やってみた大賞へ捧ぐ、『独占記事』~SNSで知り合った蟲好きナースに昆虫食を食べてもらうまでの私の記録~
【やってみた大賞】
鉄鋼王アンドリュー・カーネギーについて今語るべきではない。
"おのれよりも優れた者に働いてもらう方法を知る男、ここに眠る"
これはカーネギーの墓碑銘に刻まれている言葉である。私にとってこの思想は物事の大小ではなく、体現して生きていきたいという私の目標でもある。
「ねぇ、あなたに聞いて欲しい事があるの」
6月に入り梅雨の話題も出始めた時、彼女はいつもと少し違った憂いを帯びた口調で話し始めた。
「やってみた大賞だけど、私はもう蟲を食べてしまったの」
私は、この女性の話をスマートに聞くのがいいと判断したので、珈琲を淹れながら彼女の話しが途切れるのを待ち、ゆっくりとこう切り出した。
「なるほど。君はnoteに於けるやってみた大賞に蟲を食べた事を記事にしたかったのに、募集された頃には蟲を食べてしまって悲しんでいる。そういう事だね」
彼女は、悲しそうに頷いた。
要するに彼女は、やってみた大賞に出したかった記事を先に世に出してしまい、やっちまったな大賞にノミネートされそうだと云うことだった。
この話しを聞いて私は、世の中には偶然に於ける必然があるように、その時私が読んでいたこの本にある種の必然性を感じた。
天才・偉人の親たちに学ぶ わが子のやる気を引き出す育て方
子育てに悩みを抱えていた私は我が子に実践するより先に、この彼女をもう一度やる気にさせて蟲を食べさせようと閃いた。
それは失敗しても我が子が失敗するワケではないので試しやすい、何より失敗しても私もやってみたと記事に出来ると思い立った。
私は、本書の通りショパンの両親にならい
【才能は反対の形で現れることがある】ということ。
【最初は無理強いをしないこと】
【才能を伸ばすために支援を惜しまない】
と肝に銘じた。
私は、彼女にこう言った。
「いいかい。君は確かに蟻を食べた記事を出した。そしてそこで行き止まりになっている。でもね、もしかしたら読者はその反対側も見たがっているかも知れないね」
彼女は私の様子を伺う。とても勘がいいのだ。
私は、【才能は反対の形で現れることがある】事をそっと伝える。
「今、君が行き止まりにいる反対側には何があるかな?後ろを向いてごらん。僕達がいるだろう。君の反対側には、君に期待している読者がいっぱいいるんだ。君は看護師だけど、僕達にしたらその真逆の蟲ハンターだ。そう、食べる意味でのね」
彼女は、私に確認するように囁く。
「私にまた食べろって言うこと?」
僕は頷きもせずに彼女を見てから、
【最初は無理強いをしないこと】を実践する。
「僕が君にこんな事を言うのはおこがましいが、世の中に昆虫は何種類いるんだろう?君は蟻を食べた。それは間違いない。だけど蟻を凌ぐ衝撃の昆虫類だっていっぱいいると思うし、他の昆虫達だって君に食してもらいたいと思うけどね。だけど、それを選択するのは君次第なんだ」
彼女にしては長い間沈黙し、それは僕にとってほんの2秒くらいの時間だったが、彼女は真っ直ぐ僕の目を見て力強く応えた。
「ねぇ。食べてみたい蟲がいるの」
私は、笑いを隠すように咳き込むふりをして
【才能を伸ばすために支援を惜しまない】
を実践する。
「君がどの蟲を食べたいのかは、僕は知らない。だけど、君が食べるその先には看護師とは反対の昆虫食ナースとしての才能が開花するかも知れないね。それが反対かどうかは置いておいても僕は、君がやるなら支援を惜しまないよ」
彼女は、明確な意思を私にぶつけた。
「タガメが食べたいの」
私は、この本のありがたみを感じながらさらに一押しした。
「オーケー。食べてみよう。一度食べたからなんなんだい?君は、タガメはまだ食べていない。そうだろ?君に一つ教えるよ。トイ・ストーリーだって4まであるんだぜ。どれも独立して傑作なんだ」
彼女は、こうして立ち上がった。
私とアサミサガシムシ(以下アサミ)は、Instagramでの蟲好き、読書好き繋がりから知り合った。
アサミの年齢はよく知らないが、私が1982年生まれの40歳であることを同じ年と文学的表現をしたのでそれに近いのだろう。
私のInstagramのアカウントには、毎日生き物、蟲達の写真が送られてくる。
これを生き物倶楽部として皆に共有しているのだ。
アサミは私に送られてきた写真から蟲の名前、生態を調べるのを生業かと思うくらい素早くこなしてくれる。さすがに元救命病棟にいたナースだ。
私が知らない蟲達はアサミにより、Instagram内に於いて素早くフォロワー達にその蟲達の名前が広まるのだ。
言うなれば私の懐刀だ。
私は、蟲好きだが蟲を食すまでのアサミほどの愛はない。アサミは愛するがゆえに食に走っているらしい。
