Mitsuki
出航は順調だった。 船はゆっくりと川の流れに乗っていた。 季節は乾季だったので、川の水量が減っていて、対岸が辛うじて見えていた。 空はどこまでも青く、透き通るよう…
ベナレスは観光地なので、ガンジス川には観光客を乗せる遊覧船のようなものがたくさんあった。 観光客は船に乗って、ガンジス川から、ガートやお祈りの様子を見るのだ。 ガ…
2005年10月1日土曜日 長らく滞在したカトマンズを出発する。 ようやく、ガンジス川の川下りに本腰を入れることなる。 そのあとは、西のほうに向かって移動する予定だ。 そ…
エベレストに登頂したことをどこかで聞きつけて、日本のテレビ局が取材に来た。タイトルは「連れ戻したい、放浪息子の行末は」だった。 海外で生活している人に会うために…
ケイイチの長い旅の中には掛け替えのない登場人物が何人もいる。 その中でも近江さんの存在は特別だった。 最初に会ったときは、ずいぶん横柄な人だな、と思った。 それ…
エベレストの頂上では、登頂の余韻に浸る暇もなかった。 山頂は3畳ほどの狭いスペースで、景色を眺めている余裕もない。 何より、標高8000mより高い場所は「デスゾーン」…
シェルパが先に出発した。 迷わずに進んでいく背中を追うように、ケイイチも出発する。 ヘッドランプに照らされた足元を確認しながら、一歩一歩確実に進む。 前を見れば…
ジョセフを見送り、風もない青い空を見上げた。 30分後にはどうなるかわからない空。 日本の気象情報を信じて、僅かな希望にかけてキャンプ2に残ったが、本当に頂上まで…
頂上へのアタックを延期することにして、一度キャンプ2に戻った。 改めて各国の気象情報を集めると、次に天候が改善するのは27日だと言う。 順調に頂上までアタックでき…
高度順応が終わり、いよいよエベレスト登頂へのアタックが始まる。 頂上へのアタックには、最短で6日かかる。 まず、ベースキャンプからキャンプ2まで一気に登り1泊。 2…
1回目は、ベースキャンプからキャンプ1まで行って、数時間滞在して、ベースキャンプに戻った。 2回目は、キャンプ1で一晩過ごした。 早く挑戦したいと早る気持ちと、高度…
2005年4月13日、いよいよ挑戦が始まる。 テントの中で、必要な装備を確認しながら身につけた。 一つのミスが命を危険に晒すのだ。 確認を何度しても、不安は拭えなかっ…
1年のうち、エベレスト登山ができるのは春と秋だけ。 年に2回だけなのだ。 しかも、秋は難しいので、ほとんどの人は4月5月にネパール側から登る。 2005年春、ケイイチと…
2005年1月、カトマンズまで順調に戻り、エベレスト挑戦の準備を始める。 実は、決めていた登山会社から手続きの条件として、一つ、ミッションを課せられていた。 それは…
600万円の資金集めに、ケイイチは少しどんよりしていた。 金額が途方もない。 手品で稼げる額じゃない。 支援を募っても、誰が支援してくれるのか。 どのくらいの額が…
2004年6月27日、エベレストがあるネパールに入国。 正確には再入国だ。 長らく走ってきたインドを出国して、ヒマラヤの麓に位置するネパールへ来たのだ。 気持ちを引き…
2022年5月15日 19:09
出航は順調だった。船はゆっくりと川の流れに乗っていた。季節は乾季だったので、川の水量が減っていて、対岸が辛うじて見えていた。空はどこまでも青く、透き通るように晴れていて、水面は静かだった。景色は変わらない。ぶつかりそうな物もない。このまま穏やかに海まで流れていけるのなら、なんて穏やかな船旅だろうと思った。ケイイチはそんな期待をしながら、それはそれで面白くないな、などと考えていた。
2022年5月9日 08:42
ベナレスは観光地なので、ガンジス川には観光客を乗せる遊覧船のようなものがたくさんあった。観光客は船に乗って、ガンジス川から、ガートやお祈りの様子を見るのだ。ガンジス川沿いを歩いていると、船に乗らないか、と客引きに声をかけられる。船の知識が全くなかったケイイチは、その客引きに、あの船はいくらか、と尋ねて回った。そうする事で、船の相場の値段を知ろうとしたのだ。もちろん、客ひきは船の値段など知
2022年4月29日 19:17
2005年10月1日土曜日長らく滞在したカトマンズを出発する。ようやく、ガンジス川の川下りに本腰を入れることなる。そのあとは、西のほうに向かって移動する予定だ。そうなれば、しばらくここに戻ってくる事はないだろう。ケイイチは、朝のカトマンズの空気をゆっくりと吸い込んだ。いつもそうだが、その地についた最初の日と、その土地を去る日は特別な思いがある。特に、カトマンズには長くいたこともあり、
2022年4月1日 16:27
エベレストに登頂したことをどこかで聞きつけて、日本のテレビ局が取材に来た。タイトルは「連れ戻したい、放浪息子の行末は」だった。海外で生活している人に会うために、日本から家族などがやってくると言う番組。実は少し前、実家に電話した際に、TV局からそう言うオファーがあったけど、父親が嫌がって断った、と言う経緯を聞かされていた。それはTV嫌いの父親らしいな、と思って、聞き流していたのだ。その日
2021年11月21日 10:27
ケイイチの長い旅の中には掛け替えのない登場人物が何人もいる。その中でも近江さんの存在は特別だった。最初に会ったときは、ずいぶん横柄な人だな、と思った。それは、エベレスト登頂から遡って、2年前の5月。中国の雲南省を2ヶ月かけて走り抜け、ラサに辿り着いたケイイチは、久しぶりのインターネットを求めて、インターネットカフェを訪れたそこで、店員に向かって日本語で文句を言っていたのが近江さ
