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ケイイチ ちゃり旅

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【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.42 アクシデントだらけの川下り②

【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.42 アクシデントだらけの川下り②

出航は順調だった。
船はゆっくりと川の流れに乗っていた。
季節は乾季だったので、川の水量が減っていて、対岸が辛うじて見えていた。

空はどこまでも青く、透き通るように晴れていて、水面は静かだった。
景色は変わらない。
ぶつかりそうな物もない。
このまま穏やかに海まで流れていけるのなら、なんて穏やかな船旅だろうと思った。
ケイイチはそんな期待をしながら、それはそれで面白くないな、などと考えていた。

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【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.41 アクシデントだらけの川下り①

【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.41 アクシデントだらけの川下り①

ベナレスは観光地なので、ガンジス川には観光客を乗せる遊覧船のようなものがたくさんあった。
観光客は船に乗って、ガンジス川から、ガートやお祈りの様子を見るのだ。
ガンジス川沿いを歩いていると、船に乗らないか、と客引きに声をかけられる。
船の知識が全くなかったケイイチは、その客引きに、あの船はいくらか、と尋ねて回った。
そうする事で、船の相場の値段を知ろうとしたのだ。
もちろん、客ひきは船の値段など知

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【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.40 新たな冒険、川下りへ

【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.40 新たな冒険、川下りへ

2005年10月1日土曜日
長らく滞在したカトマンズを出発する。
ようやく、ガンジス川の川下りに本腰を入れることなる。
そのあとは、西のほうに向かって移動する予定だ。
そうなれば、しばらくここに戻ってくる事はないだろう。
ケイイチは、朝のカトマンズの空気をゆっくりと吸い込んだ。
いつもそうだが、その地についた最初の日と、その土地を去る日は特別な思いがある。
特に、カトマンズには長くいたこともあり、

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【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.39 3年8ヶ月ぶりの再会

【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.39 3年8ヶ月ぶりの再会

エベレストに登頂したことをどこかで聞きつけて、日本のテレビ局が取材に来た。タイトルは「連れ戻したい、放浪息子の行末は」だった。
海外で生活している人に会うために、日本から家族などがやってくると言う番組。

実は少し前、実家に電話した際に、TV局からそう言うオファーがあったけど、父親が嫌がって断った、と言う経緯を聞かされていた。
それはTV嫌いの父親らしいな、と思って、聞き流していたのだ。

その日

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【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.1 旅の始まりは新宿ホームレス生活①

【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.1 旅の始まりは新宿ホームレス生活①

人はなぜ仕事をしてお金を稼ぐのか?

お金がないとどうなるのだろうか?

イワサキ ケイイチ

「意志あるところに道はある」

そんな言葉を信条に、自転車で世界を旅している日本人がいる。

20年の間、一度も帰国せず、「労働による賃金」を得ずに、世界を旅している。

20年経ってなお、彼は旅半ばだ。

群馬県前橋市の町工場の家で生まれ育った彼は、必要な物は手に入る、「ごく普通の生活」をしていた。

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【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.2 旅の始まりは新宿ホームレス生活②

【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.2 旅の始まりは新宿ホームレス生活②

3年ぶりに新宿の雑踏の中にひっそりと佇む。

持ち金は3年前に前橋に戻るために使った210円に合わせようと思っていたが、結局160円になった。

多いとズルになってしまうが、少ない分にはいいだろうと思うところがケイイチだ。

ポケットの中のコインを握りしめる。

前回同様、歯ブラシも持ってきた。

だけど、今回はもう少しだけ持ち物があった。

行動を記録するためのノートパソコンとデジタルカメラ。

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【意志あるところに道はある】ケイイチちゃり旅20年の道のり Vol.3 疾走アジア編①

【意志あるところに道はある】ケイイチちゃり旅20年の道のり Vol.3 疾走アジア編①

インドへ行く。

ケイイチが決めていたのはその一つだけだった。

「お前の旅を面白くしてやる」そう言って渡された下関から韓国の釜山に渡るフェリーのチケットを手に、ついに日本を出国することになる。

このフェリーチケットもそうだが、長い旅の中で、ケイイチはたくさんの人の優しさに触れる。

この頃はまだ、意識していなかったが、20年の旅の中でケイイチもまた、思いやりに溢れた行動を取っていくことになる。

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【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.4 疾走アジア編②

