第8章 カエサル・イチネラリウム−1
Vol_1
「お待たせしました。楯野川を3合です。」
注文した日本酒が運ばれてきた。みんなそれぞれお猪口に日本酒をつぎ話を続けた。
「俺たちが大人しいというのは歴史を見れば明白さ。」
先輩が日本酒を一口飲み、続けた。
「アメリカの独立戦争やフランス革命だってそうだ。かつて人間は自由を求めるために戦争を起こした。力に対応するために力で対応したんだ。」
「確かに、18世紀にかけて様々武力闘争が起こっていましたね。アメリカ独立戦争は、1775年4月19日から1783年9月3日までのイギリス本国と北アメリカ東部沿岸のイギリス領の13植民地との戦争で、フランス革命は1789年以降、フランスの革命家たちは人民主権、国民統合、そして市民的平等の諸原理に基づいて自分たちの世界を再建しようと努めた革命ですよね。でも、日本じゃそんなことはないじゃないんですか。」
「そんなこともないんだよ。」
「えっ。」
「昔は大学生は学生運動を盛んに行なっていたんだよ。」
「学生運動ー。」
康平がお惚けた感じで先輩の言葉を復唱した。
「そう、学生運動だよ。学生運動の起源は、中世のドイツで行われた大学の自治権要求運動が始まりとされている。そこから1960年代にかけてアメリカや中国、日本など世界的に見せた学生運動だね。日本は特に大正デモクラシーの時期、普通選挙がない時期に始まったんだ。」
「学生運動をしていた人たちは、よく今の子は大人しいとか言いますよね。」
僕はよく幼い頃、テレビで昔を振り返るような番組を見た時にテレビのコメンテーターが今の若者について嘆いていたのを思い出して言った。
「あの頃はエネルギーがあったとかよくいうけど、それは違うと思います。あの頃は、選挙という訴える手段もなければ平等な社会なんて無かったわけですし。」
「いうほど今も平等じゃなくね。一部の金を持っている人間がいいような社会になっている。選挙だって平等に見えるけど、若者はすでに超マイノリティがいくら票を入れても若者の意見は通れない。一人一票じゃ足りない気がするね。」
「康平の言うとおりだよ。少子高齢化の弊害が選挙に反映されている。かつての若者が多い時代に成立していた政策も今や破綻しているんだ。」
「どうして政府は何もしないんですかね。」
「愚問だな。彼ら政治家が高齢者だからに決まっているでしょ。人は本来、自分が一番大事なんだ。そんな自分が不利になるような政策を残す人がどれだけいるだろうか。」
「た、確かに。自分だってそうかもしれないです。近くにいる人間ならまだしも、全く顔も見たことない人間に何かをしてあげようとすることなんて思わないですね。」
「俺もですね。自分のじいちゃんやばあちゃんはずっと長生きして欲しいですけどそこらへんのジジイやババアみたいな老害にはそんなことは思わないですね。」
僕らはさらに日本酒を3合頼んだ。止まらない会話は酒をガソリンに走り続ける。今何時になったのかもわからないまま僕らは走り続ける。
「かつて異次元の少子化対策と銘打って行われた政策も、結局はパッとしないものだった。3人生まれればお金の支給なんて誰が子供産むんだって話だよ。一人生むことですら大変な世の中だよ。上がり続ける税金に社会保障、物価。これらを抱えて子供を育てるなんてほぼ不可能に近い。」
「そうですね。こんな時代だけらこそ、子供達には良い教育を受けさせたいと思うと一人の子供にどれだけお金をかけられるかを考えると、自分の生活で精一杯ですからね。」
「本当に深刻ですよね。最近だと、外国人労働者の方が子供より多いんっじゃないですかね。」
「こないだも、外国人労働者によって暴力事件が問題になっていましたよね。」
「あれは国が少子化対策の一環で行われたことだからね。全く、このままじゃ日本が日本で亡くなってしまう。」
「結局、政治家は何がしたいんでしょうか。」
僕は、お猪口の中に浮かぶ電灯の灯りを見つめながら僕はいった。
「これは、陰謀論なのかもしれないけれど、日本の崩壊を望んでいるのではないのかな。」
「え、なんでですか。」
僕と康平は声を揃えて先輩に言った。
