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黄色いマクワウリは夏のご馳走

「僕の昭和スケッチ」イラストエッセイ189枚目

<「マクワウリ」 © 2023 画/もりおゆう 水彩/ガッシュ 禁無断転載>

もうじき関東も梅雨に入る。
毎日雨が降り続き、やがてその雨も止み、夏が来る。
私の一番好きな季節だ。その理由は子供の頃の過ごし方に理由がある。

<黒野村>

私は毎年夏になるとお袋の在所の黒野村に出かけた。

黒野村にはお袋の妹の清子さんの家がある。
ちなみに本家は野村という隣村にあるのだが私はもっぱら清子さんのいる黒野村で過ごした。本家の人たちはどこか気位が高く威張っているようで、子供の私にはそれが気詰まりで嫌だった。

清子さんの家は娘さんと二人の男の子で暮らす農家だった。
清子さんはご主人を畑での不幸な事故で亡くして以来、経済的には苦しい暮らしを強いられていた。それでも、清子さんは嫌な顔ひとつせず私を何日も泊めてくれた。

清子さんの所の食事は粗末なものだった。私は、そこで初めて麦飯を口にした。今のように健康志向でわざわざ食べる贅沢なものではない。当時は麦が安かったから米に混ぜて炊いた農家も多かったのだ。白米に対してかなりの麦を混ぜる。お世辞にも美味いといういうものではない。だが、その当時は皆貧乏が当たり前で、気にもならなかった。そもそも私の家での食事だって大したものではなかった。

それより私は、黒野村の自然の中で従兄弟たちと遊ぶことが只々楽しかった。見たこともない綺麗な羽を持つ昆虫を捕まえたり、センパラや名も知らぬ不思議な魚*を釣ったり、みな素晴らしい思い出だ。午後の果樹園の静けさと樹木の香り・・・忘れ難い。

そんなある日、、、
昼時に遊びから戻ると、清子さんがマクワウリを用意しておいてくれたのを覚えている。それは、清子さんの畑で取れたものだった。

冷たい井戸水に冷やしたマクワウリは充分に熟して頬が落ちるほど美味しいものだった。メロンのような高価なものではなく、ただのマクワウリだ。
けれど、あの日の従兄弟たちと笑い合って食べたマクワウリは本当に美味しいものだった。


あれから何十年も過ぎたが、それ故に黄色いマクワウリは今でも私にとって特別な夏の果実なのだ。


*この名も知らぬ不思議な魚については後日に又この昭和スケッチで触れようと思う.
<©2023もりおゆう この絵と文は著作権によって守られています>
(©2023 Yu Morio This picture and text are protected by copyright.)

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