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140字小説

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オリジナルの140字小説です。 フリー台本としてお使い頂けます。 1分ほどで読めます。
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記事一覧

ウワサをすれば【140字小説】

 優雅な午後のティータイムに来訪者。回覧板を持ってきた隣の田中さんの奥さんは、本当によく喋ること喋ること。
「ここだけの話なんだけど、402の渡辺さんの旦那さん、不倫してるかもなんだって。」
 私はその時の動揺を隠せていただろうか。渡辺さんの旦那さんと関係を持っているのは、私だった。

初恋オルゴール【140字小説】

「これ壊れてるな。」

部屋から出てきた小さなオルゴールは、小学校の卒業記念で貰った物だ。ネジを巻くと歯抜けたメロディが鳴る。

「俺もうそれどっかいった。」

「思い出した。お前これ1組の美久ちゃんと交換してただろ!お前のやつは俺が欲しかったのに。」

「言えよ。俺もあげたかったよ。」

エンドバースデー【140字小説】

「大人になんかなりたくない。」

 君の口癖。大人は汚い。平気で嘘を吐き、君を傷つけ搾取した。

「私もそんな風になっちゃうのかな。」

 傷だらけを心を抱きかかえ、怯える君。でも大丈夫。君を汚い大人になんかさせない。大人になる前の綺麗なままの君を、僕が。ハッピーバースデー。さよなら。

流れる【140字小説】

「え、お前また知らない男としたの?」

「そういう流れだったからね。」

「お前流されすぎだよ。」

「流されてるんじゃなくて、自分から流れにいってるの。」

「…俺には流れてくれないくせに。」

「流れて終わりにしたくないからね。」

「どういうこと?」

「そういうとこだよ。」

姫鏡台【140字小説】

幾度鏡を覗き込めど映るのは醜い女の顔貌。これではいけない。こんな姿ではいけないのだ。繰り返し顔に筆を走らせ、目尻を描き足し紅を挿す。何れ顔を見るのが怖くなり、金魚鉢を投げつけ鏡を割り、その破片を頬に当てる。ここを切れば、美しくなれるかしら。誰かから愛されるかしら。私が美しい者なら。

焦燥天秤【140字小説】

「僕のこと好きになれそうですか。」
今日で会うのは3回目。初めての夜のデートの帰り際、彼は顔を真っ赤にしながらそう言った。優しくて温厚、だけど正直決め手に欠ける。選り好みしてる場合じゃないのはわかってる。わかってるけど、心が揺らぐ。結婚したい。幸せになりたい。私の出した答えは…。

小さな魔法使い【140字小説】

ここは魔法を売る古いお店。今日は随分と小さな女の子のお客様。手のひらに握られた銀貨を3枚差し出しこう言った。
「魔法をくださいな。」
「どんな魔法にしましょうか。」
「お母さんが笑ってくれる魔法!」
「それならこれを差しあげましょう。」
私は一輪の花を渡し、女の子を見送った。

終わりの雨【140字小説】

もう口も聞いてくれないんだね。終わりにしよう、が最後の言葉。あなたはもう愛しても怒ってすらいないんでしょう。こんな風になるならいっそ、私たちは始まらなければ良かったね。ドアの手前、あなたはなにか言いかけて、でも振り返らずに行ってしまう。外は雨だよ。行かないで。

Everynight【140字小説】

「眠れなくて。」
そんなことを口実に深夜の電話。今日はどんなことがあった?なにかつらいことはなかった?そんな話を時間も忘れて延々と。他愛のない話でいい。ずっと声を聴いていたい。あなたに名前を呼ばれていたい。こんな夜がどうか終わりませんように。

愛執【140字小説】

会話のなくなった部屋に時計の音だけが響く。広くなったな、なんて感じないワンルーム、隅に追いやられた君の痕跡。
「荷物捨てていいから。さよなら。」
連絡先も、写真も、思い出も、残しておいたって仕方ないのに。それに縋る僕を君はまた嫌うんだろうね。今を閉じ込めるように、秒針を止めた。

ふたつの好奇心【140字小説】

なんとなく、手作りでお菓子作ってみようと思った。なんとなく、それをあいつにあげてみようと思った。本当に、なんとなく。ただどんな顔するのか、それだけが知りたくて。バレンタインの放課後、いつもの分かれ道。あいつが先に渡してきた。
「これ、やるよ。別に意味なんてないけど!」

picture in now【140字小説】

「いい思い出だけ残せたらいいのにね。」
彼女は窓の外を眺めながら流れる曲の合間に呟いた。
「それはね、いい思い出だけを反芻したらいいんだよ。」
「今を切り取って、覚えておこうと思う。そしてまた思い出すの。」
「そうだね。僕もそうしよう。」
次に流れてきた曲を僕は忘れないだろう。

GHOST【140字小説】

あの日の「ごめんね。」の意味が、あの時わかっていたならと、今になって後悔しても遅くて。君を失ったこの世界で、君を思う気持ちだけ取り残されて、僕はまるで亡霊のよう。時間を巻き戻せたらなんて、そんな非現実的なもしも話ばかりを考えてしまう。最後に君はなにを思ったの?僕は今でも君がどうしようもなく好きだ。

私の椅子【140字小説】

もしも明日、私が世界から消えたとしても何も変わらないでしょう。悲しんでくれる人がいても、すぐに忘れてしまうんでしょう。私が空けた椅子には、また誰かが埋めるんでしょう。いくらでも消費され、いくらでも代わりはいるんでしょう。だから私は、しがみついてしまうんでしょう。