望月 翔

バーテンダーです。 よろしくお願いいたします🙇 興味を持って頂けたなら幸いです。 …

望月 翔

バーテンダーです。 よろしくお願いいたします🙇 興味を持って頂けたなら幸いです。 まもなく三十路の空想家です。

記事一覧

⑧サージャント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド

 誰かが囁き合っているのが聞こえる。  私が声の方を振り返ると、声の主の一人がこちらに向かってきて、笑いかける、 「悪かったな。」と聞こえた気がした。 「ううん…

望月 翔
2年前

⑦お節介

 長いこと眠っていたように思う。 ベット上の天井に記憶のないシミを見つけて、 少しずつ見え方が変化していくのを眺めては、 しっくりする答えを出そうと目を閉じて、…

望月 翔
2年前
2

⑥自称元ミュージシャン

 あれから、 バンドメンバーからの連絡はなかった。 今となっては私も含めもう元メンバーか。 なんだか報道で使われる蔑称みたいで、奇妙なおかしみを感じる。 まだ何…

望月 翔
2年前
1

⑤悪魔のささやき

 お父さん。悪魔はいたよ。  初めて悪魔と会ったその時のように 私は心底恐怖していたが、 今度は悪魔の演奏をしっかり見届けようと思った。 天使でも、悪魔でもなん…

望月 翔
2年前
1

④クロスロードの悪魔 2/2

 その晩、早めに寝た私は、11時半にセットしたアラームを鳴り出す前に止め、 両親が寝ているのを確認し、ギターを担いで家を出た。 それが間違いだった。    空は黒…

望月 翔
2年前
3

③クロスロードの悪魔 1/2

「音楽には悪魔が宿ってるんだ。」 父は私にギターを教えながら、そんなほら話を始めた。    当時中学2年になった思春期真っ只中の私が父親と話しているのは、 紛れ…

望月 翔
2年前
2

②ロックンロールが死んだ日

 ロールが死んだ。 みたいなことを言っていたのは誰だったっけ? ロックが死んだと叫んでいたのは、父だった。確か2009年の5月の初め。  私のロックは今日、死ん…

望月 翔
2年前
1

①バンギラスの弾丸

お父さんが出かけたのを見計らって、 私は古ぼけたギターをひっぱり出す。 押し入れの奥の方、 母さんに見つからないように、 ちょっと匂いそうな革ジャンがつまれた、…

望月 翔
2年前
3

そば菊

 昔から、庶民の楽しみってのは、「呑む打つ買う」つって、夜だけやってりゃまだマシな方なんだが。昼までやり始めちまう、しまいにゃ、着物や商売道具なんかも質に入れて…

望月 翔
2年前
2
⑧サージャント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド

⑧サージャント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド

 誰かが囁き合っているのが聞こえる。

 私が声の方を振り返ると、声の主の一人がこちらに向かってきて、笑いかける、

「悪かったな。」と聞こえた気がした。

「ううん。大丈夫。」今度は恐れずちゃんと話すことができた。

「大きな者よ。済まなかった。」今度は、先ほどとは別の、金髪でネルシャツの人が言った。

大きな者って、私は女性の中でも背は低い方なのに、と思うが、

確かに彼らは私よりはるかに小さ

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⑦お節介

⑦お節介

 長いこと眠っていたように思う。

ベット上の天井に記憶のないシミを見つけて、

少しずつ見え方が変化していくのを眺めては、

しっくりする答えを出そうと目を閉じて、頭の中をほじくりさぐっていた。

脈絡もなく目の前に金色に輝くシンバルが現れて、誰かがそれを思い切り叩こうとするので、

危機感を感じて、必死になって止めようとしていた。

―やめて、終わっちゃう。

はっと目を開けると、何かの音の余

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⑥自称元ミュージシャン

⑥自称元ミュージシャン

 あれから、

バンドメンバーからの連絡はなかった。

今となっては私も含めもう元メンバーか。

なんだか報道で使われる蔑称みたいで、奇妙なおかしみを感じる。

まだ何者にも成れなかった私たちに

そのような社会的地位も与えられてはいないのだが。

 

 一緒に集まって何かしてるだけで、よかった。

絶えず溢れ出てくるエネルギーを持て余していたし、

声に出して言うには恥ずかしい何かをどうにかす

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⑤悪魔のささやき

 お父さん。悪魔はいたよ。

 初めて悪魔と会ったその時のように

私は心底恐怖していたが、

今度は悪魔の演奏をしっかり見届けようと思った。

天使でも、悪魔でもなんでもいいから、

私にロックを与えてほしい、

世界を魅了する力を私にください。

 ギターが空気をふるわせていく。

私をベットから連れ出した曲は、絶望への向きあい方を歌う、

あの時父が歌ったように、悪魔が好まなそうなやつ。

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④クロスロードの悪魔 2/2

④クロスロードの悪魔 2/2

 その晩、早めに寝た私は、11時半にセットしたアラームを鳴り出す前に止め、

両親が寝ているのを確認し、ギターを担いで家を出た。

それが間違いだった。

 

 空は黒雲が立ち込め、切間から月が私を覗いている、

いかにもな夜だった。

 こんな時間に外に出るのは初めてだったし、

誰ともすれ違うことのない通学路は、新鮮な空気を発している。

陰の世界が私を魅了していく。

 父の部屋から持って

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③クロスロードの悪魔 1/2

③クロスロードの悪魔 1/2

「音楽には悪魔が宿ってるんだ。」

父は私にギターを教えながら、そんなほら話を始めた。

 

 当時中学2年になった思春期真っ只中の私が父親と話しているのは、

紛れもなくギターがあったからで、

興奮気味に語る父親の自慢話などは、

正直鬱陶しかったが。

 タバコ臭い、靴下が臭い、シャツの襟が黄ばんでる、

シャンプーを勝手に使う、トイレの鍵をかけない、録画したビデオに勝手に上書きする、

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②ロックンロールが死んだ日

②ロックンロールが死んだ日

 ロールが死んだ。

みたいなことを言っていたのは誰だったっけ?

ロックが死んだと叫んでいたのは、父だった。確か2009年の5月の初め。

 私のロックは今日、死んだ。

いや元から、ロックがなかった、ようだ。

 いけすかないやつだな。と思った。

何かにつけてロックが、ロックは、ロックに、ロックのさぁ、と偉そうにいう。

とにかくうるさいフぁ××野郎で、こんな審査員は嫌だ、と私は思った

 

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①バンギラスの弾丸

①バンギラスの弾丸

お父さんが出かけたのを見計らって、

私は古ぼけたギターをひっぱり出す。

押し入れの奥の方、

母さんに見つからないように、

ちょっと匂いそうな革ジャンがつまれた、その下。

黒いケースは擦れて、中の木材が剥き出しになって、

鍵ができる仕様の止め金具は、錆びて取れかけている。

ムッとした臭気が鼻を突く、

革ジャンから漂ってくるのと同じ種類の

タバコとカビの、褪せた匂い。

すぐに匂いも

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そば菊

 昔から、庶民の楽しみってのは、「呑む打つ買う」つって、夜だけやってりゃまだマシな方なんだが。昼までやり始めちまう、しまいにゃ、着物や商売道具なんかも質に入れてもまだ足りねえ、なんて、どうしようもねえのがいまして。困っちまうのは、それを支えるかみさん。
 蕎麦打ちの勝五郎また、腕はいいが、どうしようもねえ。蕎麦屋を持つのが夢だなんて言ってはいるが、夜も昼もの道楽者。そんな旦那を細く長くと支える奥さ

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