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わたしだけではなかった

わたしが障害を抱え、今に至るまで ⑧

~現在に至るまでの経緯 その8~

 わたしは、あるきっかけが自身に訪れるまで、ずっと主治医にあまり本音を話さず、薬だけをもらうような診察を受けていた。前回の記事のようなネガティブな感情に自身が支配されているため、前向きな相談などは一切しなかった。そのあるきっかけだが、申し訳ないがその詳細は今は伏せさせてもらう。今のわたしにも、現時点でここで語ることがわたしにとって良い影響があるのか判断しかねるためだ。結果だけを話すと、わたしは自暴自棄になった挙句、家族に盛大に迷惑をかけることになる。わたしは家族が悲しむ姿を目の前にし、これ以上迷惑をかけたくないとほんの少し気力を取り戻す。しかし、やれることはもうなかったというわたしの認識が強く、どう努力をすればいいのかわからずにいた。
 そこで主治医に本当にほとんど期待などせず、どうリハビリをしていっていいのかわからないと相談をしてみた。と、主治医から「え?ここの上の階でリワークってのがやってるけど?いく?」


 詳細を聞いて驚いた。正直そんないいところがあるならなんでもっと早く教えてくれなかったんだと切に思った。以下、リワークの公式の紹介文だ。


<リワークとは>
 リワークとは、「リターン・トゥ・ワーク」の略で、精神疾患を抱える人の復職・再就職を支援する取り組みです。精神科病院やクリニックで実施されるものを医療リワークと呼びます。
<リワークのメリット>
① 定期的に利用することで実際の就労にあわせた起床・通勤・退勤・就寝という生活リズムを確立することができる。
② 様々なプログラムを通して業務遂行に必要な体力や集中力、判断、コミュニケーション能力、ストレス対処能力を養う。
③ 社会復帰という共通の目的を持った仲間に出会うことができ、時には悩みを共有し支え合い、不安を緩和することに繋がる。
④ 個別の担当スタッフが定期的に面談を行い、再発や休職を繰り返さないための対策を共に考える。


 わたしは、このリワークが自身にとってどれだけの有意義さがあるのかはわからなかったが、まだ明確にやれることがあるんだ、という事実に元気づけられた。精神保健福祉士のスタッフさんと面談し、とりあえず週2日から通わせてもらうことになった。


 わたしが通所していたリワークの1日の流れを紹介しておく。
9:00 受付開始
9:30 朝礼(一人一人当日の体調報告など)・ラジオ体操
10:00 活動記録表(一日何をして過ごしていたかまとめる表)などの記入
10:15 午前プログラム(リラクゼーション・書類作成・病識の講義など)
12:00 昼食・休憩
13:30 午後プログラム(グループワーク・SST・認知行動療法など)
15:00 会計・振り返りシート(その日の気分の変動や感想を書く)の記入
15:10 掃除
15:20 終礼(一日の気分の移り変わりやプログラムの感想など) 


 リワーク初日。わたしはきっとこの日を一生忘れないと思う。
 わたしが受付を済ませると、扉を一つ隔てて、少し広めの(15畳くらい?)のフロアがあった。中には9名席に着いている方々が見えた。荷物をロッカーにしまい、どこに座ろうか少し迷っていると、座っているある方が隣の席を差しながら「ここに座りな」と声をかけてきた。かなりガタイの大きい男性で、年はおそらく50くらいだろうか。服は黒で結構派手目な金の刺繍(龍?)のある服を着ていた。両手の手首には二つか三つか大きめの数珠を身に着けていた。
怖い、、人ではないのかな?
促されるまま、わたしはお礼を言い席に着く。そんなに怖くはなかったが、内心少し心配だったのは内緒だ。わたしはあまりこちらから話しかける人間ではないので黙っていると、その男性がなにやら手元の紙に書き始めた。そして、その書いていた紙をすっとわたしのほうに差し出した。そこには、人の名前と思われるものが間隔を空けて書いてあった。そして、「あの男性は〇〇さん、あの女性は△△さん」と小声で丁寧に説明してくれた。「名前を覚えれば早めになじむことができるだろうから」と意図を説明してくれた。わたしはこの時点で確信した。ここは良いところだと。
 午前のプログラムは茶道教室だった。リラクゼーションの一つだ。お茶の作法を習いながら、お茶とお茶菓子を楽しむのだ。どんな有意義さがあるのか説明しておくと、一つは純粋に自分をリラックスさせる訓練だ。休息するときは休息する。切り替えは大事だ。そしてもう一つ。こちらが重要で、楽しめるか楽しめないかで自分の状態を知るヒントになる。これは応用することで、復帰後の体調管理にも繋げることが出来る。また、リワークでリハビリを進めていくと自分の状態が変わっていく。状態が変われば、感じ取ることも変わっていく。前回より楽しめた、ということならば回復の兆候があると言える可能性は高い。話を戻すが、わたしは長期で家に引きこもっていたため、なにかを覚え、実際にやってみるという行為そのものが久しぶりだった。真剣に取り組みすぎて皆に少し笑われた。しかし、わたしは嬉しかったのだ。自分がなにかに取り組んでいるという事実そのものが。
 午後はオフィスワークだった。個人に書類作成の課題が与えられるため、それに集中して取り組むのだ。わたしの最初の課題は、「双極性障害とは」という書籍をわたしなりに要約するといったものだった。わたしは今から思い出しても常軌を逸した勢いで要約を進めた。課題を与えられることそのものがそれほど嬉しかったのだろう。最初は1週間ほどかけるであろう要約を、わたしは3日とかけず提出することになる。


