございます。予めご了承ください。



■第9章 あなたは小さい頃どんな子でしたか?

職種:金融系
受験時期:割と早い時期
倍率:多分高め(ただ大量採用)
受験理由:純粋な志望と第二の本命に向けた最終調整


 第一本命に落ちた(前章)私は、気を取り直して第二本命に向けた準備を着々と進めていた。やはり病歴を掘られることが多く、マトモに取りあって頂けない会社も多く、この段階で既に15社程度を受験していた。故に、(体裁だけでも)きちんと面接してくれる会社は貴重であり、逃すわけには行かない。前回以上に想定問答をきっちりと組み、元々通る声ではあるが、さらにハキハキと喋るように心掛け、面接の精度向上に向けて万全の態勢を整えた。


 ただし、少しだけタイムラグがあったため、他にも複数社を挟むことにした。その流れで企業研究をするうちに、魅力的に感じられる所が出てきたので、とりあえずダメ元で受験してみることにした。


 練習の甲斐があってか、一次・二次面接はすんなりと通過できた。どうやらこの会社は病歴について一切聞いてこないらしい。おまけに全ての人事の方が、非常に物腰柔らかく好印象。これは大変やりやすかった。


しかし、三次面接(だった気がする)で面接での質問の角度が変わってくる。



「あなたは幼少期にどんな子でしたか?」



 なかなか普通の面接ではお目に掛かれないタイプの質問だ。何を尋ねたいのか真意を探りかねるようで、面接を受けに来た人物の核心を突いているような質問である。しかし、私は対策万全。この質問が飛んでくることは、既に事前リサーチで認識していた。


 これは正しい回答が何なのかはわからないし、自分が正確に何を言ったかは覚えていない。ただ、淀みなく「共通の趣味を持つ友達に恵まれました。自分たちで日帰り旅行を計画するなど仲は相当良かったと思います。」だとか、「少し大人びたところがあったようです。母親に連れられて大人の方の勉強会に行った際に、子供相手の平易な表現で周囲から話しかけられた際に、"お疲れ様でした。またお会いしましょう""などと言った硬派な返事をして驚かれたと聞いています」、「いつも使う電車から見える会社の看板を暗記して、社名の読みと何の業種かを言い当てられるような根っからの企業オタクみたいな子でした(これは就活向けに作った訳ではなく本当)」みたいな事は言ったように記憶している。とにかく、些細なことまで、そこそこの文量を深掘りされたので、正直に、ハキハキと答えた。


 ただここからが問題。次いで来た質問が「あなたは小学生の時にどんな子でしたか」という質問。この流れはマズい。確実に病気で潰れていた中高の話にまで話が来る。どうにか高校については、病気から復帰した粘り強さと、復帰後の計画性を強調すれば、回答として減点されることは無さそうだが、中学は本当に真空地帯である。


 その場の咄嗟の判断で、多少無理がある内容ではあったが、ある程度ウソを付かない範囲で取り繕えたと思う。柔和な表情の面接官は、こんな状況でも態度一つ変えず、きちんと面接の体裁を為した面接を完遂するという素晴らしい対応であったが、先程まで私に僅かに向けられていた「関心」のような物が、感じ取れなくなったような気がした。



この会社から、次の面接の案内が来ることは無かった。



■第10章 それって他の業界でもできるんじゃないですか?

業種:金融系
受験時期:比較的早い時期
倍率:おそらく人気
内容:一次試験(集団面接・私は通過)
受験理由:純粋に事業内容に興味を持ったから。


 既に20社程度出願を済ませた時期である。この時期はちょうど、個人面接で、病歴やそれに伴う休学歴を掘られた際の通過率の悪さを認識し始めた頃である。私はここで発想を転換した。集団面接で病歴について取り扱うのはタブーのはずなので、なるべく面接が集団形式の会社を受験するべきなのではないかと。そこで受験したのがこちらの金融機関である。


 一次面接では5人が顔を合わせた。所属大学と名前を含めて自己紹介との指示があったが、いずれも筑波・横浜国大などと言った有名国公立や、早慶・MARCHや関関同立、南山などといった上位の私立大学の人間しかいなかった。いままでも就活の厳しさは常日頃から感じていたが、ここでライバルが可視化されたことで、少し、身震いがした。


 ただ、同時に私の読みは的中した。集団面接なので、過去回で扱った学校事務のように"ガクチカ攻め"の連続攻撃もなく、プライバシーに関わる情報なので、集団面接では病歴についても深掘りされることは無かった。


 ただ、この面接の難しさは、話したことに対する深掘りの厳しさにあった。面接官は非常に穏やかな口調で話しているにも拘わらず、非常に話が纏まっていて、とにかく簡潔に、論点をブラすことなく、最も耳の痛い部分だけを延々と深掘りをしてくるのだ。深掘り自体は、ほとんどの会社で見られる手段ではあるが、ここの会社は一味違った。



