小説『私たちは何処へ往くのだろうか?』第五話
初老の男とガタイの良い黒服集団、そして何かもぐもぐ食ってるデブの男。見たらわかる。父親と追っ手の集団である。とうとうラスボス登場か、と言わんばかりにレナは男たちに視線を向ける。
「おいユウ!いいから、こっちに帰ってきなさい!今ならお前のしたことは全部許してやるから、来い!」
「馬鹿言ってんじゃないわよ色ボケ親父!あんたは新宿二丁目のオカマバーでテキーラキメてケツの穴でも掘られてなっつの!」
「なんだその態度は!お父さんは二丁目になど行かん!歌舞伎町のぼったくりバーに行って店員を返り討ちにするのが父さんの趣味だ!!」
「冗談言ってんじゃないわよ、穴にぶち込みすぎてあんたが切れ痔になってボラギノール軟膏塗りたくってんの知ってんだからね‼」
「ユウ、周りの目もあるからその辺にして…」
自分たちが好奇の目に晒されていることを悟ったエリート野郎が止めにかかる。さっきまで借りてきた猫のようなおとなしさで車に同乗していたのに、親の前になると恐ろしいほどに豹変する。この親にしてこの子ありね、とレナは言いかけた。
「だいたいなんでこんな汗っかきのデブとわざわざ結婚しなくちゃいけないのよ⁉拷問ですかぁ⁉とっとと相撲部屋に放り込めっつの‼私は、ニューヨークに行ってこの人と暮らすの‼」
「許すかそんなもん‼おいお前ら、ユウを連れ戻してこい!」
「レナさん…⁉」
「悪いねぇ。女だからって見くびってもらっちゃ困るから。彼女は渡さないわよ」
黒服は表情を変えることなく、レナに飛び掛かってきた。
1人目がレナの腕をつかみにかかる。それを振り払い、相手の腕を取ってフルスイングの一本背負い。スキを突いてくるもう一人の黒服に金的を食らわせ、三人目と四人目はまとめてぶん投げる。一秒も無駄のない動き。レナはあっという間に、黒服をまとめて始末した。
その直後。
左右から追っ手とは別の男たちが出てきて、レナたちを包囲した。その中には、警官の制服を身にまとった人間もいる。どういうことなのか。ユウは理解できなかった。レナは、白いワンピースのポケットの中から、紙切れを取り出した。
「厚生労働省、関西厚生局麻薬取締部・取締官の桜木です。株式会社山下貿易の山下権蔵社長ですね。大阪港及び横浜港での麻薬密輸入に関して、大麻取締法と関税法違反の容疑で逮捕します」
包囲した取締官たちが、一斉に身柄を確保する。
「コラ!離せ!おいユウ!全部お前のせいだぞ‼聞いてんのかぁ‼」
父親は最後まで抵抗を示していたようだが、警察のワゴン車に無理やり押し込まれて、すぐに成田を後にした。
-つづく-