マガジンのカバー画像

うたのおへや

59
わたし 村嵜千草の詩をまとめています
運営しているクリエイター

#千草の詩

出立

出立

もしもし、
どこかへお出かけですか
お荷物はそれだけですか

どこへゆくのですか
おひとりですか

やあやあ、
どこへという宛ては無いのです
だから持ってゆくべきものも知らないのです
ただ ここを離れたいと思ったそれだけで

短いかもしれないし
果てもなく長いかもしれません
ですからひとを連れゆくわけにはまいりません

それでは、
そろそろ さようなら

音

ああ 惹かれて止みません

空気が揺れて 泡立って
ぷくぷく しゅわしゅわ しとしと さらさら

とろり 溶けてゆきます
わたしも波になるのです

とろり 落ちてゆきます
まあるい丘を 伝ってゆきます

グッナイ

グッナイ

カーテンを閉めて
鍵をかけて
布団に潜ろう
取り憑かれてしまう前に

ココアを飲んで
目を閉じて
万華鏡に溺れよう
取り込まれてしまう前に

今日を閉店にして
明日のロックを流して
暮らしを忘れよう
わたしを忘れよう

目を瞑ったら今日が終わり
目を瞑ったら明日を忘れる
ひとときの安息を手に入れよう
さよならを思おう

グウタラ

グウタラ

何もしなくていい

それは難題だな
どうすればいいんだい?

何にもしなくていいんだ

それは困ったな
バクバク煩いものが主張してくるよ

気にしなくていい

なるほど、むつかしいことを言う
頭から指先、お尻までこんなに揺れているのに?

とりあえず寝よう

おや最初と違うことを言う
何もしないというのは何もしないということで
寝てもいいのかい

グウタラすればいいんだ

グウタラとはなんだろう

もっとみる
ストーブ

ストーブ

いつも通りの夕食と
いつもとすこしちがう笑顔を

いつも通りの喧騒に
いつもよりすこし多い会話を

風が吹いて
しっとりと冷えた夜の町に
あたたかなストーブの灯火を

今年もありがとう
お疲れさま

…………………………

2022年も今日でおしまいですね。
今年もありがとうございました。
いいねや、コメントにたくさん励まされ今年も歩むことができました。
文字書きらしく?、詩をここに置いて締めくく

もっとみる
白い息

白い息

ハッと吐いた吐息が
白くなってまあるく空気に溶けた

きみはこれからどこへまでも旅をする
川を渡り山を越えどこへまでも行っておくれ

自由にほしを渡る空気よ
この原子たちよ
願わくばわたしの想いを連れてって

貴方のもとへ連れてって

怪物

怪物

時々に襲い来るそれは
念慮などと奥ゆかしい表現に足らず

いくつもの足を物凄い勢いで這わせて
こちらへ駆けてくるのだ
怪物のようだと思う

またしかしそれを生み出している自分も
とんと可笑しな怪物だと思う

どうせ生きてゆくのに
怪物はしつこく飽き足らず迫り来る

…………………………
気づく気づかぬに関わらず、
どの心にも棲んでいるのだと思います、怪物は。

泣き虫と文字書き

泣き虫と文字書き

メモ帳に滲むインク

それをぼんやり見つめるわたし

扇風機は規則正しく首を振り
時折ページを踊らせる

うたにもならなかった、言葉たち
何の振動も起こさない、言葉たち

それらに思いを馳せるのは
未練を寄せるのは

もうやめたほうが良いのかい

きっと日の目を見ることのない
いとしいわたしの言葉たち

積み木

積み木

朝日がまだ目に眩しかった。
少しの沈黙が間を縫った。
静かにその朝は過ぎた。
ああ わたしは今ここに失恋をした。

笑って終わろうと言った。
そうしようと答えた。
今までありがとうの言葉が
互いに口からこぼれた。

一日ずつ 笑顔ひとつずつ
慎重に積み重ねてきた。
細く高くなり過ぎては、
やはりいつか崩れてしまう。
ああ、わたしは今ここに失恋をした。

うしろ姿を追って

うしろ姿を追って

可愛いとあなたは言いました
わたしはいつも狼狽えました

いいねとあなたは褒めました
わたしはいつも誤魔化しました

隣を歩き 星を見て
同じ時を食い 笑い合いました

あと一歩 そばに寄れたら
何かが変わったでしょうか

あと少し 手を伸ばしたら
あなたと目が合ったでしょうか

思い出にならない続きを
読むことができたでしょうか

さほど変わらないはずなのに
背中が大きく見えました

いつも襟足

もっとみる
ロンリー ウィズアウト ユー

ロンリー ウィズアウト ユー

寝癖が跳ねていたら
柔らかいその髪を指で混ぜるの

古くなったスウェットにあなたの背中を見つけたら
頬を寄せて温もりを分けてあげるの

冷たい布団にはもう懲りたし
一人用の料理ももうしない
念入りにシワを整えて
お惣菜も2個ずつ買おう

おかえり、と ただいま、と
おはよう、と、おやすみ

腕をいっぱいに広げて
なるだけあなたを受け取ろう
一つになって溶けてしまうくらいに
離れようもないくらいに

もっとみる
布団

布団

ぼうぼうと波打ち
煩くまとわりつく

剥き出しの吹雪に
頼りない体温を

貼り付けの笑顔に
冷たい埃を取り込んで

ばうばうと叫(あめ)き
虚空へおとす

更地の古城に
つぎはぎの武装を

ナイフもカフェオレも
防がず温めず

静かなる重力
あるだけの役割を

つくりもの

つくりもの

書けども書けども描(えが)けども
どこまで行ってもつくりもの

つくりものがどこかへ飛んで
つくりものをだれかが食べて
ほんものになるんだなあ

いもうと

いもうと

おねえちゃん、おねえちゃん、
だいすきだよ

おねえちゃん、おねえちゃん、
大すきだよ

お姉ちゃん、わたし
貴方の妹で幸せよ

どんな貴方もわたしの姉だって
気づいてほしいのよ

頼らせてね 生まれたその時から側にあった貴方
頼ってね わたしの一から百までを見てきた貴方

大好きよ それしか出てこないの