連載小説 魂の織りなす旅路#36/時間⑴
【時間⑴】
炎の変幻自在な動きに、魂の波動が共鳴する。この波動が身体のあらゆる組織を振動させると、私は物質世界からの解放を感じて恍惚となる。
本当は、休日のたびにひとりキャンプがしたいのだけれど、女性のひとりキャンプは危険がつきものだ。危険を回避するために、キャンプ場で人の多い場所を選ぶなど本末転倒なので、休日のたびにとはいかないけれど、私はグランピングを利用している。
「これは夜にお勧めのハーブティー。」
焚火の上に吊り下げられたケトルから、真っ白な湯気が立ったのを見て、私はティーパックを入れたカップにお湯を注いだ。
「はちみつ入りのカモミールティーなの。3分待ってね。」
「波の音。炎の揺らぎ。ハーブティー。」
栞はうっとりとしながら呟く。
「こんな休日の過ごし方があったなんてね。ここは時間があってないようなもんね。私、時間に追われちゃってたんだなぁ。」
「このところ忙しそうだったから。」
「なんかね、いつも何かにせき立てられている感じ。焦燥感っていうのかなぁ。何かしていないと不安になるんだよね。」
「仕事のこと?」
「仕事だけじゃないかなぁ。なんだろ、全部。何もかもが中途半端な気がして、周りの人たちがみんなすごく見えちゃって。私は何もしてない、何もできてないって焦っちゃうんだよね。」
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