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2023年詩

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2023年7月の記事一覧

118「詩」思い

118「詩」思い

思いがいっぱいあるのに
伝える言葉が見つからない

とても大切な思いが
伝えてもらえないことに疼いている

なにか大切なものを落としてきた
歯がゆいままだ

徐々に濃くなる空に
浮かんだ月が明るさを増していく夕べ

今日と明日を分けるように
飛行機雲が一筋伸びていった

117「詩」夕日

117「詩」夕日

なぜか分からない
生きようと思った

なにかに引きずられるように
あの世への入り口を探していた
もがいても
もがいても糸口がみつからない
さらに重い塊になった紐がもつれて
重さをさらに増していった

運が悪いのだ

最初から決まっている運の悪さを
嘆く元気もわたしには残っていなかった

自分が自分から離れていくのが分かる
なにかがわたしの体を引きずって
暗い森の入り口に向かわせた

草原を抜けて

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116「詩」朝の光景

116「詩」朝の光景

朝靄が一枚一枚
レースを脱ぐように
山端の色を濃くしていく

神さまの大きな瞳の中で
祝福されて一日が始まる

見慣れた風景に密やかに
潜んでいる何か良い物が
見つかる予感に溢れる朝

何か良い物
それは

もしかしたら出会い
昨日の自分と違う自分を
はっきり分けられる出会い

もしかしたら行く方向
要らないものを捨て去り
無心になって駆け抜けられる方向

さあ
行ってらっしゃい

朝靄を脱ぎ捨て

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105「詩」花束

105「詩」花束

道の途中で疲れた人に
花束を届けよう
ほんの少し心が楽になるように

わずかなひとときだけ会えた
見知らぬだれかが
ほんの少しだけ幸せでいるように

ありったけの優しさをこめて
花束を届けよう

(東部湯の丸サービスエリアのトイレに美しいお花が生けられていました。)

114「詩」朝

114「詩」朝

おのぞみなら
今日一日
この地球のすみっこで
生きながらえさせてください

いちばん新しい今の
ありふれた景色の連続が
ほんの少しかたちを変えて
いつかまったく別の世界になっている

一瞬
だれか少年のような影が
視界をよぎったような気がした

視線の先にあるものだけ見つめて
真っ直ぐに走り抜ける少年
世界の汚れた部分は目に写らない

遠い昔そんな日々が確かにあった

いつの間にか
このすみっこに

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113「詩」風

113「詩」風

それでも風は吹いている
風のふく方向に
待っていてくれるものがいる

人の心が跡形もなく壊れてしまった
粉々になってしまった世界の果てにも
ちゃんと風は吹いている

産声を聞くように
背中を押すものがいる

生きていることが失うことの連続だとしても
失った先に小さなカケラが残る

そのカケラは
この宇宙の中でたったひとつ
おまえがだけが持つ事を許されたもの

風が吹く方向にいくために
一瞬一瞬を選

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112「詩」くびき野・夏

112「詩」くびき野・夏

山端に
人々の生活はきちんとした規則を保ちながら
小さな息づかいを滲ませる

さらに高くさらに高く
伸びられるのを疑うこともなく
稲たちが日の光だけを見つめている

うっすらと空に溶け合う妙高山の手前
家々さえ飲み込むように
田畑が勢いを増す

くびき野の夏
熱い日差しを全て
身に蓄え 栄養に変え

やがて黄金色に変わる日を
ゆっくりと
待ち始める

111「詩」言葉

111「詩」言葉

美しい言葉を見つけて
文字にしようとすると
言葉はどんどん自分から離れていく

昨日までなかった新しい言葉を
文字にしようとすると
聞き飽きてうんざりする言葉になってしまう

もっとわたしを見つめて
もっと心の中を見つめて
汚いものがあったらそのまま
恥ずかしがらずにそのまま

そんなことは分かっていても
なんなんだ 邪魔するものがある
どうせこんな自分なのだと
たかを括って諦めればいいだけなのに

110「詩」泳ぐ魚

110「詩」泳ぐ魚

魚は空の高みを目指して泳いでいる

大気圏を超えて
星くずたちが語り合う懐かしい空間を
魚は覚えていた

その空間にいると
比べることのない
比べられることもない

ただそのまま 魚はそこにあった
生まれる前の懐かしい空間

暗闇が
数えきれない星くずたちの光を
鮮やかに映し出している

間もなく
朝の光が射し始めると
見えなくなってしまうことを
星くずたちは知っている

そして

見えなくなって

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109「詩」恋する

109「詩」恋する

恋するなどということは
とっくに捨てました
そんな恥ずかしいことは
ずっと昔に捨てました

今は思い出したくもないのです
固く重い蓋をして
閉じ込めたまま
長い長い月日が経ちました

恋した人
いますよ そりゃ わたしにだって
どれもこれも思い出したくない
深い傷になりました

素敵な思い出なんかじゃありません
恋の歌は聞きたくありません
深い傷がうずきだす
いつだってそう

その代わり
恋の心が

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108「詩」七夕の日に

108「詩」七夕の日に

微かに見える小さな星と星が
ぶつかり小さく響いた辺りで
とても懐かしく大好きだった
あの人と もういちど会おう

降りしきる星の欠片をよけて
その人に 傘をさし出したい

星の欠片に 濡れないように
注意深く空の奥深く目指して
ゆっくりと一歩ずつ一歩ずつ

物語の続きをもう一度描いて
あの人の大切な人たちが 
幸せでいますように
心から願おう

今夜かぎりの物語は
朝の光を待つことなく
書き記した

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107「詩」マンゴーをお届けしました

107「詩」マンゴーをお届けしました

マンゴーをお届けしました

土を耕し水を撒き
時を知って
栄養を与え
やっと大きくなりました

台風が近づくと
細心の注意をはらって
雨や風から守り
大きく大きく育てました

収穫され
選別され
贈る人の心を届けるために
箱詰めしました

そっと潰れないように
両手で包み
溜め込んだ陽射しが明るいうちに
一気に閉じ込めました

夏の日の夕焼け色に
しっかり染まったマンゴーが
あなたに届く頃

ラピ

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106「詩」バックムーン

106「詩」バックムーン

しっかり大きく育った
もう私がすることは何もない

古い角を落とした
何もない軽くなった身体で
草を喰む

いくぶん眩しさを増した風が
遥か昔に続く草月を吹き渡ってくる

とらわれることがないように

風が牡鹿の頭上で渦を巻き
祝福するように去って行った春の日

牡鹿はとらわれることなく
草原を駆け抜けていった

自由の重さは日増しに増え
生きることの責任もちゃんと分かった

7月の満月に照らされ

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105「詩」糸

105「詩」糸

星くずの光を編んで
小さかった頃の記憶を結んでみる

結び目から
懐かしい匂いが溢れてきたら
ありったけの力をこめて
光の糸を投げてみよう

ずっと昔から
わたしを待っているものがいる
光の糸がいく先に
わたしをじっと待っているものがいる
#スキしてみて