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詩『金魚裁判』

つまさきを水に浸しながら
献身を待っている岸辺にて
陽射しの表皮は明るく剥けてゆく
柑橘類の果汁が弾けだすみたいに
光の断片が零れるのを見逃さない

夜はあなたの顔が底なし沼の暗闇
わたし、たちの郵便番号を見失う
ことばは何処へ配達されてゆくの
色を引き剥がすほのおを焚くとき
あなたの呼吸の有無を聴いている

存在は背中をくぐもらせる荷物だ
誰かをコピーし続けている模倣犯
大量生産、大量消費、の社会にて
金魚の細波が口をぱくぱく開けて
躰を捩りながら餌に群がっている

ひかりも影も幕間でしかない
わたし、たちも演劇の一部だ
スポットライトがスライドしてゆく
影のなかで瞳がしずかに萌えている
台本が雪崩を起こして台詞が爛れる

よるはひとの表情をかくす。ふるえる声はひとつの道標。あなたのことばをさばいて、俎板で金魚を解体してゆく。さかなは陸では、生きていけない。ひとの呼吸も、海に沈んでゆくの。砂まみれの文字が日記を汚して、よるの海が引いていって、朝の大陸が拓かれる。ちいさないのちが跳ねている。干潟が背伸びする。踊れ、踊れ、生命。わたし、たち、いきているいのちを食べて、また歩いてゆくの。金魚は食べないけれど、おおきな赤い魚を三枚におろして、太鼓を叩く。両手を合わせながら、いのちをいただきます。血で汚れたてのひらを洗って、洗って、強力な洗剤で洗って、罪とともに堕ちてゆく。今度はひとびとがさかなの裁判に裁かれるのだ。真っ黒なよるの法服が広がってゆく。何色にも染まらない裁判官が金属の目で見つめている。判決の音が海の法廷に響く。

お鍋の海を漂っている
箸で水揚げされながら
わたし、たちは跳ねる
汗の混じった水しぶき
半紙を濡らしてゆくの

目覚まし時計が鳴って
よるの法服を脱ぎ去る
ひとびとは俎板の上へ
声も体も切り刻まれて
夕暮れいろのつみれに

金魚の裁判官の食卓で
味噌風味のあつい海へ
つみれが放りこまれて
汗と泪にまみれながら
閉廷の鐘が鳴っている


photo:見出し画像(みんなのフォトギャラリーより、writer1623kitaさん)
photo2、3:Unsplash
design:未来の味蕾
word&poem:未来の味蕾

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