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NAK &ひーちゃん
2023年3月3日 09:59
【胎内⑴】 私は私に境界線があることを知らなかった。 無限に広がる胎内は、たくさんのさまざまな波動で満ちていて、私はこれらの波動と繋がり、混じり合う、無限に広がった大きなひとつの生命体だった。この生命力に溢れた穏やかな無限の広がりが、胎内にいる私をいつも優しく包み込んでくれていた。 母はいつも、私に話しかけてきてくれた。母の意識が波動を通じて伝わってくると、私も波動を通じてそれに応じる
2023年3月6日 11:57
【胎内⑵】 それらの境界線はどれも似通った形をしていたけれど、ひとつも同じものはなくて、大きさもさまざまだった。共通点は上部が楕円で、左右にある細長いものが頻繁に動き、下部が2つに分かれていること。 特に左右にある細長いものの動きは、見ていて飽きなかった。見ているといっても、映像として見ていたわけではないのだけれど。その細長いもので、ときおり母と私の波動に触れてくる父は、いつも波動ではなく
2023年3月31日 06:17
【お父さん】 係員のお兄さんが、腰ベルトをカチッと閉めた。ブザー音が鳴り響き、周りの景色が少しずつ動き始める。地面が遠のき、体が宙に浮いていくのが嬉しくて、私は足をブラブラさせた。視界が広がり、空がどんどんと大きくなっていく。 私は波動を解放し、波動で風を感じた。波動で空の大きさを感じ、波動で空飛ぶ鳥を感じる。そうして私は、全身で波動の歓びを味わう。 なんて気持ちがいいんだろう。私が手を
2023年5月29日 15:14
【時間⑴】 炎の変幻自在な動きに、魂の波動が共鳴する。この波動が身体のあらゆる組織を振動させると、私は物質世界からの解放を感じて恍惚となる。 本当は、休日のたびにひとりキャンプがしたいのだけれど、女性のひとりキャンプは危険がつきものだ。危険を回避するために、キャンプ場で人の多い場所を選ぶなど本末転倒なので、休日のたびにとはいかないけれど、私はグランピングを利用している。 「これは夜にお勧
2023年8月7日 12:48
【苦難】 境目に在る僕の波動は、深い愛と慈しみに満ちた始まりの者の波動にいつも共鳴している。境目に在る僕が始まりの者の波動とひとつになったとき、少年の内に在る僕は始まりの者の波動で満たされる。 あるとき僕は、唐突に貫かれるような激しい痛みに襲われた。僕はのたうち回りもだえ苦しみながら、とうとう僕にもこのときが訪れたのだと悟った。 境目には数え切れないほどの魂が在る。僕は、ここでもだえ苦し
2023年8月11日 16:56
【動き始めた時間】 青年になった彼の時間は止まったままで、僕は相変わらず彼の脳にしがみ続けている。 最近彼は、大学図書館の裏庭で恋をした。彼女の柔らかな波動が彼の脳を心地よく愛撫する。 「今日の風は柔らかいね。」 「あの空の透けるような青が好き。」 「今日は本の文字が楽しげに踊っているように見えるの。」 「あの鳥の鳴き声は悲しげに聞こえるね。」 彼女の言葉はいつも彼の五
2023年8月14日 12:38
【赤ん坊】 ようやく流れ始めた彼の時間は、あくまでも彼女の波動に共振した、彼女の時間とともにある時間だ。彼の自立した時間ではない。だから僕は、相変わらず彼の体の境界線の内に閉じ込められたままだったし、境目に在る僕もひとりきりのままだった。 今僕は、再び彼の脳を揺さぶるであろう苦悩を思い描き、身震いしている。彼の脳が妻を助けて欲しいと、哀願するように祈り続けているのだ。 彼の脳は妻の意思を
2023年8月18日 15:46
【魂の解放⑴】 このところ、娘が言っていた〈魂の解放〉という言葉が頭にこびりついて離れない。娘は魂で妻と会話をしていたと言う。しかし、言葉を介さない会話だなんて、僕には理解ができないし想像すらできない。 娘は「これからよ」と軽い口調で言った。それは僕もいずれそれができるようになるということだろうか。しかし、妻はもういない。娘の話は、妻が生きていた頃の胎内での話なのだ。 僕は縁側に向かうと
2023年8月21日 16:53
【魂の解放⑵】 「お父さん。おとぉさぁん。」 娘の声に体がビクンと痙攣する。僕は重たい瞼を無理やり引き剥がすように目を開けた。 「仕事を終えて居間に降りてきたら、縁側で寝ているんだもの。こんな時間まで縁側にいたら風邪ひいちゃうよぅ。」 娘はお風呂を沸かしてくるねと、慌しく居間を出て行った。僕がここに座ったのは昼過ぎだ。ずいぶんと長い時間寝ていたものだ。ああ、あれか。音波だ。あれが気