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サンブンシ

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記事一覧

日傘レビュー

《吻端の上部の皮膚は角質化し、硬くなっている。鼻面は皮膚が薄く、髭が密に生える。この髭は濁っていたり光が届かない海中で触覚により獲物を探す、感覚器官としての役割があると考えられている。牙は優位・性差・年齢の誇示、海から上がる際に支えにする、氷に呼吸用の穴をあけるなどの用途がある。属名Odobenusは、古代ギリシャ語で「歯で歩くもの(odontos + baenos)」の意がある言葉に由来する。老

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タリーズコーヒーでの騒動

私はたらこパスタを注文しますが、先に席を取っておきます。霧をも掴む思いで店内を彷徨い歩きたくはない。先に注文をお願いします。荷物にかける布はシルクがいい。

ええ、ありがとうございます。僕らで注文を済ませておきます。僕は割とボロネーゼ好きなので、隣のL.L.Beanへ服を探しに店を出ます。テラスの風鈴が気になるので、今のうちに風邪をひかないように、お兄さんのくれたコートを羽織るのを忘れずに。それで

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ぐにゅにゅ、

ぐにゅにゅ、

君の知る僕を知るのは君だけ。君が見たものを知るものはだれもいない。君が話すのはただの幽霊。他のものには見えた試しがないはず。その目に死を捉えたところで、それを知るものはどこにもいない。君や僕の話す、その死とやらから伸びる影は、何処にも見当たらない。ときどき死霊どもが、わけのわからぬ言葉遊びで僕らを嘲るとしても、それもただ僕らが「死」にそうさせているだけに過ぎない。ただじっと眺めていては、そこから聞

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ソレデモネズミ大困惑

ソレデモネズミ大困惑

イタリアの小さな庭園・コシュマールに住む暁美さんは、鼠の綿人形専門の時計職人。ある夜、夢遊して帰宅した暁美さんは、時間遡行した勢いで最高傑作の鼠の綿人形を作り上げた。それは袋鼠のように小太りの身体、跳び鼠のような後ろ脚、藁人形のような前脚、兎のような耳(内側は桃色)、全身は灰褐色で、尻尾が長い鼠の綿人形だった。夢遊の終えた暁美さんはとんでもない鼠を作ってしまったと落ち込むが、造形はともかく出来栄え

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2020年頃に起きた悪夢、人権侵害のドッキリカメラ撮影への「怒りと憎しみ」

2020年頃に起きた悪夢、人権侵害のドッキリカメラ撮影への「怒りと憎しみ」

2階にまで響く叫び声、急いで一階に降りた母が「わたしのせい、わたしのせい」と興奮して言い続ける。一階の廊下にいくと壁には血痕、祖母が頭を抱えてパニック状態に。母がバスタオルを祖母に渡し頭の血を抑えるように促す。リビングには父と目をまん丸にした祖父。明け方の犯行だったらしい。朝がくるまで夜中中ずっと2人は話していた。そして、。そして祖父は祖母の頭をバットで殴りつけた。子供用の小さなバットで。祖母は血

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エドワード・ゴーリー感想

エドワード・ゴーリー感想

ナンセンスなイロニーに満ち満ちた、子供にしかできない悪ふざけ。どこか夢を見ている気分にさせる浮遊感。全体の黒みがかった背景の中で動き回るものたち。彼らのそのまがまがしい可愛さに、思わず恋心を抱いてしまう人も多いのではないかと思われる。なおかつ、その最期は悲劇的な結末に終わることが多く、読者は登場人物に自らを投影することで、あの頃から自身を執拗に蝕み続ける不遇を憐むことが多々あろう。聖書に導かれた信

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甘き死よ、来たれ

甘き死よ、来たれ

私はあなたを失望させたことを知っています。
—それはただの思い込み。

私は自分を馬鹿にしてきた。
—だれだってそうさ。

誰にも生きられないと思った。
—生きた人間なんて見たことがないな。

しかし今、すべての傷と痛みを通して。
—傷も痛みもなかったらいいのにね。

尊敬する時がきた。
—ここが世界なのだとようやく気づいたね。

あなたが愛するものは何よりも意味がある。
—それはただのグミでしか

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割ったのは誰?

割ったのは誰?

君の目の前に置かれた青い花瓶。あるとき花瓶は割れてしまいました。風に揺れたのか、割れてしまいたかったのか。花瓶の目の前にいるのは君だけでした。仲の良かった君のお友達も、この時ばかりは教室にはいませんね。そこに居るのは君ひとり。君がそこにいることを、誰も見てはいなくとも、誰もが君がそこにいることなんて知ったままでいる。君を見ることはできなくとも、そこにはいつでも君がいる。君が花瓶の割れるのを、助けて

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さらさらした手紙

さらさらした手紙

水中に顔が映ってない。幽霊の条件をクリアすると大変。腕を反対の腕で掴むことで、そこに実体があることを初めて実感できる。見ただけでは、風景となんら変わりがない。なので認識が「崩壊する」という人は多いのかもしれなくても、こちらは認識が「融解する」のほうが相応しいと感じる。溶けてしまう。砕け散ることではなくて。支柱を崩壊させることはない。人格もそのまま。ですが存在感を失いかけたり、輪郭の線の形は変化して

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青ペンギンの慰め

青ペンギンの慰め

口を閉じて。目も閉じなさい。肩の力を抜いて。息を止めたり、深く吐いたりして。そうすれば、こちらの世界に溶け落ちることができる。他の人間に招待状を渡すこともあったが、誰もこちらへ辿り着くことはできなかった。当然。こちらに落ちれば元の世界に戻ることはできなくなる。なので渡したチケットはそこに描かれた可愛らしいブルーキャットのイラストを馬鹿にされた挙句に破り捨てられたの。人々に期待することはたぶんもうな

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みみへの手紙

こんなものが残されていたんだね

海辺のコリー

海辺のコリー

三匹の白っぽいコリーの三つ子が、お揃いのサングラスをかけて、横に並んだ列を崩さないようにとハラハラしながら、蛍光色の眩しい上着の目立つ白髪の男性のあとを追う。向こうを向いたまま足早に歩き去る男性の表情を窺い知ることはできないが、三匹とも安心しきって彼のあとに続くので、きっと白色のマスクの下には、飢えに苦しむ少年の姿は不在だろう。およそ八頭ばかしの兄弟姉妹たちと共に、綿の中に包まれて沈み込む日々を過

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