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【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.32 雪と岩の世界と高度順応

1回目は、ベースキャンプからキャンプ1まで行って、数時間滞在して、ベースキャンプに戻った。

2回目は、キャンプ1で一晩過ごした。

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早く挑戦したいと早る気持ちと、高度順応に対応できているのかの不安とが、ケイイチの中で揺れていた。

エベレスト登山は、ベースキャンプ、キャンプ1、キャンプ2、キャンプ3、キャンプ4まであるのだ。

まだキャンプ1までしか行けていない。

風が強い日なども登山はできないので、「待ち」になってしまう。

それはとても歯痒かった。

自分の力不足が原因なら、頂上まで行けなくても、気持ちの折り合いがつくだろう。

でも、天候のタイミングに恵まれずに頂上まで行けなかったら。

ケイイチは諦め切れるのだろうか。

待ちの日は、時間がとても長く感じられた。


3回目で、キャンプ1で1泊したあとにキャンプ2まで登った。

キャンプ2は、標高6300m。

そこにたどり着くためには、アイスフォール上部にある高さ20mにもなる氷壁を登らなくてはならない。

眼前にそれらしい壁が見えたのだが、歩いても歩いても近づけなかった。

白い雪景色のせいで遠近感を失っているのか。

自分が思っている以上に、歩くスピードがゆっくりなのか。

氷壁が、巨大なのか。。。

ロープを辿りながら、少し歩いては休む。

そしてまた少し歩く、というのを繰り返した。

クレパスは相変わらずパックリと口を開き、いつでも登山者を飲み込む準備ができているようだった。

キャンプ1からキャンプ2まで400m登った。

呼吸が苦しい。

酸素が薄いのがわかる。

身体がとても重たく感じられた。

そして、食欲が無くなった。

キャンプ2では数時間滞在して、再びベースキャンプまで降りる。


キャンプ2まではそこまで急な斜面ではなかった。

スキー場で例えるなら、初心者コースぐらいの感じだ。

その先、キャンプ3までの道のりは、スキー場の上級者コースよりも斜面が急になった。

さらに標高差が1000mにもなる氷の壁を登らなくてはならなかった。

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先行したシェルパがロープを張ってくれて、そのロープに昇降機をつけてもらって登っていける。

それでも、傾斜60度にもなる壁を酸素の薄い状態で登っていくのは、かなり大変なことだった。

しかもキャンプ3は雪崩が多くて危険なので、できるだけ滞在しないように言われていた。

後に、有名なアルピニストの方が、「キャンプ3に泊まる時は必ずナイフを握っている」と教えてくれた。

寝ている間に雪崩にあった時のためだ。

キャンプ3にタッチして、一気にベースキャンプより下まで降りた。


これで高度順応は終わりだ。

一度、標高4000mのペンボチェという街まで下がって、2、3日の間休養した。

5000m以上だと身体がちゃんと休めないらしい。

次は、ベースキャンプで、頂上へのアタックに備えながら、天候を待つことになる。

数日間連続しての晴れ予報を待たなくてはならない。

尚且つ風が強く無いという条件が揃わなければ、アタックはできない。

その日が来るのをひたすら待つしかない。

と言っても、6月に入れば気温が上がる。

気温が上がれば、雪が溶けて雪崩の危険が増す。

それは、エベレスト登山のシーズンの終わりを意味するのだ。

いつまでも待つわけにいかない。

気象情報を逐一確認しながら、いつでも出られるようにしておかなければならなかった。

休養中に、3000m台のタンボジェと言う街まで降りた。

緑や花の色が目に鮮やかに飛び込んでくる。

それまでいた白銀の世界との違いに、ケイイチは御伽の国のようだと感じた。

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岩と雪の世界に戻るのは苦しい。

呼吸をすることもままならない、一歩進むだけで体力も気力も使う。

それでも立ち止まることが許されない。

自分の足でしか、登ることも、降りることすらもできないのだ。


事実、エベレストにはたくさんの遺体が放置されている。

担いで運ぶことがとても困難なのだ。

ヘリコプターも、気圧が低すぎて飛ぶことができない。

そして、そのほとんどが、風化されながら、土に還ることも出来ずにただそこにある。


並べるのは憚られるが、放置されているのは遺体だけでは無い。

登山者が残していくゴミと排泄物がそこら中にあった。

シェルパたちはゴミをポイ捨てする文化なので、すぐ捨ててしまう。

登山者たちもそれに倣う。

一応、ゴミの回収を専門にしているシェルパがいるのだが、全てを持ち帰ることはできない。

回収されないゴミが、どんどんと蓄積されていた。

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休養を終えてベースキャンプに戻る。

ここからが、エベレスト登山の本番だ。

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