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『就活生、神になる』② 面接官、天を仰ぐ

■まえがき~本編に入る前に~

 今回の内容は、『就活生、神になる』の初回記事を踏まえて進んでいきます。当方の連載記事である『起立性調節障害に負けないために…』をお読み頂いた方は、スキップしても理解できる内容ですが、そうでない方は先にリンクから前回をご確認ください。



▼初回記事はこちらからどうぞ▼




■第6章 弊社は第一志望ですか?

受験時期:早期選考(私にとって初の本選考)
業種:小売業
受験目的:本命前の採用面接慣れ・あわよくば内定の獲得
倍率:おそらく低い部類


 中学や高校の受験において「滑り止め」という概念が存在することは、もはや説明不要であろう。本命前に受験に慣れさせ、合格が取れたら安心材料にできる魔法のことである。これは就活でも同じである。


 私は、経済経営に関する興味関心、日本の中小企業・個人に対する金融サービスへの興味、さらには体質的な問題などの観点から、「金融系事務職」に絞って就職活動を行うことを決めていた。しかし、いきなり本命に突っ込むことだけは避けたかった。そんな中、受かっても嬉しく、落ちてもダメージが少ない上に、元々趣味として小売店舗巡りをしていたこともあって企業研究が済んでいた小売業を、「滑り止め」として最初に目を付けたのだ。


 幸いにも金融より早期選考を行っている会社が多く、会社をきちんと選べば地域密着で転勤が少ないため、「志望」ではないものの、「現実的な望ましい勤務条件」を適えられる業種ではあったのだ。


 実際に受けてみると、若手の女性と中年の男性が面接官として配置され、和やかな雰囲気で進んだ。私自身も、初回受験の割によく喋れたなという自己評価が出せるほど、ある程度淀みなく話すことができた。しかし、最後になって、男性の面接官がこう聞いてきた。


「弊社は第1希望ですか?」


 私は小売業のオタクなので、この会社の事業内容や展開場所は昔から知っていた上に、魅力的に感じる部分があったので受験した訳だが、正直に言って、企業に対する解像度が高くなっている就活生の間ですら"知られている会社"とはお世辞にも言えない知名度の会社さんであったことは否定できない。

 あろうことか、私は正直過ぎるが故に、現時点で自分が書類を出している中で、第何志望かを頭の中で数えてしまった。その一瞬の不自然な間を、面接官は見逃さなかったのである。ここで先程まで柔和な表情を浮かべていた面接官の表情が、少しこわばったような気がした。そして私は「第一志望群の中の一社です」と答えたのであった。


 結局、この会社とはご縁が無かった。嘘を付くのが上手い人なら、何も悪気なく「御社が第一志望です!」と、何も言れずとも一発で言い切れたのだろう。ただ、私は良くも悪くも嘘を付くのが苦手な人間が故に、正直に「第一志望群である」と答えてしまった。きっと見えない暴風が前から吹いたに違いない(わかる人にはわかるネタ)。


 ただ、一社目でこの失敗に気付けたことに、私は受験の意義があったと思う。こうして、スマホのメモの「受験中の会社」リストから"御社"の名前を切り取り、「ご縁が無かった会社」の項目の下にペーストしたのであった。気を取り直して次だ、つぎ。




■第7章 面接官、天を仰ぐ

受験時期:金融系より少し早い時期(だった気がする)
業種:学校事務
受験目的①:金融系前の足慣らし
受験目的②:雇用条件が良好だったこと
受験目的③:同じ事務職系で飛んでくる質問への対応
倍率:高い


 金融系で全力を尽くすために、本番前にさらに場数を踏むことにした。金融系事務に絞ったと申し上げた物の、①夜勤・早朝勤務がなく ②地域密着で ③自身の興味・適性を活かせるという面では、大学事務にも共通する面がある。さらには、せっかく身に付けた語学力も、部署によっては発揮できるため、多少倍率が高くなっても、上手く行けば勝算があると見込んだのだ。


 実際にこの予想は的中した。半分が落ちると言われるESを潜り抜け、一次面接・二次面接でも大きなヘマをすることなく、三次面接まで到達したのだ。面接官は、定年が近付いていそうな男性2人と、中堅と思われる男性の計3人。途中までは強み・弱み、さらには前回学んだ志望度の質問などベーシックな物が続き、話題は「学生時代に力を入れたこと」に移った。ここまでの手応えは抜群で、面接官はニコニコしながら前のめりになって聞いてくれている。


 通称「ガクチカ」と呼ばれるこの質問はベタ中のベタであり、就活生であれば誰もは最低2つは喋れる物である。私はアルバイトと学業についていつも話しており、これだけ聞かれる分にはボロは出ない。ただこの団体は違っていた。


「他にガクチカはありませんか?」
「例えば中学の時はどういうことしてたとか」
「高校での取り組みを教えてください」


 これはハッキリ言って想定外であった。想定外を想定内にしておけと常々災害が起こるたびに言われているが、就活も例外ではない。十分な文量がある2つのガクチカを繰り出した後に、なお同じ分量でもっと欲しがる会社も中にはあるのだ。私が当時見た就活サイトには、基本的に「直近3年程度のあなたの行動パターンについて問われる。大事なのは仕事における行動パターンの再現性」と書いてあった。しかし、コロナ禍において等しく行動制限された世代を救済するべく、新たに設定された物であったようだった。


