望月 翔

バーテンダーです。 よろしくお願いいたします🙇 興味を持って頂けたなら幸いです。 …

望月 翔

バーテンダーです。 よろしくお願いいたします🙇 興味を持って頂けたなら幸いです。 まもなく三十路の空想家です。

最近の記事

⑧サージャント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド

 誰かが囁き合っているのが聞こえる。  私が声の方を振り返ると、声の主の一人がこちらに向かってきて、笑いかける、 「悪かったな。」と聞こえた気がした。 「ううん。大丈夫。」今度は恐れずちゃんと話すことができた。 「大きな者よ。済まなかった。」今度は、先ほどとは別の、金髪でネルシャツの人が言った。 大きな者って、私は女性の中でも背は低い方なのに、と思うが、 確かに彼らは私よりはるかに小さかった。 「悪気はなかったんだ。」と少し俯き気味に続ける。ただギターが弾きたか

    • ⑦お節介

       長いこと眠っていたように思う。 ベット上の天井に記憶のないシミを見つけて、 少しずつ見え方が変化していくのを眺めては、 しっくりする答えを出そうと目を閉じて、頭の中をほじくりさぐっていた。 脈絡もなく目の前に金色に輝くシンバルが現れて、誰かがそれを思い切り叩こうとするので、 危機感を感じて、必死になって止めようとしていた。 ―やめて、終わっちゃう。 はっと目を開けると、何かの音の余韻が部屋にはあった。 私が声を発したのか、それともシンバルが鳴らされてしまった

      • ⑥自称元ミュージシャン

         あれから、 バンドメンバーからの連絡はなかった。 今となっては私も含めもう元メンバーか。 なんだか報道で使われる蔑称みたいで、奇妙なおかしみを感じる。 まだ何者にも成れなかった私たちに そのような社会的地位も与えられてはいないのだが。    一緒に集まって何かしてるだけで、よかった。 絶えず溢れ出てくるエネルギーを持て余していたし、 声に出して言うには恥ずかしい何かをどうにかする方法が 私たちには思いつかなかった。 だから、たまたま私が持っていたギター

        • ⑤悪魔のささやき

           お父さん。悪魔はいたよ。  初めて悪魔と会ったその時のように 私は心底恐怖していたが、 今度は悪魔の演奏をしっかり見届けようと思った。 天使でも、悪魔でもなんでもいいから、 私にロックを与えてほしい、 世界を魅了する力を私にください。  ギターが空気をふるわせていく。 私をベットから連れ出した曲は、絶望への向きあい方を歌う、 あの時父が歌ったように、悪魔が好まなそうなやつ。 私がその曲を知ったのは、テレビのニュース番組の中で、バンドはもう解散していて、そ

        ⑧サージャント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド

          ④クロスロードの悪魔 2/2

           その晩、早めに寝た私は、11時半にセットしたアラームを鳴り出す前に止め、 両親が寝ているのを確認し、ギターを担いで家を出た。 それが間違いだった。    空は黒雲が立ち込め、切間から月が私を覗いている、 いかにもな夜だった。  こんな時間に外に出るのは初めてだったし、 誰ともすれ違うことのない通学路は、新鮮な空気を発している。 陰の世界が私を魅了していく。  父の部屋から持ってきた時計を確認する、0時まであと二十分程だった。 二曲演るとして、一曲4、5分

          ④クロスロードの悪魔 2/2

          ③クロスロードの悪魔 1/2

          「音楽には悪魔が宿ってるんだ。」 父は私にギターを教えながら、そんなほら話を始めた。    当時中学2年になった思春期真っ只中の私が父親と話しているのは、 紛れもなくギターがあったからで、 興奮気味に語る父親の自慢話などは、 正直鬱陶しかったが。  タバコ臭い、靴下が臭い、シャツの襟が黄ばんでる、 シャンプーを勝手に使う、トイレの鍵をかけない、録画したビデオに勝手に上書きする、 嫌いになる理由を挙げればキリがない。  徐々に二人で会話は交わさなくなり、

          ③クロスロードの悪魔 1/2

          ②ロックンロールが死んだ日

           ロールが死んだ。 みたいなことを言っていたのは誰だったっけ? ロックが死んだと叫んでいたのは、父だった。確か2009年の5月の初め。  私のロックは今日、死んだ。 いや元から、ロックがなかった、ようだ。  いけすかないやつだな。と思った。 何かにつけてロックが、ロックは、ロックに、ロックのさぁ、と偉そうにいう。 とにかくうるさいフぁ××野郎で、こんな審査員は嫌だ、と私は思った  バンドのみんなが不安そうな顔でこちらを見ている。 見せつけてやろうよ、私たちの

          ②ロックンロールが死んだ日

          ①バンギラスの弾丸

          お父さんが出かけたのを見計らって、 私は古ぼけたギターをひっぱり出す。 押し入れの奥の方、 母さんに見つからないように、 ちょっと匂いそうな革ジャンがつまれた、その下。 黒いケースは擦れて、中の木材が剥き出しになって、 鍵ができる仕様の止め金具は、錆びて取れかけている。 ムッとした臭気が鼻を突く、 革ジャンから漂ってくるのと同じ種類の タバコとカビの、褪せた匂い。 すぐに匂いも気にならなくなった、 あまりにそれがきれいだったから。 初めてみるそれは、大

          ①バンギラスの弾丸

          そば菊

           昔から、庶民の楽しみってのは、「呑む打つ買う」つって、夜だけやってりゃまだマシな方なんだが。昼までやり始めちまう、しまいにゃ、着物や商売道具なんかも質に入れてもまだ足りねえ、なんて、どうしようもねえのがいまして。困っちまうのは、それを支えるかみさん。  蕎麦打ちの勝五郎また、腕はいいが、どうしようもねえ。蕎麦屋を持つのが夢だなんて言ってはいるが、夜も昼もの道楽者。そんな旦那を細く長くと支える奥さんがおりました。     「ねぇ、あんた。あんた、早く起きてくれよ。お天道様