「学生運動を経験した世代を親にもつ、もしくは新人だった頃の政治家はこの革命を恐怖したんだろう。自分たちが政治家として油の乗った時代、同じようなことが起きたらどうしよう。なんて考えた。彼らは、2度とこのようなことが起こらないように選挙の仕組みや民主主義の理論を導入した。しかし、このまま民主主義を続けていくとどうだろうか。」
僕は考えた。民主主義をそのまましてしまうと自分たちが年老いた時にどんどん淘汰れると。若者のが増えれば自分たちはマイノリティになる。
「自分たちがマイノリティーになる。」
「そのとおり。自分たちがマイノリティになってしまうんだ。そこで彼らは閃いたんだ。人口を増やさない政策をすればいい。そうすれば自分達がマジョリティでい続けられる。」
「それでも、自分達を同じ世代が応援してくれるとは限らないじゃないんですか。」
「そうだね。だけど大企業の人々への寄付金や税金緩和を行うことでそこからの票は稼げる。それら大企業は、広告やメデイアのスポンサーになることによって上手くメディアを使って日本国内の政治のイメージを操り、長年に渡って牛耳ってきた。」
「ああ。本当に嘆かわしいことですね。こうやって仕組みがずっと前から作られてきたなんて。」
「そうだよ。政治が腐敗した原因を若者が選挙に行かないと言ったりしてGDPなどの社会情勢を悪化させた責任を押し付け、ゆとり政策で若者に劣等感を植え付けさせ、反撃する力を摘み取った。彼らはずっと自分達の生きやすい日本を作っているんだよ。」
「でも、それと外国人の移民政策は何がつながっているんですか。」
「いい質問だね。2000年以降に日本のインターネット社会はどんどん発展していった。2010年にはインターネット普及率が70%を超えていき、どんどんかつてのメディアによる洗脳が効かなくなってきたんだ。インターネットにあげられる様々な情報を管理することはできなくなる。さらに、新しい産業が生まれていき、政治的に政策を後押しさせた頃の面影は無くなってきた。幸いなことに、人口減少によってネット社会に適応できない高齢者がマイノリティー社会である。テレビという旧型のメディア装置を返して得られる情報は昔同様、誘導される情報だ。自分達の地位は安泰だ。これから彼らが考えたのは、ある程度の教育がなされた日本人はある意味で脅威だ。そのため、外国人を入れることによって教育レベルや文化レベルの低くすることができる。日本人を右向けと言うよりも外国人に右を向けと言う方が簡単だからな。」
「そんな。それじゃあ、外国人をうじゃうじゃさせてどうなるんですか。」
康平の嘆きに対して僕は思った。簡単な話だろう。自分達はもう死んでいくだけ。最後の最後まで幸福に過ごしていければいいんだ。その後の日本のことなど微塵も考えてはいないのだ。自分達が死ぬまでの間の労働力は外国人労働者に養って貰えばいい。馬鹿な国民は決して何もしない。何かと文句を酒の肴に人々は政府に飼い慣らされているのだ。
「ドバイやその他の国では多国籍を受け入れていると言うのが言い分らしい。でも、実際は外国人労働者による地域社会の問題は様々あって、ゴミ出しや犯罪などが増えている。」
「他の国でも移民問題は大きな問題になっていますよね。アメリカやヨーロッパなどでもテロや移民労働者問題は数多くあげられているのに、メリットばかりに目が入っていますよね。」
「そんな。なら露祺や先輩が政治家になってこの国を救ってくださいよ。」
康平がお猪口の酒をグイッと呑みながら僕らに訴えてきた。僕は、こう言うことを何回か言われたことがある。でも、それは不可能なことなんだ。言葉で今の日本社会の問題点は挙げられるものの、実際に政治家になって実験を握るためにはそう単純じゃないのだ。
「康平のそう言う言葉は非常に嬉しいんだが、それは難しい話なんだ。」
「ど、どうしてですか。」
「立派な理念だけじゃ、政治は動かせないんだよ。」
「そうなんですか。」
「そうなんだよ。康平。政治家になる為には選挙に当選しなくてはならない。芸能人やアスリート、YouTuberのような知名度の高い人ならまだしも、知名度も大してないそこらへんの一般人が政界の支援も無しに当選することは難しいんだ。」
僕は、康平に現実を突きつけた。康平は、少し残念そうな顔をして僕の話を聞いていた。
