見出し画像

人生を変えた「ソウル国際図書展」へ。おすすめ韓国小説も

 先日、8年ぶりにソウル国際図書展(以下、ブックフェア)へ行ってきました。場所は江南に位置する総合展示場、COEX。後日新聞記事で、国内外36か国、530の出版社が参加し、5日間で約13万人が訪れていたと知りました。

 私が行ったのは最終日、かつ日曜日ということもあってか、10時にオープンする前から行列ができ、会場は人、人、人で溢れかえっていました。

2023年ソウル国際図書展の会場入り口

 このブックフェアとは、読者と作家、出版社が一堂に介する本の祭典で、世界各国の本に出会えるだけでなく、作家によるサイン会やトークショーなど様々な催しも開かれます。

 私は2015年の秋に会社を辞め、「半農半ライター」として活動を始めた直後、一番最初に請け負った仕事でソウルのブックフェアに参加。韓国でも書籍を出版されていた日本人作家さんのサポートをさせてもらいました。

 振り返ってみると、その仕事を請けたおかげで今の私があると言っても過言ではありません。そのブックフェアの期間中、「いつか会えたらいいな」と思っていた日本人夫妻と出会い、それから2年後の2017年1月。彼らの誘いにより韓国の食・農業関係者と共に、3泊4日のスローフードツアー in Japanに参加。

 旅の最後に「いつかここで出会ったみなさんの農園を訪れ、取材したいです」と挨拶していたんですが、それを覚えてくれていた江原道の有機トマト農家さん(以下、トマトさん)から「ぜひうちの農園を手伝いに来てもらえませんか?」と連絡をもらったことがきっかけで、2017年5月から通算4か月、韓国で農業体験取材をすることになったのです。

 このトマトさんは、その後エッセイや料理本を出版したり、土の重要性を伝えるイベントを企画したり、畑以外の場所でも活躍されていたんですが、今回ブックフェアに招待され、最終日に講演を行うことになったと聞き、「これは行かなくちゃ!」と8年ぶりにCOEXを訪れたのでした。

会社退職 ▶2015ソウル国際図書展 ▶2017スローフードツアー ▶韓国農業体験取材に至るまでのお話は、HPやnoteの過去記事(下記リンク)を参照

 朝10時過ぎ、トマトさんの展示ブースを訪ねると、オープンして間もない時間にも関わらず人の列ができていました。隣にはハチミツ農家、ワイン農家、米農家などのブースが並び、なんと試食や試飲もできる様子。

トマトさんの農園「그래도팜」のブース

 朝早く家を出てお腹が鳴っていた私は、トマトさんちの試食用ミニトマト1ついただくことに…。すると、5月に購入した時よりさらに甘みが増していてびっくり!「家に帰ったらまたすぐ注文します」と約束し、トークが始まるまでの間、会場をぐるりと見学しました。

左がトマトさん家のミニトマト、右がエアルームトマト

 11時~12時半まで開かれた講演会「気候美食トーク《自然から食卓まで》」には、トマトさんの他、在来種のお米を作っている米農家さんと、持続可能美食研究所「our plan EAT」を運営しているシェフが登壇されました。

 ちなみに、ソウルのブックフェアで作家さんたちの講演を聞く時は、事前にHPで予約が必要なんですが、座席はすぐに埋まってしまいます。でも講演会場は壁もなくオープンになっているので、立ち見にはなりますが、お話を聞くことは可能です(今後変更になるかもしれませんが)。

左から、our plan EAT共同代表&シェフのキム・テユンさん、在来種の米作りに取り組むウボ農場のイ・グニさん、有機トマトを育てるクレドファーム代表のウォン・スンヒョンさん

 1人30分ずつの講演でそれぞれ印象に残ったのは、まず、トマトさんの「農家は生産物にもっと価値を上乗せしていく必要がある」、「消費者の意識が変われば農家も変わる」という言葉でした。

 元プロダクトデザイナーのトマトさんは、結婚を機に農家を継ごうと決心。40年以上有機農業を営む両親が作るトマトがいかに価値のあるものかに気づいて以来、ブランディングに注力し、父親から学んだ農業哲学を広く伝えるために本を書き、新たにエアルームトマトの栽培・販売も始めました。

 昨年からは江原道の寧越ヨンウォル郡にある農場内に、土にまつわる展示館やトマトについて学べる体験館を作り、トマトの試食やピザ作りができるワークショップの受け入れも行っています。

トマトさんの農場内にできた体験館の様子

 元出版社勤務だったという京畿道高陽コヤン市の米農家さんは、1910年の韓国併合時、日本に一度すべて奪われてしまったという在来種の米作りに取り組みながら、消費者に田植えや稲刈りの機会を提供している方でした。

左が米農家さん、右がトマトさん

 「ここに来ている人みんなが農業に携わるようになったら、食の未来は明るいと思う。家でできる小さなことからで良いので」と語り、展示ブースにはペットボトルで育てる稲の苗も用意されていました。

米農家さんのブースではお米1袋と稲の苗を約1500円で販売

 最後のシェフは、趣味のダイビングで海の生き物に関心を持ち、過剰漁獲の実情を知ったそうで、水産資源や環境に配慮した持続可能な漁業で獲られた魚介にはMSC認証ラベル(MSC「海のエコラベル」)が付いていると教えてくれました。消費者にできるのは、そのラベルがある魚介を購入することだ、と。

MSC認証ラベルの説明

 今回3人のお話を聞き、生産者が食の未来を守るためにどれほど努力しても、消費者や販売者が意識を変えていかないと、食の安全や安定は保障されないのだと改めて感じましたね。

 半農生活を志しながらも、ここ数年は日々の子育てや仕事で手一杯になり、外食やインスタント食品に頼る日も増えていた私…。「こんな状況でも自分にできることは何だろう?」と考えた末、まずはこうして人に伝えることから始めようと思い、今回こうして書き残すことにしました。

 さて、ここからは写真でブックフェア最終日の様子をご紹介します。

    最後にリンクを貼っている音声配信『韓国に住んだらこうなった』では、ここに書ききれなかったブックフェアのレポートと、私が好きな韓国人作家さんとおすすめの小説、ブックフェアの会場となったCOEXのおすすめスポットもご紹介していますので、併せてお楽しみくださいね。

スラムダンクの単独ブース。大人気で入り込むすき間なし
「韓国で最も美しい本」の展示コーナー
独立出版社や作家個人のブースも大人気。午後には人が溢れかえっていました
台湾とカナダの本に触れられる場所
フランスの本もたくさん
フランス語の絵本の読み聞かせが行われていました
韓国の昔の教科書も
韓国のSF小説家、ファン・モガさんの新刊を購入したのはウネンナム出版のブースで
こんな感じで出版社が本を展示・販売しています。本の価格は定価の10%引き
トマトさんの隣で大人気だったハチミツ農家さんのブース
トマトさんのブース午後の様子。来場者が次々と訪れ休む暇もなし
エアルームトマトの試食も大人気
COEX内に2017年に誕生した「ピョルマダン図書館」
床から天井まで並ぶ本の存在感に圧倒されます

▲音声配信、新しいエピソードはこちら
『人生を変えた「ソウル国際図書展』へ。おすすめ韓国小説も』

《番組内容》 
8年ぶりに訪れた2023ソウル国際図書展(ブックフェア)のお話と、私が好きな韓国の小説家や作品、図書展が開かれたCOEXのおすすめスポットなどを紹介しています。/2023.06.22収録


この記事が参加している募集

海外文学のススメ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?