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みやまる・スポーツブックス・レビュー

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#エッセイ

猪木の粋な息づかい:アントニオ猪木「猪木詩集『馬鹿になれ』」

猪木の粋な息づかい:アントニオ猪木「猪木詩集『馬鹿になれ』」

「そのまんま」の猪木

 昨年10月1日、アントニオ猪木の訃報に接した際、「あの猪木さんでも、最期にはやっぱり天国へ行ってまうんだ」という風に感じた。一度生で目にしたことがあるにも関わらず、どこかマンガのキャラクターのような、我々一般人とは明確に一線を画す存在のように感じていたのだ。あの「猪木」に「死」なんて似合わない。心のどこかでそんな風に思ってしまっていた。

 私が大学生だった10年前、西武

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相撲と野球のがっぷり四つ:赤瀬川隼『さすらいのビヤ樽球団』

相撲と野球のがっぷり四つ:赤瀬川隼『さすらいのビヤ樽球団』

「ビヤ樽体型」の選手たち

 フィリップ・ロスは『素晴らしいアメリカ野球』で、国技である野球の、架空のリーグの歴史を語ることで、アメリカという国が持つ精神性を小説に描いた。
 日本でも高橋源一郎『優雅で感傷的な日本野球』や小林信彦『素晴らしい日本野球』、赤瀬川隼『球は転々宇宙間』などのフォロワー作品が生まれ、国技ではないものの、国技のように日本国民に愛されるスポーツ、野球を通じて、日本の精神性を表

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江分利満氏の静謐なる職業野球論/山口瞳『昭和プロ野球徹底観戦記』

江分利満氏の静謐なる職業野球論/山口瞳『昭和プロ野球徹底観戦記』

 山口瞳の直木賞受賞作、『江分利満氏の優雅な生活』は文学というジャンルの奥深さを柔らかく指し示す小説であった。「every man(普通の人)」から命名したであろう、著者の分身たる江分利満(えぶり・まん)氏が送る戦後のサラリーマン生活は、家庭も仕事もどこか不完全で欠けている印象であるが、そんな日常も悪くはない。そもそも戦争で死ぬはずだったのに、「普通の人」となったのだから……。敗戦を「僥倖」と表現

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「栄光」という光の裏側にあるもの:沢木耕太郎『敗れざる者たち』

「栄光」という光の裏側にあるもの:沢木耕太郎『敗れざる者たち』

 中学生の時に2002年のサッカー日韓ワールドカップを取材した『杯(カップ)-緑の海へ-』を読んで以来、スポーツや映画を中心に様々な沢木耕太郎「私ノンフィクション」を読んできた。都会的でありながら、アスリートや役者の肉体にこもる芯の熱くなる部分も忘れない、シャープな文体のファンである。
 今回の『敗れざる者たち』については「なんで今まで読んでこなかったんだろう…」と、少し後悔すら感じるような「珠玉

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「コンプレックス」の国のスーパースターがもしも:ピーター・レフコート『二遊間の恋ーー大リーグ・ドレフュス事件』

「コンプレックス」の国のスーパースターがもしも:ピーター・レフコート『二遊間の恋ーー大リーグ・ドレフュス事件』

 アメリカ合衆国は「complex」の国と聞いた事がある。人種、宗教、思想などが複雑に「複合」している国であり、一方で、そうしたあらゆるものが大陸からの“借り物”であり、そこに「劣等感」を抱いている国という意味だという。だからこそ、合衆国の国技たるアメフトや野球といったスポーツに熱中し、その頂点に立つものはアメリカンドリームを得た者として賞賛を浴びる。
 『素晴らしいアメリカ野球』、『ユニバーサ

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最新の「人材論」をわかりやすく:お股ニキ『なぜ日本人メジャーリーガーにはパ出身者が多いのか』

最新の「人材論」をわかりやすく:お股ニキ『なぜ日本人メジャーリーガーにはパ出身者が多いのか』

 タイトルを見て「確かにその通りだけど、そういやどうしてだ?」と思った。このタイトルには昨今の「パ高セ低」の謎を探る、といった意味合いも込められているように感じ、手に取った。西武ファンかつパリーグ贔屓の自分が、ちょっと自慢に思ってるこの現状の、根拠を確認できる良い本だろうと思った。
 お股ニキの本を読むのは初めてではない。千賀滉大を始めとする球団関係者をも唸らせた『セイバーメトリクスの落とし穴』(

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