「露祺の言うとおりだ。政界で活動する為には派閥をいかにして持つかが大切になる。聞こえの良い正論だけを掲げて政界に飛び出してみても、現実問題、大きな権力を持った上級国民や大企業のお偉いさんたちは興味がない。我々とは生きるスケールが違うんだ。我々の税金を増やしても企業のかかる法人税は安くなっていたりする。こういったところに恩を売るような政策を行うことだったり、いろいろ複雑なんだ。」
僕は、何だか悲しくなった。現実の社会では僕らがいかに無力なのかを自分達で証明してしまったのだ。学生の頃は、クラスで一番数学のテストの点数が良いとか、クラスで一番足が速いとかそんなことで優越感を得ていたが、社会に出てみるとどこまでもどこまでも上には上がいる。年収というステータスを他人と比較すると悲しくなるように。税金を納めるようになって、僕らは自分達の生きている社会の仕組みに目がいくようになった。大人というのはこういう社会の汚い部分に目がいくことなのだろうか。一度SNSを開くと煌びやかに暮らしている人たちは、この社会の闇についてどう思っているのだろうか。なぜ誰も動こうとしないのだろうか。そんなことを思ってみたが、実際自分自身も何も行動なんてしちゃいないことに気づいた。そう、結局他力本願に政治を見ているに変わりないのかもしれない。
「でも、このままじゃゆっくりと確実に日本は衰退していきますよね。」
僕は、ボソッと呟いた。その呟きには少し憂いを帯びていた。一同が少し、悲しい表情をしておちょこの酒を飲み干した。
「間違えないな。」
「じゃあ、どうすれば良いんでうかね。日本を救う為には。」
僕は、この問題に対していくつか考えていたことがある。そして、それに対して答えは大きな災害が起きることで政府が機能しなくなるとか、テロによって政府が落とされるとか、そういった他力本願なものだった。こんなフィクションじみた答えじゃ何も変わらないことも明確だった。先輩はどういった答えを持っているのだろうか。僕は、その答えに少し希望を持っていた。
「うーん。考えたことはなかったな。実際にどうするか。国会を占拠するとか。」
僕は少しガッカリした。先輩ならこの良い案を出してくれるのではないかと期待していたからだ。まあ、しかし予想通りと言えば予想通りの回答だった。大抵の場合、そこまで本気で今の現状を打開する名案など考えてはいない。それに、もしも画期的な案があったとするなら実際にやっているだろう。そんなことを思いながら、僕は先輩の無謀な意見に対して意見を述べた。
「結構それは無理がありますね。警備が頑丈なはず。」
「確かに。じゃあ、SNSで呼びかけて若者の集団を作るなんてどうかな。」
「良いですね。コミュニティを作って抗議していくのはアリだと思います。」
「問題は、その後だけどね。どうやって今の政府を変えるのか。」
「過去にあった宗教団体みたいなことをやるのはどうですかね。」
「人を殺してまで訴えることはあまり良くないんじゃないか。」
「大義には犠牲がつきものじゃないですか。」
「危ない思想だな。」
先輩が笑いながら康平の言葉に対して返事をした。僕は、宗教的な教祖の存在は確かに大切だと思うが、危険な気がした。キリスト教もイエスを失うことによってその統制は崩れた。歴史的にもよくある話だ。あの有名な、織田信長だって本能寺の変で撃たれ夢半ばで倒れた。頭があるとそこが弱点になる可能性が示唆されるのだ。その脆さゆえに悲しく散っていった人々は多かった。そんな嘆きを込めて僕は康平の意見に返事をした。
「宗教のような一人の指導者を置くのは危険な気がしますね。教祖を抑えられたそもそもの計画が破綻してしまう。教祖という存在が弱点になってしまうリスクがあります。」
「その考えは一理あるな。過去にあった宗教団体も頭を抑えられたことによって統制を失ったと聞くし。明確な原因があるとそこを突けば良いということになるからね。」
「ってことは、不特定多数の集団を作ればいいってこと。」
「そう簡単でもない。不特定多数の人が集まって集団を作ることは確かに有効なんだけど、それをしてしまうと集団の統制がつかなくなる。自分の私利私欲のために動いたりして本来なさねばならないものが成せなくなってしまう。それに、誰も当事者意識が薄くなってしまって、そこを疲れてしまう可能性が多い。」
「じゃあどうすればいいんだよ。露祺。」