 とにかく適当な認識・適当な発言・上っ面だけの浅薄な考えを一切許さないのだ。私の受験した回に、関西の有名大学から来た、非常に饒舌で、理路整然と話す受験生がいた。本人が自己紹介で話している時間には、あまりの説得力とPRの上手さに、舌を巻いた。私も相当ハキハキと大きな声で喋る方ではあるが、既に連敗していたこともあって、底抜けの自信は既に無くなっている。ただ、彼は集団面接での回答トップバッターを自ら積極的に志願するほど、自信に満ちあふれていた。


 「御社の扱われている商品は、XXという特徴があり、これは〇〇というメリットが御社に、顧客は▼▼を享受でき、非常に素晴らしい枠組みで…」「私は、多くの人と連携して行えるダイナミックな仕事をしたいと思い…」と言った調子で、彼は止まらない。それでいて質問に対して必要十分の回答をしていた。


 しかし、百戦錬磨の面接官はあくまで冷静である。


「〇〇さんはダイナミックな仕事で、XXという要素が絡むお仕事がされたいんですよね。これだけでは不動産業界の■■社も当てはまりますが、いかがですか?」と面接官。


「確かにその要素はあるかも知れません。しかし、御社には◎◎という強みが有り…」と、饒舌な彼も負けてはいない。


 ただ必ずもう一度追撃が来るのだ。それもなかなかコアな物にまで踏み込むため、ジャブではない。打ち所が悪ければ一発K.Oモノだ。

「◎◎という強みについては、同業のXX社も有しておりますが、何が違うと思いますか?」



「それについては…。」


 とうとう、つい数分前まで元気いっぱいだった彼が押し黙ってしまった。5秒ほどだったと思うが、あまりにも長い時間が経ったように思われた。その後に彼の口から辛うじて聞こえてきた回答は、あまりに説得力の無い言葉の羅列であった。


 これを受けて、私は咄嗟に戦略を切り替えた。自分が最初に喋れるターンで、考えていることを全て話し切ってしまうと、後からトンデモない深掘りをされて詰んでしまう。ここは小出しにしてお茶を濁しつつ、相手の深掘りを狙う作戦に出たのだ。最初は上手く行くかわからなかったが、幸いにも彼がトップバッターを志願してくれたおかげで時間が稼げた。押し切るしかない。


 この方法で、なんとか自らの回答可能な範囲で、この面接を乗り切ることができた。一切圧迫ではなく、自分もハキハキ話せた採用面接で、ここまで冷や汗をかいたのは、80社以上受験してこの面接だけである。その場に居合わせた饒舌な彼の選考結果を、私は知る由もないが、当の私はこの会社で三次面接まで選考に生き残った。残念ながら、最終面接を目前にして落選。


 ただ、この会社は非常に丁寧な対応で、最後まで病歴について深掘りされることは無く、その場をやり過ごすだけのような質問も無かったため、100%純粋な力負けだったと言えよう。あの一次面接官の、人の本質や発言の真贋を見抜く鋭さを見ている限り、自分よりもっと優秀な人にふさわしい会社なのだと、心から思った。



■第11章 君、ちょっと怖いかもよ。

業種:金融(コンサル・シンクタンク系)
受験時期:前半の中盤より
倍率:金融系の中はそこまで高くはない
内容:一次面接


 新卒就活もそろそろ「出遅れ」の部類に扱われる時期に入ってきた。周囲には、早期選考以外で内定を獲得した学生が、一定の割合で出始めた時期である。私は、中学・高校時代のガクチカが乏しく、既に苦戦を強いられていた。そんな頃に見つけたのが、このロールプレイング型の面接である。


 "御社"の面接官が「"御社"の取引・調査先の企業の窓口役」を努め、受験生が「"御社"の調査官役、あるいはコンサル担当役」として、取引・調査先からヒアリングを行い、経営課題や状態を分析するという物であった。


 もちろん、経営者の生の声なんて一度も聞ける立場になったことはないが、企業動態の調査は、小学生の頃から趣味で頻繁にやっていたので、就活で初めて企業分析を始めた受験生よりは勝算がある。試してみよう。


 面接会場に到着すると、"取引先"(御社面接官)がお出迎えである。眉間に怒った時に浮かび上がる皺が深く彫り込まれている若干怖い印象の面接官だったので、怯んでしまった。しかし、蓋を開けてみれば、実際の面接中の応対は丁寧で、スムーズに事が進んだ。


 事前に渡された架空の資料をきちんと読み込んだ上で受験しているので、質問事項は既に考えてある。経営状態について着々と詰めていこう。あくまで資料は架空なので、現実の為替や原料価格とは連動していない。そのため、時事問題に対する予備知識は不要である。


 「御社の強みの商品には〇〇が挙げられておりますが、こちらの販路や売れ行き、利益率についてお教え頂けますか。」


 「御社は前期赤字決算となっておりますが、主な要因について端的にお教え頂けますか。」


 「赤字の要因については、取引相手先と発注見直しや、他社への鞍替えなどを挙げられておりましたが、補填できるほどの相手先の確保や、経営改善に向けた施策は何か打たれましたか。」


