連載小説 魂の織りなす旅路#60/魂の解放⑵
【魂の解放⑵】
「お父さん。おとぉさぁん。」
娘の声に体がビクンと痙攣する。僕は重たい瞼を無理やり引き剥がすように目を開けた。
「仕事を終えて居間に降りてきたら、縁側で寝ているんだもの。こんな時間まで縁側にいたら風邪ひいちゃうよぅ。」
娘はお風呂を沸かしてくるねと、慌しく居間を出て行った。僕がここに座ったのは昼過ぎだ。ずいぶんと長い時間寝ていたものだ。ああ、あれか。音波だ。あれが気持ち良すぎて眠りが深くなったのだろう。
*****
今日も僕は縁側の籐椅子に腰を掛け、竹筒から水鉢へと落ちる水音に耳を傾ける。今度は寝入っても大丈夫なように、暖かな膝掛けを用意した。瞼を閉じるとすんなりと体が暗闇に溶け込んでいく。
どこまでが自分の体で、どこからが空間なのか。増幅してゆく水音の残響と心地よい音波の振動。どれくらい経っただろうか。僕はふと、体の奥底にほのかな光がともっていることに気がついた。
それは徐々に力を増し、僕の全身に輝きを放つ。その光輝が細胞の隅々にまで浸透すると、僕は途轍もない充足感に満たされた。そうして僕は知ったのだ。
これは・・・僕だ。
ああ、なんでこんな単純なことに今まで気がつかなかったんだろう。この光は僕だ。僕の魂だ。そう。僕は魂そのものなのだ。
僕は僕を体の境界線から思い切りよく、あらん限りの力を込めて四方へと解き放った。次の瞬間、清々しい朗らかな波動が解き放たれた僕の波動にそっと触れてきた。これは・・・これは、ああ、なんて懐かしい波動だろう。
君だ。君だね?
僕は僕の波動を妻の波動に重ね合わせた。妻の魂の震えに、僕の魂の震えが共振する。
大学図書館の湧水の水音がこだました。庭の水鉢に流れ落ちる水音の残響が2人を優しく包み込む。
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