康平が僕に訴えてきた。僕の答えを聞かせろと。真剣舐めをした康平を久しぶりに見た気がする。僕は、そんな康平に答えるべく口を開いた。
「シンボルとしての神は必要だと思う。何か一つのことを成す場合、それを信じていけるだけのすがる存在が必要だ。それは、カリスマ性のある神であって、ヘラクレスのような英雄のような存在であって、誰かを心地よく思わせるようで、雄弁な知識を持っている存在。だけど、それは実在する必要はないと思う。」
「つまりどういうこと。」
「つまりは、天皇みたいな象徴としての神様が必要だということ。そして、その象徴が架空の存在でもいいということ。」
「それはいいじゃん。それならトップを抑えられることもないし、集団がバラバラになってしまうこともない。」
「集団としてこの方法を採用するとして、実際どうやって政府を屈服させられるのかな。」
「そこなんですよね。先輩のおっしゃる通り、集団ができてもどうやって政府と戦うのかが問題なんですよね。康平はなんかいい案内の。」
康平は険しい顔をしながら考えているようだった。数分間、眉間に皺を寄せなが考えて、やっと口を開いた。
「水道に毒でも流しますか。」
「いや、ただのテロじゃん。」
「え、テロみたいなことをするんじゃないの。」
「違うよ。それじゃただのテロリストじゃん。」
康平はテロすることが日本を平和にすると思っているのか。ちょっと呆れた。まあ、実際問題そこを区別できる人がいるかどのくらいいるかわからないからな。
「でも、水道という線はかなりいいと思うよ。」
「ですよね。」
「人の70%が水なように、飲料に限らず洗濯やお風呂といって人は水道と言うライフラインは必須だ。ライフラインを占拠することによって政府は動かざる終えなくなる。そこから政治家たちと交渉に移ればいい。」
「確かに、ここで何もしなかったら政府は何をしているんだという問題になりますもんね。」
「ただ、一つの場所を押さえても国中がどうにかなるというわけではないから簡単に解決されてしまうんじゃないですかね。」
「それはそうだ。」
僕らは盛り上がっていたテンションが少し沈んだ。一つの事象じゃそこをすぐ押さえられてしまっておじゃんになってしまう。もっと大規模な何かを行わなくてはいけない。ただ、そこまで大規模になるとなかなか現実味が薄くなってしまう。爆弾を作るや国会を占拠するなんてSFじみた話だ。人の命を無闇に奪うような革命に未来はあるのだろうか。僕はそんなことをしてはいけないと思う。なぜならば、それはユートピアではなくただのディストピアになってしまうからだ。
「じゃあ、何か連鎖的に水道局を占拠するのはどうですかね。同時多発的に全国で行われたら政府もてんやわんやになるんじゃないですかね。」
「確かにそれはいい案じゃん。」
僕は康平の意見に賛同した。同時多発的な水道ジャックが行われれば政府は大混乱する。ただでさえ、未曾有の事態なのにそれが多数行われれば、今の政府ではパンクしてしまうだろう。そんな体力が今の政治家達にはないのは、かつて起きた震災の原発問題を見れば明らかだった。後手後手の対応になってしまい、大きな損害を出してしまった。このことを見てもこれらの手法はかなり有効な案であることがわかる。
「康平の言うのはかなりいい案だな。これなら政府を叩くことができるだろう。」
「てか、水道局ってセキュリティーとかどうなんですかね。厳重そうですけど。」
「水道局は意外と警備が緩いんよ。平和ボケしている日本の悪しき風習なんだ。せいぜい警備員が数人いるくらい。地方の水道局なんてもっと酷いもんさ。だから康平が水道といった時にとてもいい案だと思ったんだよ。」
「なるほど。簡単に占拠できちゃうんですね。」
「そうそう。だいたい今時の警備員なんて引退した高齢者が行なっているケースが多い。確かに引退したとはいえ強さはあると思うが、色々と工夫さえすれば簡単に突破できるようなもんさ。」
「確かに。大学の警備員の人もおじいちゃんばっかりだったもんな。」
「高齢化の影響がこう言うところに綻びを生じさせるなんて、ますます悲しくなりますね。」
「そうだね。その連鎖を断ち切るためにもここで誰かがやらなければならないな。」
そういってみんなでお猪口に入ったお酒をぐいっと飲み欲した。そのタイミングでちょうどよく、店員さんが僕らの方に駆け寄ってきた。
