Mitsuki

20年間無帰国で世界を旅しているケイイチさんに出会い、彼の人生を物語として少しでも多く…

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20年間無帰国で世界を旅しているケイイチさんに出会い、彼の人生を物語として少しでも多くの人に届けたいと思い、少しずつ旅の軌跡を文章にしていくことになりました。20年と言う膨大な旅の時間なので、どのぐらい長くなるのか全く予想がつきません。気長にお付き合いただけると嬉しいです。

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  • ケイイチ ちゃり旅

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【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.42 アクシデントだらけの川下り②

出航は順調だった。 船はゆっくりと川の流れに乗っていた。 季節は乾季だったので、川の水量が減っていて、対岸が辛うじて見えていた。 空はどこまでも青く、透き通るように晴れていて、水面は静かだった。 景色は変わらない。 ぶつかりそうな物もない。 このまま穏やかに海まで流れていけるのなら、なんて穏やかな船旅だろうと思った。 ケイイチはそんな期待をしながら、それはそれで面白くないな、などと考えていた。 しかし、それは間違いだったとすぐに気づいた。 あまりの快適さに、船の操作を放

    • 【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.41 アクシデントだらけの川下り①

      ベナレスは観光地なので、ガンジス川には観光客を乗せる遊覧船のようなものがたくさんあった。 観光客は船に乗って、ガンジス川から、ガートやお祈りの様子を見るのだ。 ガンジス川沿いを歩いていると、船に乗らないか、と客引きに声をかけられる。 船の知識が全くなかったケイイチは、その客引きに、あの船はいくらか、と尋ねて回った。 そうする事で、船の相場の値段を知ろうとしたのだ。 もちろん、客ひきは船の値段など知らないし、船を売りたいわけでもないので、教えてもらえない。 それでも、中には、オ

      • 【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.40 新たな冒険、川下りへ

        2005年10月1日土曜日 長らく滞在したカトマンズを出発する。 ようやく、ガンジス川の川下りに本腰を入れることなる。 そのあとは、西のほうに向かって移動する予定だ。 そうなれば、しばらくここに戻ってくる事はないだろう。 ケイイチは、朝のカトマンズの空気をゆっくりと吸い込んだ。 いつもそうだが、その地についた最初の日と、その土地を去る日は特別な思いがある。 特に、カトマンズには長くいたこともあり、たくさんの人にお世話になった。 知り合いもたくさん出来た。 ケイイチの自転車旅に

        • 【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.39 3年8ヶ月ぶりの再会

          エベレストに登頂したことをどこかで聞きつけて、日本のテレビ局が取材に来た。タイトルは「連れ戻したい、放浪息子の行末は」だった。 海外で生活している人に会うために、日本から家族などがやってくると言う番組。 実は少し前、実家に電話した際に、TV局からそう言うオファーがあったけど、父親が嫌がって断った、と言う経緯を聞かされていた。 それはTV嫌いの父親らしいな、と思って、聞き流していたのだ。 その日ケイイチは、カトマンズから少し離れたパタンという街で、いつものように路上で芸をし

        【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.42 アクシデントだらけの川下り②

        • 【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.41 アクシデントだらけの川下り①

        • 【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.40 新たな冒険、川下りへ

        • 【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.39 3年8ヶ月ぶりの再会

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          【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.38 近江さんとの別れ

          ケイイチの長い旅の中には掛け替えのない登場人物が何人もいる。 その中でも近江さんの存在は特別だった。 最初に会ったときは、ずいぶん横柄な人だな、と思った。 それは、エベレスト登頂から遡って、2年前の5月。 中国の雲南省を2ヶ月かけて走り抜け、ラサに辿り着いたケイイチは、久しぶりのインターネットを求めて、インターネットカフェを訪れた そこで、店員に向かって日本語で文句を言っていたのが近江さんだった。 「日本語で言っても通じませんよ」と声をかけると、「英語が喋れないん

          【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.38 近江さんとの別れ

          【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.37 エベレスト下山に潜む危険と登山の終わり

          エベレストの頂上では、登頂の余韻に浸る暇もなかった。 山頂は3畳ほどの狭いスペースで、景色を眺めている余裕もない。 何より、標高8000mより高い場所は「デスゾーン」と呼ばれていて、滞在しているだけで、身体の細胞が破壊されていくのだ。 15分ほど写真を撮ったりした後、下山の準備を始める。 登山では、下山中の事故も多い。 重力に任せて足を運ぶので、登りよりは体力は使わないが、危険度は変わらないのだ。 ベースキャンプまでは気が抜けない。 下山の準備をしながら、ケイイ

          【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.37 エベレスト下山に潜む危険と登山の終わり

          【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.36 地球上で一番高い場所

          シェルパが先に出発した。 迷わずに進んでいく背中を追うように、ケイイチも出発する。 ヘッドランプに照らされた足元を確認しながら、一歩一歩確実に進む。 前を見れば、先行者のランプの明かりが揺れていた。 その先に、黒く浮かび上がるエベレスト。 そして無数の星。 現実とはとても思えない景色の中に、ケイイチはいた。 踏み出す足が雪を踏む音だけが、ケイイチを現実へと引き戻す。 頂上へ向かって張られたロープに、自分の身体に巻いたロープを固定し、万が一に備えながら進んだ。

          【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.36 地球上で一番高い場所

          【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.35 キャンプ3からキャンプ4へ

          ジョセフを見送り、風もない青い空を見上げた。 30分後にはどうなるかわからない空。 日本の気象情報を信じて、僅かな希望にかけてキャンプ2に残ったが、本当に頂上まで行くことができるのだろうか。 人間の力ではどうすることもできない。 祈るような気持ちになった。 実力があってもエベレストに登ることはできない。 全ては空が決めるのだ。 ヤキモキしながら、天候が落ち着くのを待った。 5月28日。 ザッザッと言う金属で雪の上を歩く音が聞こえて目が覚めた。 テントのジッ