2021年11月15日 17:49
エベレストの頂上では、登頂の余韻に浸る暇もなかった。山頂は3畳ほどの狭いスペースで、景色を眺めている余裕もない。何より、標高8000mより高い場所は「デスゾーン」と呼ばれていて、滞在しているだけで、身体の細胞が破壊されていくのだ。15分ほど写真を撮ったりした後、下山の準備を始める。登山では、下山中の事故も多い。重力に任せて足を運ぶので、登りよりは体力は使わないが、危険度は変わら
2021年10月4日 14:21
シェルパが先に出発した。迷わずに進んでいく背中を追うように、ケイイチも出発する。ヘッドランプに照らされた足元を確認しながら、一歩一歩確実に進む。前を見れば、先行者のランプの明かりが揺れていた。その先に、黒く浮かび上がるエベレスト。そして無数の星。現実とはとても思えない景色の中に、ケイイチはいた。踏み出す足が雪を踏む音だけが、ケイイチを現実へと引き戻す。頂上へ向かって
2021年10月2日 20:03
ジョセフを見送り、風もない青い空を見上げた。30分後にはどうなるかわからない空。日本の気象情報を信じて、僅かな希望にかけてキャンプ2に残ったが、本当に頂上まで行くことができるのだろうか。人間の力ではどうすることもできない。祈るような気持ちになった。実力があってもエベレストに登ることはできない。全ては空が決めるのだ。ヤキモキしながら、天候が落ち着くのを待った。5月28
2021年9月25日 18:16
頂上へのアタックを延期することにして、一度キャンプ2に戻った。改めて各国の気象情報を集めると、次に天候が改善するのは27日だと言う。順調に頂上までアタックできるとして4日掛かるので、ギリギリ5月中に登れそうだが、登山は登るだけではない。下山の2日を考えると、6月に入ってしまう。これまでのエベレストの登頂記録を見ても、その全てが5月中だ。気温の上昇は雪を溶かし、アイスフォールの氷
2021年9月22日 18:09
高度順応が終わり、いよいよエベレスト登頂へのアタックが始まる。頂上へのアタックには、最短で6日かかる。まず、ベースキャンプからキャンプ2まで一気に登り1泊。2日目にキャンプ3まで登ってまた1泊。3日目にキャンプ4まで登って、4日目のまだ暗いうちに頂上へのアタックへ向けて出発する。その後、ベースキャンプまで2日かけて降りてくるので、全部で6日の行程になるのだ。もちろん、毎日が
2021年9月20日 13:34
1回目は、ベースキャンプからキャンプ1まで行って、数時間滞在して、ベースキャンプに戻った。2回目は、キャンプ1で一晩過ごした。早く挑戦したいと早る気持ちと、高度順応に対応できているのかの不安とが、ケイイチの中で揺れていた。エベレスト登山は、ベースキャンプ、キャンプ1、キャンプ2、キャンプ3、キャンプ4まであるのだ。まだキャンプ1までしか行けていない。風が強い日なども登山はできな
2021年9月17日 17:52
2005年4月13日、いよいよ挑戦が始まる。テントの中で、必要な装備を確認しながら身につけた。一つのミスが命を危険に晒すのだ。確認を何度しても、不安は拭えなかった。大きく息を吐くと、テントのジップを開ける。出発の前にプジャというお祈りをした。石を2mほど積み上げて塔を作り、木の棒をさして、そこから四方に向かってカラフルな旗を張り巡らせる。チベットの峠に立っていたタルチョ
2021年9月15日 18:44
1年のうち、エベレスト登山ができるのは春と秋だけ。年に2回だけなのだ。しかも、秋は難しいので、ほとんどの人は4月5月にネパール側から登る。2005年春、ケイイチと同じ登山会社からエベレストに挑戦するのメンバーは17人いるらしい。ベースキャンプでの集合になると言うことで、ケイイチは再び、行けるところまで自転車で移動することにした。出発の前まで、カトマンズ近郊の山で、ザイルワークの
2021年9月13日 19:28
2005年1月、カトマンズまで順調に戻り、エベレスト挑戦の準備を始める。実は、決めていた登山会社から手続きの条件として、一つ、ミッションを課せられていた。それは、6000m級のアイランドピークへの登頂に成功すること。高所登山が他の登山よりも過酷な理由になる「高山病」を発症する体質かどうか。それを自分自身の身体で確認してこいと言うのだ。赤城山にしか登ったことがないケイイチは、登山
2021年9月4日 18:38
600万円の資金集めに、ケイイチは少しどんよりしていた。金額が途方もない。手品で稼げる額じゃない。支援を募っても、誰が支援してくれるのか。どのくらいの額が集まるのか。全くの未知数なのだ。もちろん、1円も集まらない可能性だってある。ケイイチは他のエベレスト登山を組織している会社にも話を聞きに行くことにした。エベレスト登頂名簿というものがあってどこの会社に所属して登頂し
2021年8月31日 17:55
2004年6月27日、エベレストがあるネパールに入国。正確には再入国だ。長らく走ってきたインドを出国して、ヒマラヤの麓に位置するネパールへ来たのだ。気持ちを引き締める。そして準備を始める。まず、登山の訓練をしなければならない。知識も経験もほぼないものの、2年ほど訓練すればエベレストに挑戦できるのではないかと考えていた。何より、エベレストのあるネパールで訓練をすれば、登山