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Dear.

20
あなたのかけらを拾って、
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#短編小説

同じ指輪

同じ指輪

彼女は毎日同じ指輪を付けていた。
たまには変えればいいのにと言えば「外したくなったらね」と笑った。

あの頃の母の年齢に並んだ今、私の指輪を娘がいじる。
邪魔なら外そうかと言うと首を振って、
「すきだからつけてるんでしょう?」

的外れに的を射た言葉の中に、いつかの答えを見つけた気がした。

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土曜日の電球 企画 『結婚』。

月が僕を、僕が月を

月が僕を、僕が月を

僕の世界が終わった日、僕は僕を見失った。
公園にも屋上にも桜の下にもいなかった。

時計だけがお喋りする部屋で僕は僕を探してた。
漏れる光を遮ろうとカーテンに手をかけたとき、窓から覗いたのは月だった。
誰を照らすでもない月が僕を照らしていた。

月が僕を見つけた日、世界はまだ続くのだと知った。

(見つけたのは、どちらだったんだろう)

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炭酸ソーダの雨様の土曜日の電

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囚われたのは

囚われたのは

寝転んで薄紅に世界を染める。
春と呼ぶには冷ややかで、冬と呼ぶには色付きすぎたこの季節が好きだ。
祝福と寂寥の境界線が滲んで、まるで同じもののように見える。

君がいた日々だけが春だった。
一番好きで一番嫌いな季節。
それだけを握り締めてここまで来た。

春はまだここにいる。
僕はまだここにいる。

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今週も土曜日の電球企画に参加させて頂きました(●︎´▽︎`●︎)

ハナビエ

ハナビエ

桜が咲くのが怖かった。
だから今日みたいな冷たい夜は安心する。
春がまた遠ざかるような気がして。

こんな夜をなんて呼んだだろう、いつか君が嬉しそうに教えてくれたのを思い出す。

「           。冬と春の逢瀬なんだよ」

今はまだ忘れていよう。
もう少し君の事を考えていたいから。

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twitterで炭酸ソーダの雨さまの土曜日の電球企画に参加させていただ

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春はまだ眠らない



寝付いたのは午前二時前だ。
アラームを七時半に合わせながら、たぶん寝過ごすだろうと思った。
それなのに、音もなく目を覚ましたのは四時を過ぎた頃だった。

毎年、彼女がいなくなった時間を眠ったまま過ごしてきた。
今年は起きていようか、と悩むのも毎年のことで、例にもれず考えたせいなのだろうけれど、それにしても早過ぎる。
正確な時間は覚えていないが六時台であることは確かだ。
確認しようかと体を起

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沈丁花が咲きました。

沈丁花が咲きました。



香りは記憶を巻き戻します。
だから、この花があればいつでもあの場所に帰れるんです。
忘れずにいられるんです。

沈丁花に囲まれた密やかな空間が、たった一つの自分の部屋でした。

ベランダの沈丁花が咲きました。
この香りが消える頃、春が来ます。
春になったら、あの町へ帰ろうと思います。

家も学校も沈丁花もベンチも、大事なものは何もなくなってしまったけれど、小さな公園に桜が咲きます。
マンシ

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雲が踊る日。

正装に身を包んだ人々が集まっている様は入学式にも葬式にも見えた。
並んで歩いていた少女が足を止め、振り返って手を振る。
誰かいたの、と聞いた。

「雲が踊ってたの」

明るい声で答える少女に、そっか、と返す。
この年頃の子は第六感が強いというから、見えないものが見えているのかもしれない。
そんなことを考えていると、少女は大きく空を仰いで、

「パパとママがいるのを当たり前だと思ってる子

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What would you like Santa Claus to bring you?

目を開けたら、暗闇の中にぼやりと人影が見えた。
不思議と恐怖はなく、ああそうか今日はクリスマスかとぼんやり思った。

カーテンの隙間から漏れる光に照らされ、赤と白の服が浮かび上がる。
ほらやっぱりサンタクロースだ。

「君が一番欲しいものを持ってきたんだ」

袋から出てきたのは古びた一枚の写真だった。
優しい目元をくしゃりと細め、女性が微笑んでいる。
左下に指の陰が写りこんだそれは

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