          【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.35 キャンプ3からキャンプ4へ

          【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.34 決断する勇気と2人との別れ

          頂上へのアタックを延期することにして、一度キャンプ2に戻った。 改めて各国の気象情報を集めると、次に天候が改善するのは27日だと言う。 順調に頂上までアタックできるとして4日掛かるので、ギリギリ5月中に登れそうだが、登山は登るだけではない。 下山の2日を考えると、6月に入ってしまう。 これまでのエベレストの登頂記録を見ても、その全てが5月中だ。 気温の上昇は雪を溶かし、アイスフォールの氷塊が崩れやすくなる。 長年エベレスト登山を経験しているシェルパ達でさえ、6月に

          【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.34 決断する勇気と2人との別れ

          【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.33 エベレスト頂上を前に、天候に翻弄される

          高度順応が終わり、いよいよエベレスト登頂へのアタックが始まる。 頂上へのアタックには、最短で6日かかる。 まず、ベースキャンプからキャンプ2まで一気に登り1泊。 2日目にキャンプ3まで登ってまた1泊。 3日目にキャンプ4まで登って、4日目のまだ暗いうちに頂上へのアタックへ向けて出発する。 その後、ベースキャンプまで2日かけて降りてくるので、全部で6日の行程になるのだ。 もちろん、毎日が天候に恵まれるわけではないので、天候待ちの日もある。 ケイイチたちが、休養を終

          【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.33 エベレスト頂上を前に、天候に翻弄される

          【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.32 雪と岩の世界と高度順応

          1回目は、ベースキャンプからキャンプ1まで行って、数時間滞在して、ベースキャンプに戻った。 2回目は、キャンプ1で一晩過ごした。 早く挑戦したいと早る気持ちと、高度順応に対応できているのかの不安とが、ケイイチの中で揺れていた。 エベレスト登山は、ベースキャンプ、キャンプ1、キャンプ2、キャンプ3、キャンプ4まであるのだ。 まだキャンプ1までしか行けていない。 風が強い日なども登山はできないので、「待ち」になってしまう。 それはとても歯痒かった。 自分の力不足が原

          【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.32 雪と岩の世界と高度順応

          【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.31 エベレスト登山第一の難関、アイスフォールの攻略

          2005年4月13日、いよいよ挑戦が始まる。 テントの中で、必要な装備を確認しながら身につけた。 一つのミスが命を危険に晒すのだ。 確認を何度しても、不安は拭えなかった。 大きく息を吐くと、テントのジップを開ける。 出発の前にプジャというお祈りをした。 石を2mほど積み上げて塔を作り、木の棒をさして、そこから四方に向かってカラフルな旗を張り巡らせる。 チベットの峠に立っていたタルチョだ。 その旗の下で、チベット密教の僧侶が経文を唱えてくれた。 シェルパ達の伝

          【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.31 エベレスト登山第一の難関、アイスフォールの攻略

          【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.30 エベレスト挑戦の準備

          1年のうち、エベレスト登山ができるのは春と秋だけ。 年に2回だけなのだ。 しかも、秋は難しいので、ほとんどの人は4月5月にネパール側から登る。 2005年春、ケイイチと同じ登山会社からエベレストに挑戦するのメンバーは17人いるらしい。 ベースキャンプでの集合になると言うことで、ケイイチは再び、行けるところまで自転車で移動することにした。 出発の前まで、カトマンズ近郊の山で、ザイルワークの訓練などをしながら過ごす。 1日1日、「エベレストに向かうんだ」と言う気持ちが

          【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.30 エベレスト挑戦の準備

          【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.29 エベレストの前哨戦でアイランドピークへ

          2005年1月、カトマンズまで順調に戻り、エベレスト挑戦の準備を始める。 実は、決めていた登山会社から手続きの条件として、一つ、ミッションを課せられていた。 それは、6000m級のアイランドピークへの登頂に成功すること。 高所登山が他の登山よりも過酷な理由になる「高山病」を発症する体質かどうか。 それを自分自身の身体で確認してこいと言うのだ。 赤城山にしか登ったことがないケイイチは、登山のスキルであるザイルワークなども習得する必要がある。 さらに、1月に登ることで

          【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.29 エベレストの前哨戦でアイランドピークへ

          【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.28 3つの0から始める挑戦⑤

          600万円の資金集めに、ケイイチは少しどんよりしていた。 金額が途方もない。 手品で稼げる額じゃない。 支援を募っても、誰が支援してくれるのか。 どのくらいの額が集まるのか。 全くの未知数なのだ。 もちろん、1円も集まらない可能性だってある。 ケイイチは他のエベレスト登山を組織している会社にも話を聞きに行くことにした。 エベレスト登頂名簿というものがあってどこの会社に所属して登頂したのかがわかるようになっていた。 いくつかの会社に直接伺って料金を確認したら、

          【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.28 3つの0から始める挑戦⑤

          【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.27 3つの0から始める挑戦④

          2004年6月27日、エベレストがあるネパールに入国。 正確には再入国だ。 長らく走ってきたインドを出国して、ヒマラヤの麓に位置するネパールへ来たのだ。 気持ちを引き締める。 そして準備を始める。 まず、登山の訓練をしなければならない。 知識も経験もほぼないものの、2年ほど訓練すればエベレストに挑戦できるのではないかと考えていた。 何より、エベレストのあるネパールで訓練をすれば、登山のことはもちろん、エベレストの情報も集められる。 これは一石二鳥ではないか。

          【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.27 3つの0から始める挑戦④