【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.27 3つの0から始める挑戦④
2004年6月27日、エベレストがあるネパールに入国。
正確には再入国だ。
長らく走ってきたインドを出国して、ヒマラヤの麓に位置するネパールへ来たのだ。
気持ちを引き締める。
そして準備を始める。
まず、登山の訓練をしなければならない。
知識も経験もほぼないものの、2年ほど訓練すればエベレストに挑戦できるのではないかと考えていた。
何より、エベレストのあるネパールで訓練をすれば、登山のことはもちろん、エベレストの情報も集められる。
これは一石二鳥ではないか。
ネパールの滞在ビザは60日。
ケイイチは首都のカトマンドゥに行って情報を集めることにした。
エベレスト登山の挑戦者はカトマンドゥに滞在するということは知っていた。
登山会社があり、登山の道具が手に入る。
安くて居心地のいい宿もある。
海外からエベレスト登山のために集まる人と知り合えるかもと言う期待もあった。
地元の赤城山にしか登ったことしかない自分が、エベレストに登れるのか。
できるか、できないかではない。
行くのだ。
それにしても手掛かりが全くない。
どうしたらエベレストに登れるのか全くわからない。
でも、ここからエベレストに登れるはずなのだ。
カトマンドゥで情報を集めていると、日本人の女性に出会った。
群馬から来たという。
同じ群馬出身ということで、とても親近感を感じ、さらに詳しく訊いてみる。
すると、なんと同じ学校の卒業生だったのだ。
しかも一つ違いで、きっと学校ではすれ違っていただろうし、共通の知り合いや学校の先生のことなどで盛り上がって話をした。
ケイイチはとても運命的なものを感じた。
こんなことってあるのか。
日本から遠く離れたネパールで、同郷の、同じ学校の卒業生に出会うなんて。
数週間の間、何度も彼女と会って、たくさんの話をした。
ケイイチにとって、とても楽しい時間だった。
自転車旅をしていてお金がないことも知っていたので、食事を奢ってくれたりもした。
とてもいい感じの関係になれた。
長い旅の中で初めて、彼女と呼べる存在ができたのだ。
と言っても、旅行者である彼女は日本に帰る日が刻一刻と迫っていた。
どうするの?と訊かれる。
どうする?
一瞬考えて、ケイイチはニカっと笑った。
「じゃぁ結婚すっか」
とある漫画の主人公のようなセリフだ。
それでも彼女は、「いいよ」と言ってくれた。
結婚。
あまりにも急に湧いてきたライフイベントに、ケイイチは自分でも驚いていた。
結婚って、どうしたらいいんだ?
とりあえず、両親に電話で報告する。
ケイイチの両親はとても喜んでくれた。
彼女の方は?
両親ともに反対。
兄弟も反対。
そりゃそうだろうな、と思う。
数日後、直接会って説得するから、と言って日本に帰る彼女を見送った。
が、結局、逆に説得されてしまったようだった。
もう連絡しないで欲しいという言葉と共に、この関係は終わってしまった。
ケイイチはこの時のことを振り返って、結果的には、この時に結婚しなくてよかったと言う。
結婚していれば、このあとの冒険には挑戦できなかったかもしれないのだ。
ネパールに滞在中は、以前もお世話になったアツコさんのお家で再びお世話になっていた。
実はネパールに入国した時の所持金は80ルピー。日本円で130円ぐらいだった。
アツコさんのおかげで滞在できていたし、エベレスト登山も協力したいと言って、知り合いで、エベレストに登頂したと言う方を紹介してくれたのだ。
登ったことがある人から情報を聞くことができれば、一気にエベレストに近づける気がした。
実際に、パサンさんはケイイチにたくさんのことを教えてくれた。
そして、エベレスト登山を組織している会社を紹介してくれたのだ。
ケイイチは早速、その会社を訪れる。
去年は2人を登頂させたと言うその会社では、掛かる費用のリストを見せてくれた。
入山料、ベースキャンプ、物質運搬費、シェルパと呼ばれるガイドさんを雇う費用、食費もろもろ。
米ドルで55,000ドルほどだと言う。
日本円で言うと600万円。
その日のケイイチの所持金は60ルピーだった。
ど、どうする?
兎にも角にも、必要な費用の概要が見えた。
ケイイチは、地元の新聞社に足を運び、広告を載せてもらうことにした。
企画の話を熱弁する。
3つのことを片言の英語で説明する。
誰か協力してくれる人がいたらメールして欲しい、と伝言した。
それから、自身のホームページにも企画の話を載せて、資金を集めていることを宣伝した。
とにかくケイイチは必死だった。
登山の訓練は、パサンさんがしてくれることになった。
とてもありがたい。
最初は6000m級の山から始めると良いだろう、と言われた。
6000mほどの高い場所に行くと、高山病と言って、身動き取れなくなる人がいる。
まずは、6000mに登れるかどうかがエベレストに挑戦できるかどうかの別れ目と言うことだ。
エベレストに一歩ずつ、小さな一歩だけれど、確実に近づけている気がする。
やるしかない。
この強い意志が道を作るのだ。
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