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"逃げ恥"が届ける「リアリティ」

あれはまだ若き高校2年生の頃。修学旅行で泊まったホテルにて、友達と2人 やや小さめのTVで「逃げるは恥だが役に立つ」というドラマを見ていた。私の母校ではまあまあブームが沸き起こっていたんじゃないだろうか。廊下で"恋ダンス"を踊り出す先生までいた(らしい)。

そんな"逃げ恥"の総集編と新作が放送され、主人公 みくり(新垣結衣さん)と平匡(星野源さん)夫婦の結婚のその後が描かれていた。


※ここからは内容にガッツリ触れるのでネタバレをしてほしくない方はご注意を。


これは最初からドラマを見ている人にしか伝わらないと思うが、2人の"恋愛"のカタチは独特であり、夫婦でも"敬語"だったりする。そうなるまでの経緯は省くとして....。
2人の間に子供ができた時、2人は"夫婦"として、"母親と父親"として成長していく。それを通して描かれるのは「子育てのリアル」、そして「社会のリアル」である。


① 育休の取りづらさ
この夫婦は共働きであり、夫婦ともに育休を取ろうとする。男性でも育休を取ることを推奨!!と言っている会社でも、実際にその"育休"を取得している人が多くいるのか定かでない会社は少なくない(のではないか)。日本人は「頑張る」ことを美徳としている人が少なくない、「会社はちょっと体調が悪くても休んではいけない、休めない」。そんな雰囲気が漂っていることもあるだろう。平匡さん(エンジニア)が勤める会社のプロジェクトリーダー(灰原さん)は、「男が1ヶ月も育休を取ること」に反対する。結果的にストーリーは「プロジェクトマネージャーが"リスク管理"さえできなくてどうする!」のようなかたちになるのだが、(ここでいうリスク管理は簡単に言うと「1人が育休以外にも急な病気や怪我で仕事ができなくなった時にも、問題なく仕事が進められるようにチーム内で情報共有をしておくこと」、1人が抜けただけで仕事が滞ってしまうようなやり方はよくない)実際のところ男性側が1ヶ月育休を取ると言うのは、それなりに難しいことなのだろう。
一方でドラマの中では「生理休暇」が取れる会社の話も出てくる。女性がはたらきやすい、誰もが働きやすい社会のためにこの休暇は必要だろう....私的にはそう思う。

② 子育てに対する妻と夫の考え方の違い
平匡さんは最初は「僕はみくりさんのサポートに徹します!」というようなことを言い、みくりさんと言い争いになる。子供を抱える妻を夫がサポートするのではなく、夫婦2人で共に成長し、母と父になっていくというのが.... きっと正しいのだろう。女も男も不安なのだ。突然母親と父親にならなければならない。些細な不安を溜め込んでいると、大きなストレスに....爆弾につながる。爆弾が夫婦同時に爆発してしまったら、もう修復は不可能なのかもしれない。ドラマのこの夫婦は、とても大切にする。"向き合う"という時間を。

③ "同性愛"が認められる社会
ドラマの中の世界では、"同性愛"は当たり前のものとしてそこにある。誰もそれに疑問を持たず、誰もそれに対して"異様なものを見る目"を向けない。こんな世界、現実にもいつの日かやってくるのだろうか.....?

④ "リアル"から"オンライン"へ変わる「飲み会」
ドラマの中の世界でも、「新型コロナウイルス」が日本を襲う。WHOが会見し、緊急事態宣言が発令され、志村けんさんがコロナで亡くなる。
そんな中で、飲み会はリアルからオンラインへと変わる。約2時間半のドラマの中で、飲み会の形が変わる。最後には登場人物が"オンライン"でつながる。新しい、「画面越し」というかたちで。

⑤ 緊急事態宣言と、夫婦のかたち
主人公夫婦の子供が生まれた後、新型コロナウイルスが猛威を振るう。(というか夫婦は出産に夢中でウイルスの存在に気づくのが遅れる)そしてみくりさんは実家のある館山に疎開し、平匡さんは会社のある千葉県に残る。
「もし乳児がコロナにかかってしまったら」。「もし会社に行く間に感染していたら」。平匡さんの会社でも徐々に"テレワーク"が続いていくが、小さい子供を抱える夫婦は不安だろう。
コロナの中であふれていたのは、些細な「不安」から生じた「イライラ」のように感じる。SNSでは こんなにも人間は醜い生き物だったのか、と感じざるを得ない言葉が溢れる。互いが互いに傷つけあう、それはそれは不必要なまでに。
飲食店の店主が泣いている。借金が返せない....と。みくりの叔母(石田ゆり子さん)が泣いている。会社の売り上げがガタ落ちしている、イベントは中止、商品は売れない、と。アルコールがない、マスクがない、しまいにはトイレットペーパーがない.....。ニュースは時に人を狂わせる。人の行動を狂わせる。



このドラマの最後はハッピーエンドだ。マスクをしながらとはいえ、平匡さんとみくりさんは再会し、子供と3人で過ごすことができる。当たり前の大切さを知り、当たり前の生活を喜ぶ。些細なことに幸せを感じる。

実際の世界、私たちが生きる世界....でもこんな瞬間がいつか訪れるのだろうか。コロナが落ち着いて、"ほぼ元通り"のような生活が戻る日が来るのだろうか。



ドラマの中には本当に感動できるシーンがいくつもあった。私は結婚願望もなければ子供を欲しいとも思わないけれど、2人の夫婦のかたちは素直に素敵だと思えた。コロナの中で起こる変化を2人で受け止め、2人でそれを乗り越えていく姿に一種の感動を覚えた。そばにいてくれる人の温かさを、大切にしようと思えた。

それでも現実世界は残酷だ。未だコロナに終わりは見えない。オリンピック?そんなことを言っている場合なのか。明日を生きることが精一杯な人もいる。毎日毎日、頭をよぎる希望が 圧倒的に絶望よりも少ない人がいる。


「逃げるは恥だが役に立つ」

たまには、現実から逃げたって良いじゃないか。