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『滅びの前のシャングリラ』 (凪良ゆう 作) #読書 #感想 1

この本の表紙には、赤ちゃんがスプーンを持ち寝転がっている絵が描かれている。そして赤ちゃんの目元は苺の花で覆われ、そこには2匹の蜂が訪れている。
この表紙が意味することを想像するのはやや難しいが、苺の花言葉が「尊重と愛情」や「幸福な家庭」であることは1つ、重要なことだろう。



「明日死ねたら楽なのにとずっと夢見ていた。
なのに最期の最期になって、もう少し生きてみてもよかったと思っている」
一ヶ月後、小惑星が地球に衝突する。滅亡を前に荒廃していく世界の中で「人生をうまく生きられなかった」四人が、最期の時までをどう過ごすのか――。

圧巻のラストに息を呑む。2020年本屋大賞作家が贈る心震わす傑作。

(あらすじは上のリンクから取得)



主人公の1人である江那友樹は、学校でいじめられている。
平穏を装いながら、まったりと静かに絶望している。煌めく世界を眺めている。真っ向から立ち向かわないと決めたら、少し楽になってしまったのだ。
12ページより

そうしてぼくは今日も、絶望という名の嵐の海を、ユーモアという小舟に乗ってなんとか航海し続けている。

彼は、藤森雪絵ちゃんという女の子に恋をしている。彼女は可愛くて、クラスの中心にいるような女の子だ。孤高の王女だ。
彼女は養女であり、育て親に感謝しているがどこかで(彼らの実子と)「同じ愛を、真実の愛をもらっていない」と感じている。

30ページより

笑いは一番簡単な団結であり、団結することで自分たちを正当化しようと必死だ。

2人は、この輪から外れている。この輪から外れているのは、たった2人だ。


地球に小惑星が衝突する、人類は滅亡する!そう報道された時の友樹(主人公)の"フォルダ"に入った感情は 順に「愉快」→「理不尽」→「恐怖」だった。
最初は暗い喜びのような感情が生まれる(てしまう)気持ちは分からないでもない。
私は"人類滅亡"の場面にリアルに直面したことはないのでなんとも言えない部分はあるが、"地球上にいる人間すべての運命が決められてしまった"、そんな瞬間があるのなら、少しそれを味わってみたいような気もしている。
嫌いな人間と同じ運命をたどることに対する嫌悪感は拭えないが。





2人は藤森さんの本当の両親に会いに行くため、広島から東京へと旅立つ。
85ページより

愛情はどうしても平等には振り分けられず、どれぞれの心に沿った自由な選択があるだけだ。

この本のキーワードを3つ挙げるとしたら、「愛情」、「幸せ」、そして「家族」なのではないだろうか。最終的に主人公は5人になるが、(それぞれの視点で物語が紡がれる)それぞれみんな"良い人生"をおくることができたとは思えていなかった。

だからこそ、「人類滅亡」に直面した時、彼らは「"生きる"ことの幸せ」を知る。身にしみて実感する。"シャングリラ"の意味は、"理想郷"、"地上の楽園"などだ。
彼らが最期を迎えるまでに過ごした日々は、きっとこの上なく幸せだったのだろう。



160ページより

善人だからといって報われることはなく、悪人だからといって罰が下ることもない。では、人は、一体なにをよすがに自らを律して生きていけばいいのか

納得がいかないな、理不尽だな....などという風に思うことなんてしょっちゅうだ。世の中には正直者が損をしてしまう、真面目な人ほど生きづらい、そんな場面が多々あるし、それにいちいち気を取られていては精神が持たないように感じる。もちろんその事実と"向き合う"ことは絶対に必要だと思うわけだが。




終わりかたがいまいちになってしまったがキリが良いので次へ続く。



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