詩『花いちもんめ』
胸元から派生する破線をたどる。微熱まじりのレントゲン室へと、雨水が迸る長靴の痕跡がつづいている。わたし、の躰の中で、溺れそうなハスキーヴォイスの舟が揺れる。外では嵐が荒れ狂っているらしい。病院の中は、素知らぬ顔で一見、静かだ。あなたがのこしていった雨水がわたし、のなかに降り積もって、うまく排出できずに今夜も喉が曇る。眼鏡がひくく唸るので、水面もさわがしい。なんど飲みこんでも逆回転して、裏返る声。飲みこもうとしているのは、どちらなのか、飲みこまれようとしているのは、もはや誰なのかさえわからない。ただ内側が凪ぐのを待っている。躰を切り開いても、舟は摘出できない。繊細な器具を駆使しても、捕まえられない。終わらない永遠のかくれんぼと鬼ごっこ。
(ブーブーブー)
スマホの通知が鳴って、あの子が亡くなったのを昨日、知ってしまった。
『負けーてくーやしいはーないーちもーんめ、あーの子ーが欲ーしい、あーの子ーは死ーんだ、お葬式しーましょ、そーしーましょっ』
みんな、みんな、時化のなかの一艘の舟なんだ。天候は変わりやすい。わたし、はまだびしょ濡れになりながら、沈没しそうになりながら、大海原を漂っている。明日は誰にもわからないけど、まだ負けられない闘いが海の向こうで待っている。安らかに眠れ、おおきなこどもたちよ。マリア様、きれいなソプラノで子守唄を歌ってやってよ。ゆっくり休んで、すべての兵士たちへ、ことばを花束にして、海に流した。ありがとう、さようなら。時は止められない。君は美しかった。ねえ、ダンテ。つぼみよ、凍りつきながら、微笑んで。
花びら千切って、花占いをしながら、
『好き、嫌い、好き、嫌い、はーないーちもーんめっ、あーの子ーが欲ーしい、あーの子ーはもういーない、どーの子ーもいーらない、相談しーましょ、そーしましょっ、はーないーちもーんめっ』
あの子の年齢は、昨日で立ち止まったまま、永遠に停止してしまった。遺された時計は止まらない。それでもわたしたちは花束を何度も編みながら、舟をかくしながら、ずっと歩きつづける。花占いの結果に一喜一憂するけど、いつかみんな花開いてゆく。どうか色とりどりの未来まで殺さないで。どんな花でもいいから、つぼみよ、目覚めるまで、ずっと手をつないでいて。いつか朝が来て、太陽が昇って、芯からあたたかくなりますように。
さあ、一緒に歌おうよ、
『嫌い、嫌いも、好きのうち、はーないーちもーんめっ、あーの子ーが欲しーい、あーの子ーは海を照らす星の華になーった、はーないーちもーんめ、はーないーちもーんめっ』
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*某rさんが亡くなったのがショックで、書かずにはいられませんでした。今でも亡くなったという実感がないですが、安らかにお眠り下さい。ご冥福をお祈りします。
photo:見出し画像(みんなのフォトギャラリーより、 子蘭さん)
photo2、3:Unsplash
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