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出会い

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人と出会うと、すぐに言葉にしたくなる。この世界の何処かで出会ってくれてありがとう。
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#エッセイ

精神を止む

精神を止む

君は、この世界に足を踏み入れる。それはもう恐る恐る。その足の先に、ガラスの破片のような物は落ちていないかと確かめながら。

裸足で、現実という名の地面を踏み締める。アスファルトの熱を足の裏に感じながら。

君は、この世界のことをよく勉強してきたみたいで、「靴を履いていないのはきっと僕だけだ」と呟いた。

でも君は、靴を履くことを選ばなかった。

ある日、人集りの中色んな靴に囲まれながら、君の素足は

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同族INTP

同族INTP

「こういうの自分で撮っててさぁ、」

この後に、続く言葉を私は知っている。
私のSNSを目の前でスクロールしながら、冷たい視線を注ぐ彼が、次に口にする言葉を。

「恥ずかしくね?」

ほら、そういうと思ったよ、と私は頬が緩んだ。

「どうでしょう?」
そうやって笑いながら、真っ白なマグカップを口元へ運ぶ。

私は彼を嫌いながら、同時に隅々まで彼の心理が手に取るように分かる。

一生懸命になることで

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偽りなき優しさ

偽りなき優しさ

黒にピンクのスライド型のガラケーを彼が手にした。

何を見せたんだっけ。
何を、彼に、見せたかったのだろうか。

真ん中の一番後ろの席にいる彼と、
その左斜め前にいる私。

その周りに居た人たちの顔を一人も思い出せないほど、私の視界を彼が占領していた。

大それた恋をしていたわけではない。
それでもこうして夢にまで出てくるのは、彼の"優しさ"があるからだ。

珍しい、"優しさ"が。

スラッとした

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走馬灯を読む

走馬灯を読む

粗く、ざらついた、心臓が動くたびに、吐血するのである。

「うん、言いたいことはわかったよ」
そんな一言と共に絶望を味わう。

だってさ、だって、私たちきっと同じようにこの世界を読んでいると思っていたよ。同じように読んでいるからこそ、同じような走馬灯すら目にするのだろうと思っていたんだ。

“わかってもらえなかったこと”というのが、私の人生にはあまりにも多くて、"わからせなきゃ"という汚い感情が自

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空白を縫う

空白を縫う

息継ぎをした瞬間に彼が口にした、「空白」という言葉が、波打つ夜。

水面を弾きながら進む石のように、言葉を放つ。そして、時に浮かび上がる点を感じながら、"今"という点を見る。

ある地点においての点は、果たしてどこの点と結ばれるのだろうか。

もしもマグカップの底と過去が繋がっていたならば、私たちはそこから過去の自分に会いに行くことを選ぶだろうか。

それとも、こうして珈琲を啜りながら見ているくら

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「楽しかった」という完結方法

「楽しかった」という完結方法

街中で聞こえてくる「かわいい」と、「楽しかった」という感情はどちらの方がより軽率なものなのだろうか。

もしかするとどちらもそうではないのかもしれない。

無意識のうちに、

素直に口から溢れでた、

温かいままの感情なのかもしれない。

「楽しかったらそれでいい」なんて言葉はとても便利であって、肯定文にだって言い訳にだって使えてしまうのだ。

「楽しい」という感情は割と手の届きやすいところにある

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桜を見て思い出すのは、きっとサンドイッチだ

桜を見て思い出すのは、きっとサンドイッチだ

お花見だなんて気分でもない時に、

桜を見ながら歩こうなんて誘いを受けた。

桜がどこに咲いているのかすら知らない私と、

このルートが綺麗なんだと率先して歩く目の前の人。

桜の景色よりも、公園で食べたサンドイッチをよく覚えている。

知らない人が犬の散歩をしながら話しかけてきて、

きっと話しかけてきた人は日本人じゃないねなんて話をした。

それ以外は何も思い出せない。

その日本人ではないで

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「俺なんかさ」の話

「俺なんかさ」の話

彼女は、事務もできて、他の仕事もなんなくこなすけど「俺なんかさ…」

君も、パソコンできるし、此処に居なくても生きていけるだろうけど「俺なんかさ…」

彼はさ、普通の仕事が本当はできるはずなんだよ。だから、どこに行っても困らないけど「俺なんかさ…」

彼は、いつもこうやって卑下し、自分のことを話してきていた。

暖かい癖に、孤独な人だと思った。

一度彼に尋ねてみたことがある。

「寂しくないです

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