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『半沢直樹 アルルカンと道化師』 (池井戸潤 作)

半沢直樹シリーズ第五弾。期待の新作をやっと手に取ることができた。

だがこの物語で描かれている半沢直樹は、ドラマより「過去」だ。
時は大阪西支店時代。融資課長としてバリバリ銀行員として働いていた頃だ。
大阪西支店の支店長 浅野匡はドラマ内では(1期目の時に)浅野忠信さんが演じているし、ドラマでは上戸彩さんが演じていた奥さんの花も登場する。ビックリなのは半沢夫婦には子供がいるということだ。そこはドラマとは大きく違う雰囲気だ。
相棒の渡真利さん(ドラマでは及川光博)は今回もそれなりに活躍する。


この物語ではいつもの「半沢直樹の逆転劇!」だけではなく、ミステリー要素も含めている。簡単に言えば絵画や美術館の売買、そして東京中央銀行のM&A推進の方針 が絡んでおり、ページをめくるごとに紐が綺麗に解かれるように真実が明らかになっていく。

本作でももちろん「痛烈な銀行(印)批判」がうたわれている。ずるい人間はたくさんいるのだ、と訴えかけてくる。
313ページに"サラリーマンの人生は人事で決まる。故に人事は公正でなければならない"とある。本作でも半沢は田舎のどこかへ飛ばされそうになるわけだが、半沢は「やられたらやり返す、倍返しだ!」の人間である。基本性善説に基づいて行動している彼だからこそ、やるときはやる。会社(融資先)のことを考える。支援すべき会社を、見定めていく。銀行の都合や一部の"お偉いさん"の都合で犠牲になる人がいないよう、半沢はいつだって正々堂々と敵と対峙する。


ラストに近づくにつれドラマ内で流れる「半沢直樹といえば、この歌」というメロディーが頭の中を流れまくっていく。

やられたら倍返し。倍返しの最後の瞬間まで、まっすぐな半沢が勝利する瞬間まで、この逆転劇を見届けてほしい。

この本を読むと、ますます「半沢直樹」という男のファンになるだろう。



最後に、華麗に逆転劇を終えた半沢の一言を添えておく。
倍返しをすべき相手である宝田という男に、告げた言葉だ。
337ページより

「(略)これがあなたの現実です。理想を語ってばかりでは確かに実績はついてこないかも知れない。ですが、理想のない仕事に、ろくな現実はない。これがあなたの仕事ぶりを見ての率直な感想です。(略)」

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