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自由詩、言葉

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2021年12月の記事一覧

蛇口

蛇口

私が蛇口をひねる時は慎重だ

ゆっくりと
あたりに飛び散らないように
加減している

もう少しひねれば良いのにと
自分でも思うほど

しかしいつも君は
蛇口を思いきりひねる

手加減などせず
限界まで

そんな君がうらやましい

好きなものは好きと
大きな声で言える君が

嫌なことは泣いて叫んで
はっきり嫌だと主張できる君が

感情の蛇口を
思いきりひねることができる君が

うらやましい

ひとり占め

ひとり占め

繋いでいた手をふりほどいて
君は走り出す

「待って」
咄嗟に出た大きな声
心配と少しの怒りが後を追う

「はい、どうぞ」
無邪気に笑う君のその
小さな手には花が一輪

思わずぎゅっと抱きしめる

君のその優しさとその愛を
いつかくる その日まで
ひとり占めにしていたい

すき焼き

あなたの笑顔を見たことがない
喋りかけても
笑いかけても
あなたはどこか知らん顔

「すき焼き食べたいなあ。」

よし食べよう
本当はだめだけど
せっかくだからみんなで食べよう

すき焼きを食べながら
初めてあなたの笑顔を見ました

それが最後の晩餐でした

あなたが居た部屋の前を通るたび
切ない甘さが香るのです

影

あっみだっくじ〜♪
あっみだっくじ〜♪

軽快なリズムと軽やかなステップ

地面に映る 柵の影

その先にアタリはなくても

あのワクワクは確かにある

君を見れば分かる

欠けた私

欠けた私

ただひたすらに実を拾う。
彼女にとって"きれいな実"
それだけが選ばれる。

彼女に弾かれ、地面に落ちた実を手に取る。
一見きれいな実だ。
しかし裏返すと穴がひとつ。

「これ、欠けてるけどおもしろいよ。」

「うーん。じゃあ、それも入れていいよ。」

そっと袋の中へ、その実を入れる。

「お節介だな。」そう言われた気がした。
だから「お節介だよ。」そう答えた。

君は知らないかもしれないけど

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帰りたい

帰りたい

「これが欲しいの。」

小さな君と睨み合うこと約20分

戦いは続いている

私は卵が買いたかっただけ
聞いているのか神様

あの時ついた嘘が
あの時したズルが
巡り巡って今の私を苦しめている

人生うまくできてるなぁ
さすがです、神様

とりあえず今日は夕飯の支度があるので
また今度って訳にはいきませんかね?

神様に鼻で笑われた

壁に刺さる文字

壁に刺さる文字

本日何回目かもわからない「起きや」を寝室に放つ。

寝室の壁には言葉が刺さっている。

今日放ったものなのか、昨日なのか、いつの言葉なのかは分からない。

真っ直ぐに冷たく刺さる「起きや」という黒い文字。

実家の私の部屋にもこの文字がたくさん刺さっていた。

寝室の壁に穴が空くのが先か、娘の成長が先か、私は少しワクワクしている。

いや、今は娘を起こすのが先だ。

「起きや〜!」

自己肯定感。

自己肯定感。

幼稚園からの帰り道、サッカー教室のチラシをもらった。かれこれ3回目。もはやチラシというかゴミだ。ゴミをもらうな私。

日焼けをし過ぎた青年が説明をしてくれているけど、その説明ももちろん3回目なので、私は薄目を開けて立っているだけ。

言葉が可視化できたら足元に積もっていくのが見えただろうな。紅葉した落ち葉と誰にも受け取られなかった言の葉。どちらが綺麗だろう。

なんて考える訳もなくただただ棒立ちの

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