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【自費ベッド】安い介護ベッドに潜む本当の代償とは?【介護保険外サービス】

この記事は2,644文字あります。
福祉用具レンタル事業所が抱える「自費レンタル」問題は、気付いている人は少ないながら介護業界における深刻な課題です。
私自身、長年福祉用具レンタル事業に携わる中で、この問題の本質を強く感じており、今回はこの記事を通じてその実態をわかりやすく説明する試みです。


自費レンタルとは?

介護保険制度は限られた資源を有効に活用するために設計されています。
そのため、比較的高価な電動介護ベッド(以下、特殊寝台という)や車いすの介護保険を適用したレンタルは、日常生活の動作が著しく制限され、より高度な介護や支援が必要となる要介護2以上の方に優先して行われます。
要介護2の具体例では、起き上がり・立ち上がり自力でのみで行う事が困難で、手すりや介助(補助)が必要な状態です。日常生活の多くの場面で介助が必要となり、自立した生活が困難です。
このため、必要な福祉用具に介護保険の適用がされるわけです。

自費レンタルは、介護保険を利用せずに利用者が全額自己負担で福祉用具(特殊寝台や車いす、杖等の個人が使用する福祉機器の総称)をレンタルすることを指します。
特に自費ベッド自費車いすは、要介護2未満(要支援1・2および要介護1)の介護区分認定が出ている軽度者向けの介護保険外のサービスです。

自費レンタルの低価格競争とその目的

自費ベッドの低価格競争は、福祉用具レンタル事業所にとって大きな問題です。
自費ベッドは、自由に価格を設定できるため、この競争に歯止めが効きませんせん。
福祉用具レンタルショップ(福祉用具貸与事業所という)において、介護保険サービス商品の特殊寝台一式が月額8,000円~13,000円程度で提供されているのと比較して、自費ベッドは一部の貸与事業所で500円~1,000円といった破格の値段で提供されており、これに対抗するために他の事業所も価格を下げざるを得ない状況にあります。
このような低価格競争は、事業所にとって大きな経済的負担となっています。

なぜ安価に提供するのでしょうか?
それは、自費ベッドのレンタルからスタートした介護区分が要介護2未満の軽度な利用者は、途中で事業所を変えることが少なく、最後まで同じ事業所が担当することが一般的です。
このため、利用者を囲い込むために、事業所間で自費ベッドの安売り合戦が激化するというわけです。
事業所は、ご新規の利用者が他社に流れないようにするため、利益を削ってでも価格を引き下げることを余儀なくされています。

福祉用具貸与事業所の自費ベッド提供方法

主に以下の2パターンに分かれます。
どちらの場合も、配送や設置、契約管理、撤去などに対応する人員や運搬車両のコストがかかり、安価に提供した場合は赤字になることが多いです。
これらのコストを考慮すると、自費ベッドの提供価格は非常に低く設定されているため、事業所の経営に大きな影響を与えています。

  • 自社で所有している旧式の特殊寝台を自費ベッドとしてリユースし、非常に低価格で提供する

  • 在庫を持たない事業所は、レンタル卸会社からベッドを借用して自費ベッドとして貸し出す

制度と実際の運用のギャップ

福祉用具貸与事業所と契約するのは利用者ですが、一般的に利用者のケアプランを管理(マネジメント)するのはケアマネジャーのため、事業所を複数提案しなければならない建前としてのルールはありますが、多くの場合はケアマネジャーが使用する福祉用具貸与事業所の選定を担っています。

例外給付

要介護2未満の軽度者であっても、身体的に必要な状態であれば例外給付を利用して介護保険を利用してレンタルすることは制度上可能で、これを例外給付といいます。
保険者(自治体)によってルールは多少異なりますが、例外給付を受けるには、ケアマネジャーとの相談、医師の意見書の取得、介護認定審査会への提出などの手順を踏む必要があります。

手続きの面倒さから自費ベッドへ流れるケース

一般的に例外給付を受けるためには、主治医意見書の取得が必要であり、この手続きが煩雑であるため、すぐにベッドが必要な場合や、軽度の利用者が特殊寝台を必要とする場合、手続きの簡便さや即時性を求めて自費ベッドが選択される傾向にあります。
これは、特に退院後間もない時期や緊急時に顕著です。

ケアマネジャーが例外給付を渋る

ケアマネジャーが例外給付を渋る理由には、他の介護保険サービスを減らす必要が生じることや、介護保険を使用した場合よりも安価に同等の機能を持つベッドを借りられることが挙げられます。
例えば、介護保険を利用することで他の必要なサービスに影響が出る可能性があるため、ケアマネジャーは自費ベッドを推奨することがあります。

自費ベッドの価格競争は、特殊寝台の存在価値を下げる結果につながっています。これは、低価格の自費ベッドが増えることで、特殊寝台の本来の価値が見えにくくなっているためです。
特殊寝台は、高度な機能を持つ介護用電動ベッドであり、メーカーが多額の研究開発費を投資して作ったその価値を適切に評価することが重要です。しかし、価格競争が激化する中で、利用者やケアマネジャーは、価格が安い自費ベッドを選ぶ傾向にあります。

自費レンタルのメリットとデメリット

  • メリット
    自費ベッドは、特殊寝台を借りることができない軽度の利用者にも福祉用具を提供できるという利点があります。
    さらに、一般的に安価で設定されているため、利用者の負担が少なく、手続きも簡単で迅速に導入できる点もメリットです。
    また、介護保険の申請中や退院後間もない時期など、緊急的に対応できることも自費レンタルの利点です。

  • 自費ベッドの低価格競争は、事業所の経営に悪影響を及ぼします。
    多くの事業所が赤字覚悟で低価格提供を行っており、これは長期的に見て持続可能ではありません。
    また、低価格競争により、利用者に適切なサービスが提供されない可能性もあります。例えば、消毒やメンテナンスの質が低下するリスクがあります。

昨今、様々なコストが上がっているこの社会情勢において、介護業界関係者は、自費レンタルと介護保険レンタルのバランスを考慮し、適正な報酬を得ることの重要性を認識するタイミングになっていると考えます。
低価格競争は一時的な利益をもたらすかもしれませんが、長期的には業界全体の質を低下させる恐れがあります。
ケアマネジャーや介護業界関係者は、福祉用具の適切な価値を理解し、利用者に最適な選択を提供することが重要です。

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