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うたのおへや

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わたし 村嵜千草の詩をまとめています
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#現代詩

水鏡

今日もまた水たまりを踏む
ゆがんだわたしと泥が跳ねて笑う

どこまでゆけば 満ちるときがくるの
ここでやめたら わたしは後悔するの?

雨音のままに 今日は濡れよう
濡れて疲れて そして眠ろう

明日もまた水たまりを踏む
はじけて 滲みた 本音の一粒

どこまでもゆこう そのときを期待して
ここまでこれた わたしを褒めよう

雨音のままに 今日は濡れよう
濡れて疲れて そして眠ろう

今日もまた水

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滲み

滲み

ポタ、と垂れた
瞬間は
まだ予測もつかない

不思議に広がって
混ざり合って
戸惑って
滲んでく

想像よりもはるかに
おずおずと
つつしみ深く
馴染み合う

これは
絵の具のはなし
インクのはなし

はたまた
にんげんのはなし

音

ああ 惹かれて止みません

空気が揺れて 泡立って
ぷくぷく しゅわしゅわ しとしと さらさら

とろり 溶けてゆきます
わたしも波になるのです

とろり 落ちてゆきます
まあるい丘を 伝ってゆきます

怪物

怪物

時々に襲い来るそれは
念慮などと奥ゆかしい表現に足らず

いくつもの足を物凄い勢いで這わせて
こちらへ駆けてくるのだ
怪物のようだと思う

またしかしそれを生み出している自分も
とんと可笑しな怪物だと思う

どうせ生きてゆくのに
怪物はしつこく飽き足らず迫り来る

…………………………
気づく気づかぬに関わらず、
どの心にも棲んでいるのだと思います、怪物は。

泣き虫と文字書き

泣き虫と文字書き

メモ帳に滲むインク

それをぼんやり見つめるわたし

扇風機は規則正しく首を振り
時折ページを踊らせる

うたにもならなかった、言葉たち
何の振動も起こさない、言葉たち

それらに思いを馳せるのは
未練を寄せるのは

もうやめたほうが良いのかい

きっと日の目を見ることのない
いとしいわたしの言葉たち

積み木

積み木

朝日がまだ目に眩しかった。
少しの沈黙が間を縫った。
静かにその朝は過ぎた。
ああ わたしは今ここに失恋をした。

笑って終わろうと言った。
そうしようと答えた。
今までありがとうの言葉が
互いに口からこぼれた。

一日ずつ 笑顔ひとつずつ
慎重に積み重ねてきた。
細く高くなり過ぎては、
やはりいつか崩れてしまう。
ああ、わたしは今ここに失恋をした。

うしろ姿を追って

うしろ姿を追って

可愛いとあなたは言いました
わたしはいつも狼狽えました

いいねとあなたは褒めました
わたしはいつも誤魔化しました

隣を歩き 星を見て
同じ時を食い 笑い合いました

あと一歩 そばに寄れたら
何かが変わったでしょうか

あと少し 手を伸ばしたら
あなたと目が合ったでしょうか

思い出にならない続きを
読むことができたでしょうか

さほど変わらないはずなのに
背中が大きく見えました

いつも襟足

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ロンリー ウィズアウト ユー

ロンリー ウィズアウト ユー

寝癖が跳ねていたら
柔らかいその髪を指で混ぜるの

古くなったスウェットにあなたの背中を見つけたら
頬を寄せて温もりを分けてあげるの

冷たい布団にはもう懲りたし
一人用の料理ももうしない
念入りにシワを整えて
お惣菜も2個ずつ買おう

おかえり、と ただいま、と
おはよう、と、おやすみ

腕をいっぱいに広げて
なるだけあなたを受け取ろう
一つになって溶けてしまうくらいに
離れようもないくらいに

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布団

布団

ぼうぼうと波打ち
煩くまとわりつく

剥き出しの吹雪に
頼りない体温を

貼り付けの笑顔に
冷たい埃を取り込んで

ばうばうと叫(あめ)き
虚空へおとす

更地の古城に
つぎはぎの武装を

ナイフもカフェオレも
防がず温めず

静かなる重力
あるだけの役割を

つくりもの

つくりもの

書けども書けども描(えが)けども
どこまで行ってもつくりもの

つくりものがどこかへ飛んで
つくりものをだれかが食べて
ほんものになるんだなあ

2月の雪 ( 朗読・伴奏 )

2月の雪 ( 朗読・伴奏 )

もう何度目でしょう
いつもいつも音は無く
あるものを無かったみたいに

喜ばれたとて 疎まれたとて
なんにも気にも留めない風で

あなたを羨む私を
仲間に入れてはくれませんか

塵として埃として
冷たくなって重たくなって
舞って流れてどこかへ飛んで

私の元へも集まって
私の形にかたまって
境目のないように
誰にも分からぬように

あなたを羨む私を
共に溶かしてはくれませんか

儚くなくても美しく

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今

明日にも一昨日にも
今日のわたしはいないし

1秒前にも1秒後にも
今のわたしは生きてない

今、今だけここに立つ

今の足跡が 筆先が 追想が
いつか来るイマのわたしに寄り添うだろう
たまに助けもするだろう

忘れたり 思い出したりしながら
今を塗り重ねていく

あの頃のイマにいたわたしへ
居てくれてありがとう

いつかのイマにいるわたしへ
今のわたしのこと 忘れててもいいや 
ちゃんと居るから

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いつも居るかたち

いつも居るかたち

どうしても 何にも見えないのだ
たとえが 浮かばないのだ

人の姿にも 動物にも 似ず
ただ そこにある

物も言わず 靄を振り払うこともなく
ただ ぽっかりと そこにいる

間抜け でこぼこ 照れ屋さん

聡明 凛然 頑張り屋さん

何かに見えて 何にも見えない

それだけのことが こんなにも人間を狂わせる
こんなにも私に押し寄せる