【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.40 新たな冒険、川下りへ
2005年10月1日土曜日
長らく滞在したカトマンズを出発する。
ようやく、ガンジス川の川下りに本腰を入れることなる。
そのあとは、西のほうに向かって移動する予定だ。
そうなれば、しばらくここに戻ってくる事はないだろう。
ケイイチは、朝のカトマンズの空気をゆっくりと吸い込んだ。
いつもそうだが、その地についた最初の日と、その土地を去る日は特別な思いがある。
特に、カトマンズには長くいたこともあり、たくさんの人にお世話になった。
知り合いもたくさん出来た。
ケイイチの自転車旅に興味を持ってくれた。
興味を持ってくれるばかりか、一緒に走ってみたいと言う人たちもいた。
カトマンズを出発する時には、今までの自転車旅で一番多い、6人並んで自転車に跨がることになった。
旅行会社を経営しているスディールさん、マサさん、アミさん、小林さん、大澤くんも。
マサさんとアミさんは1日だけの「自転車旅の体験」、小林さんと大澤くんはインドのベナレスまで一緒に行くと言う。
カトマンズは盆地なので、出ようと思ったら、坂道をひたすら登って山を越えなくてはならない。
10月とは言え、カトマンズは暑かった。
日本人の5人が文句も言わずに、汗をかきながら必死に坂道を登っている中、ネパール人のスディールさんだけは、こんな事やっていられないと、さっさとバイクタクシーを呼び止めて、それに乗り込んで行ってしまったのだ。
日本人の民族性なのか、たまたまそこにいた5人がそう言う性格だったのか。
「、、、日本人は根性があるな」
自分もまた、汗をかきながら、ケイイチは黙々と自転車を漕ぐ4人を見つめた。
カトマンズからインドのベナレスまでは600km、13日間かけて移動した。
これまでの旅で何度か通っている道だ。
ネパールの人たちは本当に優しくて、自転車で移動している外国人を快く自宅に泊めてくれた。
それから、仏教の聖地などに行くと、たくさんのお寺の中に、日本のお寺もあって、無料で泊まることができた。
カトマンズを出発した時は、6人だったが、ベナレスに到着したのは3人。
ケイイチと小林さんと大澤くんだ。
ヒンズー教の聖地、ベナレス。
そこに向かう道は、必ずしも舗装されているわけではなく、時々石畳になった。
そこを大きなトラックが通ると砂埃で大変なことになる。
車ならそんなに気にならないかもしれないが、こっちは自転車なので、直接砂埃をくらってしまう。
そして、ベナレスが近づくに連れて、人も自転車もバイクも、どんどんと交通量が増えた。
どうにかこうにか自転車を漕いで、もう少しでベナレスに入る、と言うところで休憩を取った。
大きな幹線道路から外れて、小道にあるお店で、10ルピーを払って、ささやかな昼食を食べた。
それから、渋滞がなければ15分ほどで着く距離を1時間ぐらいかけてゆっくりと進んだ。
ゴードウォーリアの交差点を左に曲がると両側に青空市場が広がるダシャシュワメ・ロードに入る。
力車とバイクと人の波に揉まれながら進んでいくと、パッと視界が開ける。
道の終わり。
そこには、街の喧騒や人の混沌など物ともせずに、ガンジス川が悠々と流れていた。
ヒンズー教の人々の間では一生に一度は訪れたい聖地と言われるベナレス。
ガンジス川の辺りにはたくさんの殉教者が絶え間なくやってきて祈りを捧げている。
聖なる川であり、生活の場でもある。
熱心にお祈りを捧げる人の横で、子供が川に飛び込み、洗濯物を洗い、死体を焼いて川に流す。
そこには明らかな「生」と「死」があった。
何度か訪れているが、何度でもその魅力に取り憑かれそうになる。
とは言え、今回の目的は川下りだ。
この聖なる川、ガンジス川を手漕ぎボートで下る。
ふと、ケイイチは心配になった。
この、神聖な川を、ボートで下ること。
それは、神への冒涜にならないだろうか。
ケイイチはヒンズー教徒ではないが、その地に暮らす人々のルールを破るような事はできない。
そこで、ケイイチは知り合った複数の人に、その質問をぶつけてみた。
結果、どうやら何も問題がないらしい。
そして、ガンジス川にまつわる噂話も聞いた。
噂その①
ガンジス川にはファラッカと呼ばれる堰が存在し、堰は超えることができない。
噂その②
下流にはワニがいて、人を襲う。
噂その③
年に数回、カルカッタから船がやってくる。
噂については、行って見なければ確かめようがなかった。
当時はインターネットでマップを調べるなどと言うことができなかったので、紙の地図を持っていた方からコピーさせて頂いた。
スマホもなければGPSもない時代だ。
白黒の地図を広げて、ガンジス川を赤いペンでなぞってみる。
思ったよりぐにゃぐにゃとしていた。
ベナレスを出ると、ガンジス川はいくつも支流を取り込み、さらに大きな流れとなって、バングラディシュに流れ込んでいる。
気をつけなくてはならないのは、バングラディシュに入る直前に支流へと舵を切らなければ、不法入国になってしまうのだ。
川には標識がない。
これ以上進んではいけませんと言うラインもない。
地図をしっかりと見て、間違わずに進む必要があった。
ケイイチにとって、川下りは初めての体験だ。
どのぐらいの速度で進んでいいかもわからない。
何もかも、これから一つずつだ。
地図は手に入れた。
次に必要なのは船だ。
船が無ければ川下りはできない。
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