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〈偏読書評 番外篇〉今週、度肝を抜かれた装幀と、これからの装幀の役割について

今週、仕事用・私用ふくめて入手した本の中で、度肝を抜かれた書籍の装幀をいくつかご紹介します。

まずは本谷有希子さんの短篇集『静かに、ねぇ、静かに』(講談社)。インスタグラムやネットショッピングなど、SNSに人生を翻弄されてしまっている人々を描いた3篇が収録されています。ちなみにタイトルをローマ字表記にすると「Shizuka ni, Ne-e, Shizuka ni」(=頭文字を並べるとSNS)となるのもいい……。

自分は『群像』に3篇一挙掲載された時点で読んでいたのですが(なぜなら本谷さんへ取材する予定があったので)、むちゃくちゃ面白いです。あと自分はインスタ映えする写真を撮るだけのために、食べ物とかをムダにしたり、周りの人の迷惑を考えない類の方々が苦手というか嫌いなので、冒頭に収録されている『本当の旅』は読んでいて、ちょっと(いや、かなり)スカッとした気持ちになりました。

ちなみに取材させていただいた際も、SNSやら動画撮影やら自撮りにハマる人たちに感じる“異様さ”についても本谷さんとはあれこれ話した&盛り上がったのですが、取材のテーマとは関係なかったので記事にはできず……どこかで記事にできないかなぁ……。

いきなり&思いっきり脱線してしまいましたが、話を装幀に戻しましょう。まず度肝を抜かれるのが、タイトルの『静かに、ねぇ、静かに』が左右反転していること。文芸本でタイトルを左右反転させるのって、実は前代未聞なのでは……!?

ちなみに、このデザインの意図ですが、装幀を手がけられた佐藤亜沙美さんのツイートによると……

……というもの。収録作品のテーマとマッチしていて素敵だし、何より実際に単行本を手にした読者が撮影したくなる(そしてSNSなどにアップしたくなる)仕掛けもこめられてて良い。

それと、もうひとつ度肝を抜かれたのは(「おまえ、いくつ肝があるんだよ」というツッコミはさておき)カバーなどの特殊加工。こちらの詳細についても、佐藤さんのツイートをお読みいただくのが良いかと。

このUVシルクの厚盛りっぷりが、かなりすごいのですよ。書店などで本を手にしたときに、ちょっとゾワッとしちゃう人もいるかもしれません。

続いてご紹介するのは、名倉編さんのメフィスト賞受賞作かつデビュー作である『異セカイ系』(講談社タイガ)。デザインを手がけられたのは、篠原香織さん(ビーワークス)。〔追記*ムシカゴグラフィクスさんが手がけられたのは装丁フォーマットでした。誤記、大変失礼いたしました〕

書影は発売前から講談社タイガのサイトなどで目にしていたのですが、手にしてビックリしたのが……

……と、てっきり白地をベースとしたデザインのカバーだと思っていたら、なんと特大帯だった! しかも穴があいている! 文庫本の特大帯は、今ではそんなに珍しくないものとなりましたが、穴があいているのは初めてみたような気が……。というか特大帯をつけたままでも、外しても、デザインがイカしているって、どういうこと……っ!?

あと「どちらも版元は講談社」「どちらも白+黒+ピンクをデザイン上のベースカラーとしている」という偶然の一致にも、個人的にはグッときました。2冊並べると、なんか姉弟みたいな雰囲気が出るのもいい……

こういうプロダクト的な面白さ&楽しみが「本」の装幀にはあるので、電子書籍は便利だと頭では理解しながらも、自分はついつい「本」を買ってしまうのだと思います。

ちなみに少し前に、イタコ漫画家こと田中圭一先生がTwitterにて、こんなことを言っていました。

これはマンガの単行本だけでなく、文芸作品の単行本でも同じことが言えるような気が自分はします。

文字のみで構成される文芸作品の場合、その作品の世界観を視覚化する&手に取れるものにするのが装幀だと思うので、装幀の良し悪し(もしくは作品とのマッチ具合)が単行本の売り上げに、今後さらに大きく関係してくるようにも感じています。装幀家さん&ブックデザイナーさん、大変だろうけど頑張って……!

あと、装幀についてではないのですが、単行本の発売前に、ネット上で無料で作品(の一部、もしくは全部)を読めるというのがプロモーションの手法として定着するのではないか、というのも少し思っています。実際『静かに、ねぇ、静かに』は単行本の発売前に、期間限定で収録作『本当の旅』がネット上で無料連載されたし……

9月5日に発売される浅生鴨さん(元「NHK_PR1号」の中の人)のエッセイ集『どこでもない場所』も現在noteにて収録内容を(書籍のメイキングや、収録できなかった作品も含めて)無料公開している。

「内容をある程度は把握してからの方が、安心して本を買える(本のためにお金を使える)」という人の方が、実は多いような気がするので、このプロモーション方法が吉と出る可能性が高いような気が若干しています。これに関しても今後、注目していきたいところです。

ちなみに前述した本谷さんへの取材記事ですが、ウェブでも読めますので、気になった方は、ぜひこちらもどうぞ……。

尚、同じ媒体の10月号(8月28日発売)では、またもや芥川賞作家さんに取材をさせていただき、インタビュー記事を書かせていただきました(しかもこの方も、本谷さんと同じく〈芥川賞受賞後第一作〉が近々刊行される)。こちらも面白い内容になった(と自分では思う)ので、雑誌が発売されたら(勝手に)告知させていただきます……っ!!

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