雲が踊る日。

正装に身を包んだ人々が集まっている様は入学式にも葬式にも見えた。
並んで歩いていた少女が足を止め、振り返って手を振る。
誰かいたの、と聞いた。

「雲が踊ってたの」

明るい声で答える少女に、そっか、と返す。
この年頃の子は第六感が強いというから、見えないものが見えているのかもしれない。
そんなことを考えていると、少女は大きく空を仰いで、

「パパとママがいるのを当たり前だと思ってる子ってきらーい」

と棘のある声で言った。
しかし次に少女の顔に浮かんだのは無邪気な笑顔で、一秒ごとに変わる表情はまるでスライドショーのようだ。

「あたしは絶対、幸せな結婚をして子供を生むの」

予想外の言葉に目を見開くと、少女は不思議そうに首を傾げる。
私はとまどいながら口をひらいた。

「最初の言葉はおんなじこと思ってたけど、二つ目は考えたこともなかった」

少女は笑って、その場でくるりと回って見せた。
スカートの裾が緩やかに揺れる。
まっすぐ伸ばされた人差し指が空を突きさした。

「あたしたちは幸せになるんだよ」

示された先を見上げる。
吸い込まれそうな、驚くくらい澄んだ青だった。
視線を戻すと、少女はもういなかった。
そっかと小さくつぶやいて、もう一度空を見上げて手を振った。

「誰かいたの?」

いつのまに側まで来ていたのだろう、後ろから彼が不思議そうに尋ねた。
私は曖昧な返事をして、くるりと振り返る。
スカートの裾が緩やかに揺れた。
そのまま彼の手を取って歩きだすと、彼は困ったように笑って握り返してくれた。

大丈夫だ、私たちは幸せになる。
見えないけれど、きっと雲は踊っているんだろう。

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夢で見た物語に、この前のライブで聴いた『ひこうき雲』のイメージをほんのり。

#短編小説
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