「すみません、そろそろお時間になっておりますのでお会計よろしいでしょうか。」
「あ、もうそんな時間ですか。」
僕らは慌てて時計を見ると22時を回っていた。こんなに時を忘れて飲み明かしたのは久しぶりな気がした。僕らは慌てて会計を済ませ、締めのラーメンを食べるために近くの一蘭に入ることにした。これは、学生時代からのお決まりのパターンだった。締めはラーメン。そんなことを先輩に教えられてからというもの、欠かさずにラーメンを食べていた。内心、どこまで胃が学生の頃のようについてきてくれるか不安だったが。そんなことを思いながら僕らは外に出ると、あまりの寒さに身慄いをした。早く温かいラーメンが食べたいと思い、寒空の下を小走りにお店えと向かった。
店に着くと、心地いい店員のいらっしゃいませーという言葉が響いた。食券を買って席についた。席に着くと食券が回収され、麺の硬さなどのカスタムを行い、ラーメンが出てくるのを待った。一蘭は、半個室で一人一人が食べることになっているシステムだ。ラーメンが来るまでの間、3人でさっきの話の続きを軽く行なった。
「おまちどうさまです。」
ラーメンが到着した。湯気が黙々と店内の天井に上がっていく。豚骨の香ばしい香りが僕の鼻口をくすぐった。僕は、めいいっぱい豚骨の香りを楽しんだ。蓮華をとりスープを一口口腔内に流し込む。濃厚な豚骨スープが味蕾を喜ばしているのを感じた。バリカタの麺を勢いよくズズっと吸い上げる。ああ、最高だった。酒に酔った体にラーメンが至高の酔いへと運んでいく。ああ、ユートピアはここにあるのかもしれない。そんなことを思いながらスープを最後の一滴まで飲み干した。飲み干したラーメンの器には、最後の一滴まで飲んで頂きありがとうございましたという文字があった。なんだろう、不意に感謝され何だか嬉しくなった。最近あまり悪いことが続いており、人に感謝されるなんてことがなかなかなかった僕にはとても嬉しく感じた。満足した僕らは、ふらふらと夜の博多の街を歩言っていた。途中、コンビニでお水を買い近くの公園で一休みすることにした。その間も寒空の下というのを忘れて懐かしい話を続けた。一時間くらい経っただろうか。流石に寒くなってきたところでそろそろ帰ろうかとなった。
「それにしても、今日は久しぶりに集まれてよかったよ。」
「そうですね。学生時代の馬鹿話とかできてよかったです。」
「本当に。またやりましょうね。」
「そうだね。またこうやって集まって飲めるといいね。」
「頑張って億万長者目指しましょう。」
「なんだそりゃ。まあ、お金持ちになって今度は銀座で寿司でも行こうや。」
「そうですね。」
バカな話をしながら僕らはお互いの帰路にたった。先輩は自宅に帰り、康平は彼女と暮らしているアパートに帰っていった。僕は、今夜はビジネスホテルに泊まることになっていた。ホテルまでの道を歩いていった。すれ違う人々は、年末ということもあって忙しそうに歩いていた。ホテルに着くと、チェックインを済ませ部屋に入った。背負っていた荷物を近くに投げて服を脱ぎ捨て、熱々のシャワーを頭から浴びた。先ほどまで冬の冷気で冷え切った体を温めていく。なんだろう。体だけじゃなく、心まで何か熱を帯びていく感覚に襲われる。「何かをなさねばならない。」そんな衝動が僕の胸を突き動かしていく感覚に襲われた。きっと酔いが思った以上に回っているのかもしれない。アルコールが僕の心を厨二病のようなハードボイルドな主人公感を見せているのだろうか。シャワーを浴びて、バスローブを纏い、ホテルのベッドに寝転がった。時刻は25時ー。長い1日だった。思えば、朝から新幹線に乗ってずっと博多までやってきたのだ。人混みにやられ精神的にも疲れていたんだ。僕は背負ったリュックによって強張った筋肉が脱力していくのを感じた。その疲れを感じた瞬間急に眠気が襲ってきた。ウトウトと首が上下にガクンと折れ曲がり僕は、睡魔に抗うことをせず、そのままベッドに横になった。徐々に意識が薄れていく最中、「また、夢を見るだろうか。」そんなことを思いながら僕は深海に潜るように深い眠りに落ちていった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?