リップマン著「世論」⑧情報機関について
新聞などのジャーナリズムは民主政治の基盤となる「世論」を提供することはできません。
「国民の意志」が形成されるためには、専門家による分析と記録のシステムを基盤とした社会組織・情報システムが必要です。
情報システムによって新聞などに対してもニュースが提供されると共に、そのシステムは新聞などジャーナリズムに対するチェック機能を果たすでしょう。
自治を行う人々は、情報機関を発明、創造、組織して自分たちのきまぐれな経験、偏見の外へ踏み出さなければならないのです。
情報システムはその起源においてもその理想においても、活動家の、決定を委ねられた代表者の、研究活動する研究者の道具であり、公共の仕事をよりよく遂行するための手段です。
あらゆる問題について、市民一人一人に専門的意見をもたせようとするのが目的ではなく、そうした重荷を市民の肩から取り去って責任ある行政者に負わせようとするものです。
政治・産業の双方における代議制による支配と管理の一翼を担うものとしてこそ真に役立つのです。
あらゆる政府機関は、世界中の軍隊が情報部を設けているように、調査と情報のための組織を設けようとしています。
それが効果的に機能するための条件にはどんなものがあるでしょうか?
何よりもまず、情報部職員は所属する省に関係する議会諸委員会とその省の長である長官の双方から独立した存在でなければなりません。
次に情報部職員は決定にも行動にも関わり合ってはなりません。
ここでいう独立とは、主として資金、任期、事実にアクセスする権利の3点についての独立です。
情報部の資金調達のあり方は情報部のスタッフを、陰険な破壊工作から守らなければならないと同時に、情報部の発展を準備するものでなければなりません。
こうした予算は恒常的に組まれなければなりません。
任期は終身として、退職後の十分な年金を用意し、より高等な研究と訓練にあてる数年の研修期間を設け、解任する場合は同僚専門家による審議を経なければなりません。
またこの活動を盛んなものにしようとするなら、それに携わる人たちは威厳と安定性、精神の自由をもっていなければなりません。
情報の素材にアクセスする権利については、あらゆる書類を検査し、いかなる官公吏、いかなる外部者にも質問できる権利を与えられるべきです。
情報部はその所属する省に対して会計方法を提案する権利をもたなければなりません。
それぞれの情報部はその省と議会を結ぶ鎖目となります。
また各省の情報部同士の間には競争も必要ですが、調整も必要です。情報資料の交換からさまざまな可能性が生じます。
この原理は州政府、市、地方の郡にも同じようにあてはまります、比較、交流といった活動は、州、市、郡の情報部が連合して行うことができます。
政府の各省、工場、事務所、大学間に交流があると仮定すれば、たとえば人材、資料、批評などの交換があれば、内部腐敗の危険性はそれほど大きくないでしょう。
生活の単純化、職務の効率化にもつながります。
現代の環境に関わる世論の分析や民主主義理論の分析が原則的に健全であるならばこのような情報活動が改善への突破口になるでしょう。
情報は良心からではなく、その良心が関わっている環境からもたらせるはずです。
情報の原理に基づいて行動するとき、人は外へ出て行って事実を見つけ自分の知恵をつけます。
情報の原理を無視するとき、人は自分の内にこもり、内側にあるものしか目につきません。
そうした人間は自分の知恵を増やさずに自分の偏見を育むのです。
8回にわたりリップマン「世論」について解説してきましたが、これで終わりです!
リップマンの思想を紹介してきましたが、「世論」を形成するためにリップマンが必要と考えていたような国家から独立した中立で正確でアクセスが容易な情報機関は残念ながら今にいたるまで作られていません。
それどころか現在ではSNSなどで情報が氾濫し、さらにAIによるフェイクニュースまで登場して真実を見極めることがますます困難になっています。
偽情報を元に成り立つ民主主義は危ういものです。
誰かが情報を操作して社会をコントロールしようとするかもしれません。
私たちは与えられた情報を鵜呑みにせず、情報を、そして何よりも自分を疑ってみることが大切だと思います。
執筆者、ゆこりん
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