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400字程度で書かれた小説たち。ライフワークであーる。 2020年4月11日より2023年12月31日まで 「なかがわよしのは、ここにいます。」(https://nkgwysn.…
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#掌編小説

【400字小説】微妙に通じ合えない

【400字小説】微妙に通じ合えない

はちみつではなく、水だった。
キッスを朝死んだら聴きたい。
ニュ~トラルに生きてえええって長渕剛とは
真逆で、やさしいあなた。
わたしのすべてを伝えたら、あの人とは疎遠になった。

キーボードを叩く音がうるさくて、
隣のお姉さんに睨まれている。
Winkするほど寂しい熱帯魚ではない。
金が必要で最低な男。
借りた金は返さない友永、
パチンコで勝った時だけおごってくれた田川、
貸したギターをメルカリ

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【400字小説】熊谷で会いたくない

【400字小説】熊谷で会いたくない

アフロディーテギャングになりたいって、
一行のLINEを送りつけてきた
雲の彼方のお前に返す言葉はない。
犯罪者であることに間違いない。
一ヶ月、ずっと舐達麻を聴いてるくらいだから
沼ったと言っていいけれど、
だからって移住するには早すぎないかい?

ありがとうの数だけ別れはある。
お前には世話になりっぱなしで、
礼のひとつも返せてない。
俺も俺なりにお前に尽くした。
スタバしょっちゅうおごってや

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【400字小説】性癖不足

【400字小説】性癖不足

足の甲を踏んでほしいという性癖。
行為の最中は、そういう気持ちにならないけれど、
終わった途端、無性に踏んでほしいと思っちゃうんだよね。

歴代の彼氏はベッドから出て、
立ったわたしの足の甲を裸足のそれで
踏んでくれる人たちばかりだった、やさしみ。

でも、オーノくんはしてくれない。
彼の性癖は終わった後、そのまま寝落ちすることで、
果てるとスイッチが入ったかのようにカチッと眠り出す。
寝顔を見て

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【400字小説】ビリが一番bang

【400字小説】ビリが一番bang

小学校の時にさ、リレーの選手に
なれなかったんだよね、6年生の時。
その上、運動会当日のかけっこでは
死のグループに入っちゃって、予定調和のようにビリ。

悔しくて泣いたのは、あれからないな。
高校野球部、最後の夏に負けた時も泣いたけれど、
あれは悔しかったのではなく、演出でした。
泣くのが美しかった。
あの時はね、そう思ってたんだよね。

ほかの野球部のメンバーは何で泣いたんだろうか。
めっちゃ

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【400字小説】平均的な天才

【400字小説】平均的な天才

「切腹してお詫びしますっ」と
営業成績優秀の生原が
課長のデスクの前で土下座。
まさか本当に脇差を持っているなんて
思いもしなかったから、初動が遅れた。
それと併せて野次馬な心も出たのは正直なところ。
「まさか刺さないだろ」とも高を括っていた。

刺した瞬間のリアクションは
人間としては正直なそれだったと感じる。
俺も含めたオフィスの誰一人、
身動きできなかったのが、その証拠。
2・0秒してやっと

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【400字小説】マッチョなムード

【400字小説】マッチョなムード

精神障がい者に理解があると思ってた。
でも、面接でのやわらかい態度から、
入社して一転、初日から手のひら返しで、厳しく。
わたしは笑うほど驚いちゃって、混乱。
「いいからやれ!」と怒鳴られて、
同僚たちも「ブラック企業だって、
黙っててごめんね」みたいな顔をしていて、
わたしは恨む寸前で、
なぜか同情してしまった、彼らを。

それで正気に戻って「大きな声、
出さないでください!」と強気になれた。

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【400字小説】左右

【400字小説】左右

横断禁止の四車線の車道を渡ろうとカズマは。
車が来ないから渡ろうとした、その時、
スマートフォンが鳴って確認するとナナからの着信だった。
出るなりナナは「今、大丈夫?」と訊いた。
その直後、中央分離帯の低い段差に
足を引っかけてしまい、見事に転倒。