 わたしは家に帰ったあと、良い場所に出会えたと舞い上がっていた。週2日ではなくてもっと通いたいと強く思った。双極性障害の知識が少しある方ならもうお分かりいただいているだろうが、この時のわたしは完全な躁状態であった。当時は自分を俯瞰して見て異常に気付くということはまだ知らないため、わたしは通所2日目にして担当のスタッフに日数を増やしてくれと迫り困らせた。結果的にわがままを聞いていただき、週3日増やしてもらった。


 リワークに通い始めて、2週間経った頃、わたしは衝撃を受けることになる。とある方の自己分析発表を聞いたのだ。自己分析発表とは、過去の自身の発症した経緯をまとめ、その再発防止策を発表するというものである。その方も双極性障害を患っていた。原因はパワハラ。その方も就職してすぐ熾烈なパワハラに遭い、何年も苦しみ続けてきた人だった。わたしは、発表を聞いたときになににショックを受けているのか自身でわからずにいた。家に帰り、その方の発表資料を眺めていても答えは出ない。その答えは、夜中布団の中に入って初めて行き当たった。
わたしだけじゃなかった!わたしだけじゃなかった!
わたしの頭の中はこの言葉でいっぱいだった。自身が双極性障害を背負ってからここに至るまで約12年。わたしは心のどこかで、こんなつらい経験をしているのは自分だけだと、そう思い込んでいたのだ。その日は眠れなかったのをよく覚えている。わたしは、リワークでの活動を真剣に取り組んでいこうと心の底から思った。どうしようもないと思っていた自分を立て直すことが出来るかもしれないから。


 ここから先、わたしはリワークの活動で自身と向き合うための土台を作っていく。活動を通して本当にいろいろなことを学んだ。次回からリワークでの具体的な内容について触れていく。プログラムに対するわたし自身の見解もあるので、リワークに興味のある方やよくご存じの方もぜひ。

今回の経緯はここまでです。


~後述~

 今回でやっとわたし自身と向き合うきっかけを得ました。ですが、リワークに参加するだけですべてが解決するわけではないです。わたしの苦労はまだまだ続きます。
 皆さんも復職や再就職のリハビリ方法に悩んでいる方はみえませんか?もし、皆さんの通える範囲にリワークが存在するのならば行かない手はないと思います。例えばですが、皆さんの仕事に必要な体調に対する数値が10だったとします。この数値は、体力、集中力、ストレス耐性、その辺を指していると考えてください。家で日常生活を送り、ウォーキングなどの体力作りをしたところで、届く数値は精々3がいいところです。階段を3段目から10段目へ飛べますか?無理なんです。飛ぼうとすると、届かないだけならまだいいですが、バランス崩して転んで、大けがをした挙句0まで戻ります。また最初からやり直しです。ではリワークでリハビリした場合はどうなるでしょう。様々な面から自身を整えることが出来るため、本人の努力次第ではありますが、安全に7くらいまでは登れると考えています。この「安全」にというところがリワークの最大の利点です。リハビリの途中で体調を崩す方も見えるので、そういった時は相談の上、引き返せばいいですし、人間関係のトラブルが起こっても必ずスタッフの仲介が入ります。精神障害を持ってしまったわたしたちはとにかくバランスを崩しやすい。それゆえに守られた環境で社会に出るために訓練する場所は貴重です。と言っても、リワークでリハビリを行っても、10には及びません。でも安全に近づけることが出来るんです。3から10か、7から10か、どちらが現実味があるか明白だと思います。ただ、一つ注意してほしいのは、リワークに通っていようといまいと飛ばなければいけないタイミングがやってきます。その時にバランスを必要以上に崩さないよう、自身に必要な対策をしっかりリワークで考えていってください。それが、また転げ落ちて大けがをして戻ってくるのか、そうでないのかの分かれ目になってきます。ご自身の一番見たくない、認めたくない部分が、見つめなおさなければいけない部分だとわたしは考えています。結果には原因がある。正確な原因を掴んでいない以上、有効な対策を導き出すことは叶いません。リワークでの自己分析はそれを見つける絶好のチャンスです。チャンスをぜひ活かしてください。
 補足しておきます。リワークの自己分析発表について触れていますが、これは強制ではありません。皆から客観的な意見や改善案をもらえるので、可能であれば発表したほうがいいですが、発症した原因が人によっては話しづらい、または話したくない内容もあります。それは担当の心理士さんと相談できるので、なにも心配はいりません。
 精神障害で苦しみ、家であれこれ考えてみえるかたがたくさんいらっしゃると思います。もし、散歩できるくらいにあなたが回復しているのであれば、一度主治医に相談してみてください。たとえその病院にリワークがなくとも、紹介してもらえていた例も知っています。少しでも興味がわいたと思われるのであれば、相談してみてください。もしかしたら、そこにあなたが立ち直るきっかけがあるかもしれない。

それでは、また。
皆さんの行き先に明るい未来がありますように。

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