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詩「衛星軌道」

「君が好きだ」という陳腐な言葉で
僕はこの旅にピリオドを打った
ふたりが描いたふたつの線は
この空に確かな軌道を描いてきた

褪せたシャツでも外に出れた
夏のふざけあった坂道
埃っぽいコートをびしょ濡れにした
まだ誰もいない雪野原

覚えてる
覚えている
昨日のことのように思い出せる
瞳のカメラと頭のメモリーでいつでも呼び出す
きょうも、あしたも、そのさきも
きっとこの軌道は伸びていく

穏やかな空の下を電車は行きかう
無数のカメラとフィルムを満載にして
その一つ一つに無限の時間が記録されていて
映画にするには原作にはきっと困らないさ

花粉がひどいねなんて言って
いつもマスクしてた春の日
黄色が好きだからなんて理由で
銀杏並木眺めてた秋の日

覚えてる
覚えている
昨日のことのように思い出せる
瞳のカメラと頭のメモリーでいつでも呼び出す
きのうも、おとといも、そのまえも
きっとこの軌道は伸びている

いつかこの荷物を下ろす日には
2人で喜びの歌を歌おう
いつまでも共に居られる魔法をかけて
背中の翼で手を取り登って行こう
首から下げたフィルムカメラで
覚えていられないことは記憶しよう

僕らは共にいよう
いつまでも夢で逢おう

「君が好きだ」という陳腐な言葉で
僕はこの旅にピリオドを打った
ふたりが描いたふたつの線は
やがて一つの軌道に交じり合った



[了]



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