ちょっと何言ってるかわからないです。
そんな彼女をもう一度奮い立たせたタガメ。こちらを紹介しよう。今回のメイン料理だ。
タガメ…カメムシ目コオイムシ科に分類される日本最大の水生昆虫
田んぼにいる龜。もしくは田んぼにいるカメムシ(龜蟲)から由来が来ている。龜蟲と書くとわりと雰囲気が出るので私は勝手に使用している。
きれいな水辺を好み、成虫は水田域に於ける生態系の頂点に君臨する王者である。何より、私が好きなのはタガメによる補食である。タガメは、じっと獲物がくるまで待機する。昔はドジョウなどが主なエサだったみたいだが、現在はドジョウの生息数の減少により、主にカエル🐸達である。
アスリート並みに発達した前肢で素早く獲物を掴む。絶対に離さない。そして、嘴に似たストロー状のものを獲物に刺す。
刺すのだ。
そこから消化液を獲物に注入する。そして消化させた体内を吸入する。
タガメに補食された生き物は、ペラペラになるのだ。もし、身近にペラペラのカエル🐸を発見したなら近くのタガメを見つけてみてね。
そして、一番のポイントは水生昆虫なのにタガメは飛ぶ。
飛翔するのだ。
私のタガメ愛はこの辺にするが、このタガメを食べようとしているアサミに恐怖と生態系の頂点を感じざるを得ない。
正直、この写真が贈られてきた時に私は「ムリ」と本当に思った。タイ産のタガメは日本の個体より大きな気がする。何よりつぶらな瞳が私には「ムリ」だった。ただ彼女をさらにやる気にさせなければならない。
私は、実践する事にした。あの本にこう書いてある。
私は、ライト兄弟の親のように、よその看護師と違った部分を強く見せるアサミナースに多少のマイナスはあっても彼女の才能発掘のためにじっと見守る事にした。
「ねぇ、そのまま齧った方がインパクトあるかしら」
嬉しそうに微笑むアサミは私に尋ねる。私は正直アサミがどう食べようがムリだったのだが、実践する。
「食べ方は君に任せるよ。そのまま食べてもいいし、調理してアレンジするのもいいと思う。何より君が行う事に意味があるし、皆それを読みたいし楽しみにしていると思う。そのタガメ達ですらね」
彼女は、つい先日まで落ち込んでいたのが嘘みたいに輝いている。
私は、つい先日まで励ましていたのが嘘みたいに引いている。
だが、進んでしまったものを見守るのが私の責任だ。そしてここまで読んでくれた皆様にも届けるのが筋だろう。
これが、アサミの渾身のやってみた大賞応募作品だ。
私は、彼女をやる気にさせた。その結果彼女は失ったものより多くのものを得てくれたと思う。
しかし食べ終えた彼女はどこか悲しげだった。
それは燃え尽きておらず、どこか満足しきれていないようだった。
なんという欲張りナースだ。
私は閃いた。悪魔の囁きとも思える閃きに自分の才能を感じ1人震えた。そして私はそっと
【最初は無理強いをしないこと】を思い出す。
「君の挑戦を見ていると、まるで僕まで何かをやりきった気持ちになるよ。君は、勇気を出して食べた。でも、この物語には、一つ足りないものがある。それは、君の歌うエンディング・テーマだ。」
そして、僕は彼女にもう一言魔法の言葉をかけた。
「無理強いはしないけどね」と。
だけどその魔法の言葉は、もう彼女には必要なかったみたいだ。
それは一仕事終えた看護師の本来あるべき癒しの声だった。
「私、合唱団だったの」
悪魔は私に微笑んだ。
私は、偶然に必然を感じるタイプだ。
彼女は、歌ったんだ。
私は私のミッションコンプリートに涙した。
成功の報酬を求めない私に、まさかのプレゼントが貪欲変態ナースから来た。
「あなた、私の事記事にするわよね。わかってる。今までだってそうだったから。これ、あなたへのプレゼント。あなたにはあなたのエンディングの歌が必要でしょ?」
なんのはなしですか
これが、贈られてきたアサミの歌声だ。皆様もう一度この歌声を聞きながら記事を最初から読んで欲しい。
やる気の行き過ぎに泣ける。
カーネギーの墓碑銘にはこう刻まれている。
"おのれよりも優れた者に働いてもらう方法を知る男、ここに眠る"
鉄鋼王アンドリュー・カーネギーについて今語るべきではない。
そう。それは私が、やってみた大賞を受賞するのなら、私の手から見事に飛翔していったアサミに私から語るべき物語である。
蟲好きナースを本に書いてある通りにやる気にさせ、コラボをし、さらには歌を歌わせる事をやってみた。
今noteで出来る精一杯をやってみた。
企画に感謝いたします。
蟲好き美声食レポーター完全変態ナースアサミにもね。
そして、私は私の手から離れた彼女を感じつつ、この本を閉じた。
自分に何が書けるか、何を求めているか、探している途中ですが、サポートいただいたお気持ちは、忘れずに活かしたいと思っています。