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小説《魂の織りなす旅路》

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光たちからのメッセージ小説。魂とは?時間とは?自分とは?人生におけるタイミングや波、脳と魂の差異。少年は己の時間を止めた。目覚めた胎児が生まれ出づる。不毛の地に現れた僕は何者なの…
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#波動

連載小説 魂の織りなす旅路#11/胎内⑴

連載小説 魂の織りなす旅路#11/胎内⑴

【胎内⑴】

 私は私に境界線があることを知らなかった。

 無限に広がる胎内は、たくさんのさまざまな波動で満ちていて、私はこれらの波動と繋がり、混じり合う、無限に広がった大きなひとつの生命体だった。この生命力に溢れた穏やかな無限の広がりが、胎内にいる私をいつも優しく包み込んでくれていた。

 母はいつも、私に話しかけてきてくれた。母の意識が波動を通じて伝わってくると、私も波動を通じてそれに応じる

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連載小説 魂の織りなす旅路#12/胎内⑵

連載小説 魂の織りなす旅路#12/胎内⑵

【胎内⑵】

 それらの境界線はどれも似通った形をしていたけれど、ひとつも同じものはなくて、大きさもさまざまだった。共通点は上部が楕円で、左右にある細長いものが頻繁に動き、下部が2つに分かれていること。

 特に左右にある細長いものの動きは、見ていて飽きなかった。見ているといっても、映像として見ていたわけではないのだけれど。その細長いもので、ときおり母と私の波動に触れてくる父は、いつも波動ではなく

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連載小説 魂の織りなす旅路#19/お父さん

連載小説 魂の織りなす旅路#19/お父さん

【お父さん】

 係員のお兄さんが、腰ベルトをカチッと閉めた。ブザー音が鳴り響き、周りの景色が少しずつ動き始める。地面が遠のき、体が宙に浮いていくのが嬉しくて、私は足をブラブラさせた。視界が広がり、空がどんどんと大きくなっていく。

 私は波動を解放し、波動で風を感じた。波動で空の大きさを感じ、波動で空飛ぶ鳥を感じる。そうして私は、全身で波動の歓びを味わう。
 なんて気持ちがいいんだろう。私が手を

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連載小説 魂の織りなす旅路#36/時間⑴

連載小説 魂の織りなす旅路#36/時間⑴

【時間⑴】

 炎の変幻自在な動きに、魂の波動が共鳴する。この波動が身体のあらゆる組織を振動させると、私は物質世界からの解放を感じて恍惚となる。
 本当は、休日のたびにひとりキャンプがしたいのだけれど、女性のひとりキャンプは危険がつきものだ。危険を回避するために、キャンプ場で人の多い場所を選ぶなど本末転倒なので、休日のたびにとはいかないけれど、私はグランピングを利用している。

 「これは夜にお勧

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連載小説 魂の織りなす旅路#56/苦難

連載小説 魂の織りなす旅路#56/苦難

【苦難】

 境目に在る僕の波動は、深い愛と慈しみに満ちた始まりの者の波動にいつも共鳴している。境目に在る僕が始まりの者の波動とひとつになったとき、少年の内に在る僕は始まりの者の波動で満たされる。

 あるとき僕は、唐突に貫かれるような激しい痛みに襲われた。僕はのたうち回りもだえ苦しみながら、とうとう僕にもこのときが訪れたのだと悟った。
 境目には数え切れないほどの魂が在る。僕は、ここでもだえ苦し

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連載小説 魂の織りなす旅路#57/動き始めた時間

連載小説 魂の織りなす旅路#57/動き始めた時間

【動き始めた時間】

 青年になった彼の時間は止まったままで、僕は相変わらず彼の脳にしがみ続けている。

 最近彼は、大学図書館の裏庭で恋をした。彼女の柔らかな波動が彼の脳を心地よく愛撫する。

 「今日の風は柔らかいね。」

 「あの空の透けるような青が好き。」

 「今日は本の文字が楽しげに踊っているように見えるの。」

 「あの鳥の鳴き声は悲しげに聞こえるね。」

 彼女の言葉はいつも彼の五

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連載小説 魂の織りなす旅路#58/赤ん坊

連載小説 魂の織りなす旅路#58/赤ん坊

【赤ん坊】

 ようやく流れ始めた彼の時間は、あくまでも彼女の波動に共振した、彼女の時間とともにある時間だ。彼の自立した時間ではない。だから僕は、相変わらず彼の体の境界線の内に閉じ込められたままだったし、境目に在る僕もひとりきりのままだった。

 今僕は、再び彼の脳を揺さぶるであろう苦悩を思い描き、身震いしている。彼の脳が妻を助けて欲しいと、哀願するように祈り続けているのだ。
 彼の脳は妻の意思を

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連載小説 魂の織りなす旅路#59/魂の解放⑴

連載小説 魂の織りなす旅路#59/魂の解放⑴

【魂の解放⑴】

 このところ、娘が言っていた〈魂の解放〉という言葉が頭にこびりついて離れない。娘は魂で妻と会話をしていたと言う。しかし、言葉を介さない会話だなんて、僕には理解ができないし想像すらできない。
 娘は「これからよ」と軽い口調で言った。それは僕もいずれそれができるようになるということだろうか。しかし、妻はもういない。娘の話は、妻が生きていた頃の胎内での話なのだ。

 僕は縁側に向かうと

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連載小説 魂の織りなす旅路#60/魂の解放⑵

連載小説 魂の織りなす旅路#60/魂の解放⑵

【魂の解放⑵】

 「お父さん。おとぉさぁん。」

 娘の声に体がビクンと痙攣する。僕は重たい瞼を無理やり引き剥がすように目を開けた。

 「仕事を終えて居間に降りてきたら、縁側で寝ているんだもの。こんな時間まで縁側にいたら風邪ひいちゃうよぅ。」

 娘はお風呂を沸かしてくるねと、慌しく居間を出て行った。僕がここに座ったのは昼過ぎだ。ずいぶんと長い時間寝ていたものだ。ああ、あれか。音波だ。あれが気

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