 しかし、私は遡れば遡るほど「無為」であり、何なら病気をしていて、コロナ禍以上に行動ができなかった。これは救済ではなく、明らかな向かい風であったのは言うまでもない。病気に再現性があるだなんて思われたら、シャレにならない。


 おまけに、ここで初めて履歴書を"正直に書く"ことの危険性について、うっすらと認識し始めた。これは既に就活サイトに一度登録してしまったので、後から変更は効かないが、私は高校を4年間で卒業している履歴書を""正直に提出してしまった""のだ。履歴書に偽りがあった場合には、採用を取り消すなどと文言が踊っている関係で、常に誠実であろうと書いた物だが、ひょっとすると面接官は間接的にこれを掘りたかったのかも知れない。もはや瞬間的にに取り繕える物ではなかった。これに対する私の回答はこうだ。


「いまでは完治しておりますが、中高は病気をしていたので何も…」


 3秒以内に生徒会・部活動での「存在しない記憶」や「存在しない課題と対処」をでっち上げられたら、それはもはや職業人としてではなく、詐欺師としての適性があるだろう。しばらくの沈黙の後に、まだ笑顔が消えていない面接官からはこう質問が来た。


「じゃあサークルとかゼミはどうかな?」



 これも詰みの質問なのは、初回記事をお読み頂ければお分かり頂けるであろう。前者は所属自体はしたが、上級生の"民主的"な投票によりコロナを理由に主催側に回る前に解散した。後者は二次募集まで粘ったが落選。これも正直に答えざるを得なかったが、学業面では先述のプレゼミの話も同時に付け加えた。しかし、論文を書くまでは至ってないため、アピールとしては弱かったんだと思われる。二人の面接官はほぼ同時に「あぁ…」という失意の声と共に、天を仰いだ。


 ガクチカをこうして個別具体的な時期に区切って聞かれなければ、80社受験したいま振り返っても、かなり手応えの良い面接だったのだが、面接官の善意と関心によって、最後の最後に落とし穴ができてしまった。こうして、私の下には後日「お祈りメール」がまた一通届いたのであった。



■第8章 最初の本命受験の時が来た

業種:金融
受験時期:割と早め
受験目的:本命クラスの一つなので確実に押さえたい
倍率:一般的より少し高い


 他にも足慣らしを数社受けた後に、遂に本命クラスの一社の受験の時が来た。いつも以上にSPIに集中して解き、ESも何度も読み返し、無事に面接の機会が与えられた。あとはきちんと誠意を伝えるだけだ。


 学生時代に力を入れたことのアピールはバッチリ。強み・弱みに関しては、強みに対してその裏返しを弱みとして挙げ、その課題への対処法を併せて話したこと。この時に大きく頷かれたので、かなりご納得頂けたようだ。


 ただ、話は休学歴や病歴の話に移る。さすがに車酔い以外の全てが完治していれば、就活ではほぼ問題ないであろうと考えていたが、いつまで経ってもこの話題から離れない。先程の学校事務は、あくまで中立的な面接で、たまたまガクチカを時期に分けて複数聞かれたが故に、ご縁が無くなったタイプであったが、今回は明らかに最初から懐疑の目を向けられているような面接であった。


 まずは病名と症状、現在の状態について聞かれたので、きちんと正確にお話した。しかし、病名の説明を聞いた段階で、面接官の表情が歪んだ。まるで頭上に「?」が浮かんでるんじゃないかと思えるくらいの変わりようだ。「つまり〇〇ということでよろしいですね?」と要約されたが、少々現状について言葉の額面以上に深刻に受け取られているようだ。誤解を解かなければ後はない。再度きちんとご説明したが、「起立性調節障害」について、あまりよくご存知ないようだった。ちょうどその頃に、ようやくテレビなどで紹介されるようになった程度の周知度なのだから無理はない。面接官の言葉は、まるで長年の優良取引先を扱うような丁重な物であったが、表情がみるみるうちに曇っていったのを鮮明に覚えている。


 私が"御社"のマイページをブックマークから消したのは、それから1週間後のことであった。



(第2回 本編終了)


いかがでしたでしょうか。皆様も身体が資本です。くれぐれも無理のないようにお過ごしください。就活については、最低でも80社以上は受験しましたが、基本的に落ちるフラグとして最も多かったのが、病歴の深掘りに時間を割かれるパターンだったと思います。


 塾講師の仕事をしていると、中学・高校の3年生の生徒から、「オレ受験の直前なのに、(学園)祭の実行委員で遊んでるのマズいっすよね!?」などとよく聞かれます。これに対して私は、「きっといつか君の力になるから頑張れ」と必ず答えるようにしています。就職活動の時に、この意味が分かってくれたらいいなと信じて。



▼前回・次回記事はコチラです▼


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