ORIAI
読み切りの掌編、短編をまとめています。
愛があったはずの場所に、空白地帯が増えていく。 在日韓国人三世の私は、そのままの自分を受け入れてくれたと初めて思えた扇谷太一と出会い、結婚する。二児をもうけ、穏やかで満たされた日々を送っていた。自らのルーツを嫌悪し隠していた私は、夫の姓を名乗り、アイデンティティについて考えなくていい、逃げきれた……つもりだった。 結婚から十年。かつては何でも話せたはずの太一に、言葉を内側に押し留めていることに気づく。二人の間に空白地帯が増えていく。寂しさとやるせなさを抱えていた。 そんななか、かつて一緒に仕事をした女優が大麻所持で逮捕される。彼女は、在日朝鮮人三世だった。SNS上は集団リンチのようなヘイトが起き、私は「血」について向き合うことになる。 本当は何を太一に、「わかってほしい」のか。 日本社会と接続できない主人公が、自分の居心地のいい場所にするために、太一とわかり合いたいと、葛藤する。
読んだ本の感想文を綴ります。
とても大切な自分のものなのに、いつも許可なく他人に使われてしまうもの、なーんだ? …
自分の身に起きたことがありふれていても、その傷みは、自分だけのものだ。 「わかる、わ…
拝啓 お母さん。 40年かかってしまった。ほんとうの恥を知るのに。ほんとうの恥を、やっと…
まぶたと眼球の間を、羽虫がせわしなく動き回る。鼻腔にも数匹が迷い込んで、飛び回る。定位…
あの日の中で、もっとも記憶しているのは、カフェでの出会いでも、ほこりっぽい夜のプノンペ…
一目惚れした経験は、あとにも先にも、透子はこの一度だけだった。 「春樹じゃなくて、龍…
すぐに謝る人を、透子は信じない。 それが、どれだけ致命的な失敗や罪であっても。むしろ…
パンデミックの混乱がまだ続くなかで、東京オリンピックが開幕した。 緊急事態宣言下で、…
ヨンエさんはアイスコーヒーを、私はアイスカフェラテを買い、南新宿に向かって歩く。「代々…
インタビューは佳境に入った。 「二ノ宮さんの家族形態に批判的な人たちの存在を、どのよ…
私は前回と同じ席で二ノ宮と向き合い、「どのような体制で、三人で子育てをされているんです…
東京都を中心に過去最悪の感染者急増となるなか、五輪の開催まで一週間を切った。ある世論調…
太一が銀の保育園への送迎を終えて、戻ってきた。どちらが言い出すともなく寝室へ移動した。…
折り畳み傘を広げて、ヨンエさんと新宿駅まで歩く。新宿一帯に人が増えてきた時間なのか、並…
生まれたときに割り当てられた性別にも、好きになる相手の性にも、私は違和感を抱いたことは…
あの気まずいランチ以来、ヨンエさんとは仕事以外の会話を避けていた。ヨンエさんからも、し…