そこへさっきいなかったはずの
白い軽トラックが向かってくる。
腕に鈍痛が走って、起き上がれない、
轢かれることを覚悟。

軽トラックも危険を察知、

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【400字小説】水平

【400字小説】水平

天秤座のタカヒロは青葉市子に夢中で
B’zが好きなマユを愛してはくれない。
マユはバカにされてるのも知ってる。
ただ、愛することだけに徹する。

昨夜、マユはバンドの練習中に豚汁を差し入れて、
からかわれていたタカヒロが、
とりあえず「ありがとう」と言ってくれたことに昇天。

「メンバーもおいしかったって言ってた」という
LINEが来ないか期待、
でもいつまで待っても来ない。

豚汁の入っていた鍋

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【400字小説】蓮

【400字小説】蓮

寺の大きな池にハツジマは酔っ払って飛び込んだ。
亀が驚いて大量に岸にあがる。
真夜中のことだったので、その気持ち悪さは見えなかったが、
ヘドロの汚臭がハツジマの鼻をもぐような痛さで捻り潰した。
酔っ払っていた意識もしゃっきり(した気が)。
真冬だから風が冷たい。
死のうとして池に飛び込んだことはアホである。
死への憧れだけが、風の強さに比例していた。

だけれど、寒くて死のことなど、どこへやら。

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【400字小説】トレー

【400字小説】トレー

不思議に思っているのが、
水や空気を固めて持ち運んだりできないこと。
なぜ手のひらに収めてしようとするのに
できないんだろうって、ハヤオは考えちゃうよね。

ジローは当初、面白おかしく
ハヤオの哲学的疑問に対して
ウンウンと頷いていたのだけれど、
さすがにうざったくなっちゃった。

アルバイトで週に3日も会って、
その昼食中ずっと哲学されたもんじゃ、
たまったものではない。
今日もバイトの賄いをお

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【400字小説】頭

【400字小説】頭

難解なレディオヘッドが好きな19歳のマキコには、
まわりにそんな友だちはいなかった。
聴き始めたのは父親の影響で
『クリープ』に強烈な衝撃を。
中2の時だから早熟だったと言える。

父からCDを借りるのが照れ臭くて、
Spotifyが素晴らしいことを
家族にプレゼンして、加入にこぎつける。
それから全アルバムを視聴、まんまと泥沼に。
近くのTSUTAYAが潰れたから
サブスクにしておいて良かったな

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【400字小説】五輪

【400字小説】五輪

長野五輪、他人事で済ませていた
ヨシイは、長野県民なのに。

1998年、開催年だけは言える。
でも、誰が活躍したのかは
リアルタイムでは知らなかった。

あまのじゃくでテレビも持っていなかった、
当時、一人暮らし。
NHKの受信料を徴収されるのを拒んでいた。
実際、テレビ見てなかったんだもの。
それで徴収に来るおじさんと
喧嘩になることがあって、
仕方なく彼女のキヨミヤが間に入って、
白黒テレビ

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【400字小説】棒

【400字小説】棒

昨夜、深い2時までSTAND FM.聞いちゃって
頭がボーッとしている。
気晴らしのために聞いていたのに
やめられなくて、逆効果。

睡眠が大事なのは身を持ってわかっているつもり、イズミ。
イケボに吸い込まれて聞き入り、
最後に時間を確認した
1時58分以降の記憶がない。

寝落ちしてしまって、猫の《ボーちゃん》に
起こされた、朝、5時。
もうスタエフはほどほどにしようって心に決める。

安眠棒っ

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【400字小説】夕方

【400字小説】夕方

大学のジャズ研究部に入ってからというもの、
スピリチュアル・ジャズにハマってしまった。
そんなヤナギダはサックスを50万円で買った、
2年生の夏に、バイトでコツコツとお金を貯めて。

なかなかのイケメンだったが、
恋人ができなかったのは当然だろう。
暇さえあれば音楽のサブスクリプションを
聴いていたからだ。

ところが気まぐれで友人と
夏に海に行った際、逆ナンされて、
まんまと恋に落ちて、夜の営み

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