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コマース (商業) とクリエイション (創造) のあいだでバランスを取るデザイナーたち

近年のファッション市場は「コストパフォーマンスやトレンド」重視の「ファストファッション」と、「その長い伝統と高い品質、知名度と独自のアイデンティティ」重視の「ラグジュアリーブランド」の、この全く異なるカテゴリーの二極化が激しく進んでいる。

私は、この「ラグジュアリーブランド」というカテゴリーの中でデザインしている。各ブランドでは、有名なクリエイティブ・ディレクターのもと、ブランドのアイデンティティや独創性を武器に、ブランド独自の世界観、価値観を高め、価格を下げることなくデザインし、他ブランドとの差別化を図っているわけだが、それでもここ7、8年くらい前から「新しい独自の美しさを追求する服作り」から「マーケティングや売り上げ重視の服作り」をすることの比重がどんどん増してきた。

ラグジュアリーブランドとは言えども「コストパフォーマンス重視」の製品を作って売上をアップしていかなければならないのだ。

かと言って、年に2〜4回開催されるファッションショーがなくなったわけではない。ショーはショーで各ブランドごとに服の可能性に挑戦し、新たなクリエーティビティと次シーズンのトレンドやブランドの方向性を発表しなければならない。

この「新しい独自の美しさを追求する服」をデザインすることと「マーケティングや売り上げ重視の服」をデザインすることは似て非なるもの。両立させるのは案外難しい。


ランウェイショーの服をデザインする時は、新シーズンのコンセプトに合わせ、ショーの世界観とそのシーズンを代表するシルエットをトータルでデザインする。ブランドを象徴するファッションショーのための服なので、もちろん予算は限られているが、先ずはショーの見栄えや世界観を第一にデザインや素材、パターンや縫製方法を考える。創造力と新しいデザインを生み出す能力や高度なテクニックも必要だ。出来上がりに納得がいかなければ何度も何度も作り直したりする。

一方、マーケティング用の服をデザインする時は、先ずはコストパフォーマンスと売れ筋のデザインを考える。マーケティングやMDチームのトレンド分析やリクエストも考慮し、素材や縫製工賃もショー用の物よりもぐっと安く抑えられるようなデザインや縫製をする。予算のことは常に頭の中に入れながら服作りをしていく。

ショー用の服を作るときに予算のことばかり考えてしまうと思い切ったデザインが出来なくなってしまうし、コマーシャルな服を作る時に予算も考えずにあまりにも独創的な物を作ってしまうと、予算に合わない、手軽に着れない服が出来てしまい、NGにとなってしまう。


両方デザインするにはバランスが必要なのだ。そしてこのバランスを上手く取って「クリエイティブ」と「コマーシャル」両方デザインできるデザイナーは意外と少ない。もし貴方が両立出来る器用なデザイナーであったとしたならきっと多くのメゾンから引く手あまただろう。

実際、多くのメゾンが、ランウェイショーを担当する「コレクションチーム」と、コマーシャル用のコレクションを担当する「プレコレクションチーム」にデザイナーを分けてデザインしている。

ただ、メゾンの顔であるクリエイティブ・ディレクターやデザイン・ディレクター、社員数の少ない小さなブランドのデザイナーは常にトータルでデザイン出来るバランス型の人材が不可欠だ。


一般の方々はよく、いや、ファッション業界で働いている人でさえ私に、「デザイナーはいいね。いつも自由に好きなデザインが出来て。」言われたりするのだが、デザイン次第でブランドのイメージや売上が大きく変わり、その売上によってはブランドに勤めている社員やその家族全員に大きな影響を及ぼすのだから自分の好きなデザインばかりはやっていられないのだ。







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