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よりぬき伝奇さん

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これまでこのnoteに掲載した記事のうち、特におすすめの作品に関するものについて、よりぬいています。
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#歴史小説が好き

赤神諒『神遊の城』 甲賀鈎の陣に翔る驚天動地の忍法、そして自由と秩序の物語

赤神諒『神遊の城』 甲賀鈎の陣に翔る驚天動地の忍法、そして自由と秩序の物語

 大友家を題材とした作品を矢継ぎ早に送り出して斯界の注目を集めた赤神諒が、室町時代を舞台に、忍者を題材として描いたのが本作『神遊の城』――いわゆる甲賀鈎の陣を舞台としつつ、驚天動地の忍術を描いてみせた奇想天外な物語です。

 応仁の乱の混乱冷めやらぬ中、九代将軍義尚が六角高頼討伐のために近江に親征した長享の乱。大軍を率いた義尚の慢心、そしてそれと裏腹の諸将の志気の低下等により、勢力では遙かに勝るは

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天野純希『吉野朝残党伝』 南朝の少年兵が見た戦いの真実

天野純希『吉野朝残党伝』 南朝の少年兵が見た戦いの真実

 南北朝合一後も吉野に潜み、足利幕府に対して戦いを繰り広げてきた吉野朝(南朝)残党。本作はその吉野朝残党にいわば少年兵として加わった多聞をはじめ、様々な人々の視点から足利義教期の混沌とした世界を描く物語であります。

 馬借の下人として幼い頃からこきつかわれてきた少年・多聞。大和の山中で荷を運ぶ最中に何者かの襲撃を受け、そのどさくさに襲ってきた主を殺した彼は、襲撃者を率いる後醍醐帝の後胤・玉川宮敦

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平谷美樹『虎と十字架 南部藩虎騒動』 猛虎脱走! 混沌の謎の行方は 

平谷美樹『虎と十字架 南部藩虎騒動』 猛虎脱走! 混沌の謎の行方は 

 時代小説と歴史小説を中心に活躍する平谷美樹ですが、時代小説においては実はミステリ色が強い作品を得意とする作家でもあります。本作はそれが前面に出た作品――家康から拝領した二匹の虎の脱走を巡って南部藩を揺るがす複雑怪奇な騒動に、藩の徒目付が挑みます。

 かつてカンボジアから徳川家康に贈られた二匹の虎・乱菊丸と牡丹丸を拝領し、盛岡城内で飼っていた南部利直。しかしある晩、この二匹が檻から脱走するという

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滝沢志郎『エクアドール』 海を越える同胞愛と、明日に踏み出す人々の物語

滝沢志郎『エクアドール』 海を越える同胞愛と、明日に踏み出す人々の物語

 中世の琉球王国に始まり、東南アジアへと展開していく、希有壮大にして爽快な海洋冒険ロマン――琉球を外敵から守るため、ポルトガル人から新型兵器を手に入れんとする琉球王府の人々の旅路を描く快作です。

 時は種子島に鉄砲が伝来する二年前――倭寇だった過去を持つ琉球王府の下級役人・眞五羅は、湾に迷い込んできた倭寇船との交渉に当たる中、倭寇時代の友・弥次郎と再会することになります。
 弥次郎と共にかつて所

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田中文雄『髑髏皇帝』 後醍醐帝の魔に挑む少年二人、足利直冬と北条時行!

田中文雄『髑髏皇帝』 後醍醐帝の魔に挑む少年二人、足利直冬と北条時行!

 足利尊氏の庶子・直冬、そして北条高時の遺児・時行が、後醍醐天皇に憑いた奇怪な魔物と対峙する時代ホラー長編です。尊氏に都を追われ、吉野に逼塞する後醍醐天皇の前に現れた異国の魔――吉野で相次ぐ奇怪な事件の謎を追う若き武士たちが、魔に挑みます。

 本作の舞台となるのは、鎌倉幕府の滅亡、建武の新政の失敗、南北朝の動乱と、うち続く動乱の時代。その渦中でそれぞれに父母と早くに引き離され、肉親の温かみをほと

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後藤竜二『野心あらためず 日高見国伝』 乱を起こすものと、それに屈せず歩み続けることと

後藤竜二『野心あらためず 日高見国伝』 乱を起こすものと、それに屈せず歩み続けることと

 数々の作品を残してきた児童文学者・後藤竜二が、いわゆる宝亀の乱を題材にし、野間児童文芸賞を受賞した名作であります。かつて大和の人々に奪われた日高見の地に帰還した少年・アビを通じて描かれる、蝦夷と大和の人々の姿とは……

 代々暮らしてきた日高見の地を奪われた末、父は殺され、母は流刑の途中に自分を産んで亡くなった少年アビ。親代わりの老人・オンガと共に流刑地を逃亡し、鮫狩りとして暮らしていた彼は、密

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森川成美『てつほうの鳴る浜』 頼りない少年が元寇に見たもの

森川成美『てつほうの鳴る浜』 頼りない少年が元寇に見たもの

 鎌倉時代の文永年間を舞台に、己の人生に悩む少年の運命と、元軍の襲来が交錯する、ユニークかつ内容豊かな児童文学であります。流されるまま博多の商人に、そして水軍の将となった少年・長種の運命は、元軍の襲来によってどのように変わるのか……

 文永七年、御家人の家に生まれながらも武芸や血を見ることを嫌い、そして将来の展望のない武士に嫌気が差して家を飛び出した少年・竹崎長種。父の友人である水軍の大将・鷹島

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天野純希『雑賀のいくさ姫』 史実の合間に描く、未曾有の海の大合戦

天野純希『雑賀のいくさ姫』 史実の合間に描く、未曾有の海の大合戦

 海に囲まれている国であるにもかかわらず、決して数は多くない、海を舞台とした歴史時代小説。その中に、とんでもない作品が現れました。雑賀のいくさ姫の異名を持つヒロインが大海に飛び出し、巨大すぎる敵を相手に海の大合戦を繰り広げる、壮大かつ痛快な物語であります。

 信長が天下布武に向けて驀進していた頃――イスパニアのイダルゴ(騎士)の家系に生まれ、流れ流れてアジアにたどり着いた青年・ジョアンは、サムラ

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