 「御社はXX銀行から、運転資金◯億の借り入れを行われておりますが、何か担保を入れられておりますか。」



 最初からこんな調子で15分近く質問攻めにした。経営の舵取りにおいて無駄な事は一つも聞いてないと自分では思いたい。しかし、相手側…つまり取引先役の面接官が、"面接官"という立場としてお話すると断られた上で、質問タイムの最後に、私に諭すようにこう言われた。



「君、ちょっと怖いかもよ。」



 私は(自称)根が真面目なので、取引先から全てを聞き出し、経営実態を全て詳らかにしようと誠実に取り組んでいたが、完全に裏目に出たようだった。先方が求めていたのは、"ウチが経営調査対象にされた"という警戒感を取引(及び調査)相手に与えないように、雑談や世間話を交えながら、流れの中で企業の事業実態や経営課題について、深く聞き出すことだったようだ。私の調査方法が「弊社の手法と合っていない」と面接官に思われたのは、言うまでもなかった。


 この後、企業から聞き出した情報を基に、レポートを書き上げた。きちんとヒアリング自体は行えたので、分析できるだけの情報は手元に揃っていたはずであるが、正確な物であったかは受験者側で確認しようがない。この会社の選考は、これが最後となった。



■第12章 ここまでだいたい25連敗

 記憶に残っている会社だけピックアップしつつ記事を進めて来ているが、私はこの段階で、大手・中小交えて25社程度既に受験している。三次面接まで生き残る会社はいくつかあったものの、いずれもご縁が無かった。



 これまでに列挙してきた会社のほとんどは、最後まで"普通"に応対してくださった会社さんばかりだ。しかしながら、面接らしい面接が行われず、「病歴の深掘り」だけで面接が終了するパターンがほとんどであった。というか、落ちるパターンはほとんどこれであった。詳しくは当方の別連載『起立性調節障害に負けないために…』の"問診面接"の章を参照してほしい。

 過去の病歴を理由に落とすことを出願前にわかっていれば、端っからその会社にESを出しはしない。病歴を深掘りするだけのために面接に呼ぶのなら、書類の段階から落として欲しい。そうは常々思っているが、実際はそう上手くは行かないのだ。


 企業の多くは、対外的に「健康経営」や「ワークライフバランスの重視」などを打ち出しているため、出願前に"問診面接"になるかを見抜くことはほぼ不可能である。社員による口コミサイトを見た所で、あれに書けるのは、「病歴が無く」「受かった人間」だけなので、「問診面接」に遭遇するかは受けてみないとわからないのだ。


 また、良くも悪くも一律の基準で選考が行われているのか、低次の面接では、面接官に「いま完治しているなら大丈夫ですよ」と合格を頂けても、三次・最終になって急に問診面接に切り替わるタイプも、往々にしてあった。いかに志望度が高く、業務理解や就活の軸をきちんと整理して行っても、通常の面接にならなければ意味が無い。



 それならば、私に残された道はただ一つである。



 それは「志望しているかどうかはさておき、とにかく数をこなす」こと。物凄い数のESを出した上で「病歴・休学歴が問われない/深い理解を示した会社を見極め、後から研究を行う」ことである。



 本来であれば、「経済・経営に昔から興味関心がある」だの、「お客様からお悩みやご相談を聞き出し、最適な商品をご提案することにやりがいを感じる」だの、「資格取得などを通して、積極的に自己研鑽に励み、高みを目指す姿勢が備わっている」だのと、本来自分が持っているであろう強みを正直に喋って金融系に進みたかった。体力的に余裕があれば、「経済地理系のプレゼミへの在籍歴」や「ソフト・ハード両面での街作り参画への興味」などを話して、電鉄系や不動産系を受験をしたかった。


 しかし、自分には、病気で満足に学校に通えなかった中高時代と、コロナ禍が直撃してガクチカを多く作れなかった大学時代しか無い。それに「極端な早起き・遅寝は禁忌」「ストレス過多な環境をなるべく避けよ」という起立性調節障害(及び自律神経失調症)経験者への体質的な足枷だけは未だ残されている。

 ここまでほとんど金融系ばかり受けてきて、いずれも敗戦してきた事実を考えると、業種を広げてみるしかない。ここからは、金融系と併せて様々な業種の受験を模索していくことになる。




(第3回・本編終了)


■あとがき

 いかがでしたでしょうか。「お客様のニーズをヒアリングを通して引き出し、それに最適な解を導き出す仕事」と言うと、コンサル・塾講師・製造系(受注生産)・アパレル販売…など様々な業種に当てはまるような気がしますが、必ずしも無駄な話一つせず、硬派に仕事を進めることだけが良いこととは限りません。いま就活中の方々も、これに気を付けて頑張ってみてください。


▼次回記事はコチラです▼


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