【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.4 疾走アジア編②

深川から香港へは自転車のまま入国できた。

イミグレーションの建物を通り過ぎると、渡り廊下で香港へと繋がっている。

香港は中国本土とは全く違った。

中国側では煩くて仕方がなかった車のクラクションの音が全く聞こえない。

「じゃまだ!」と怒鳴られることもない。

交通量はあっても静かな道を、右側通行に違和感を感じながら進んでいった。

香港では、図書館に寄ろうと決めていた。

インターネットを繋

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【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.5 疾走アジア編③

【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.5 疾走アジア編③

内戦状態からの復興に向けて、カンボジアの国は荒れていた。

武器を持っている人たちがいるので、危ないから暗くなったら出歩くなと言われた。

移動を明るいうちに制限すると、進みがゆっくりになる。

さらに気温も高く、日の高いうちは休み休みでしか進めなくなった。

その分、人との交流が増えた。

木陰で休憩していると、近寄ってくる人がいた。

外国人が珍しいようだった。

話を聞くと、英語学校を開いて

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【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.6 疾走アジア編④

【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.6 疾走アジア編④

10月19日、ケイイチはハットヤイを通過して、陸路国境の街にいた。

タイからマレーシアに入国する。

タイ・マレーシア・シンガポールの3国はビザがいらないので、気が楽だった。

無事に国境を越えると、タイとはまた雰囲気の違う風景が広がっていた。

日が暮れてきて、引き続きガソリンスタンドに寝かせてもらおうと思っていたのだが、マレーシアではダメらしい。

3軒立て続けに断られてしまった。

国が変

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【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅Vol.7 疾走アジア編⑤

【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅Vol.7 疾走アジア編⑤

中国に戻るしかない。

ここからの道のりを考えると気持ちが沈んだ。

何より、標高4000m級の山々を超えなければいけないのに、季節は冬に向かっていくのだ。

とりあえず、取得してあったインドのビザは諦めることにした。

そう思えば、まっすぐ通り過ぎてしまったマレーシアを見て回れる。

ベトナムに迂回したために通れなかったラオスを通ることができる。

チベットだってとても興味深いじゃないか。

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【意志あるところに道がある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.8 疾走アジア編⑥

【意志あるところに道がある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.8 疾走アジア編⑥

バンコクに戻ってきた。

賑わう街中を自転車を押しながら歩く。

行きたい場所があった。

前回バンコクに来た時に知り合ったキット・ブットさんの旅行代理店だ。

入り口の前に立つと、中にいたキット・ブットさんがこちらに気付く。

にこやかに挨拶をしながら、シンガポールで貨物船に乗れなかった話をした。

「I told you 言っただろ」

とニヤニヤしながら言われた。

「トライしたかったんだ」

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【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.9  標高3000m越えの荒野①

【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.9 標高3000m越えの荒野①

チベットは外国人が入るのはとても難しいと言われている。

正式には、入境許可書が必要になるのだが、個人で取得するのがほぼほぼ不可能なのだ。

特別なツアーがあるらしいが、自転車では参加できない。

しかし、オランダ人のブログの中で、自力で到達した場合はこっそりゲートを潜ることができると書かれていたのを確認していた。

行けば何とかなる。

ケイイチはとりあえず入境のゲートまで行ってみることにした。

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【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.10 標高3000m越えの荒野②

【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.10 標高3000m越えの荒野②

それは4月23日に起こった。

いつものように、ケイイチは自転車を押して坂道を登っていた。

右腕で自転車を固定して、左側の腕の上に頭を乗せると、力を無駄に使わずに自転車を押すことができた。

前は見えない。

車はほとんど通らないので、特に危険は感じなかった。

先が見えないほどの坂道を登る途中、急に、太腿に違和感を感じた。

何だ?

頭を上げて、後ろを見ると、白い大きな犬が太腿に噛み付いてい

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