ひつじ雲

旅立ちが近い方のケアをさせていただいております。看護師です。仲間たちと、にぎやかに慌た…

ひつじ雲

旅立ちが近い方のケアをさせていただいております。看護師です。仲間たちと、にぎやかに慌ただしく、ブラックなジョークも飛ばしながら。時にしんみり。読んでくださった方、ほんとうにありがとう。 実際の状況とは部分的に変え、お伝えしています。

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固定された記事

「死に目に会いたい」

よく聞く言葉である。 しかし、これはなかなかそうもいかない。 時に神様らしき存在が、最高にうまくリードしてくれることもあるが、たいていはその瞬間まで右往左往するも…

ひつじ雲
4か月前
6

ご飯が食べられなくなったら

ご飯が食べられなくなったらもういいよ。 管に繋がれてまで生きたくないよ。 多くの方がおっしゃっていた。 なのにこれまたむずかしいわけで…。 飲み込むことができなく…

ひつじ雲
1か月前

Aさんの友だち

比較的、日常生活動作は保たれていたAさんは、職員の目を盗んでカラスに餌付けを試みていた。 従業員が雨を凌ぐためのトタン屋根が、 Aさんの部屋から見下ろせる。そう離…

ひつじ雲
3か月前
2

感染症のさなかに

Aさんは、ちょっと大変な方だった。 入院時から酸素ボンベを手放さず、眠るときは無呼吸予防の機器を装着していた。「これは私の命綱。丁寧に扱ってちょうだい」対応が悪い…

ひつじ雲
3か月前
2

「死に目に会いたい 」2

前述のとおり、これはなかなかそうもいかず… かつてのAさんは、おむつを外しては投げたりと、何しろ元気いっぱいの方だった。月日とともに傾眠的になり、ケアをさせても…

ひつじ雲
3か月前
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父と、桜と

寒さが押しては返す。 ぼんやり霞がかった空、ぽわんとした陽気に油断していたら雪の予報だ。 ずっと前のことだが、父が余命を宣告されたのは、ちょうど今頃だった。 私は…

ひつじ雲
3か月前
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街の坩堝へ

マツコさんと村上さんの、「月曜から夜ふかし」がすきだ。 街なかにふつうにいる人々の、底なしの変人ぶりを垣間見ることができる。 奇妙キテレツな人があちこちに生息して…

ひつじ雲
3か月前
3

偲ぶ

親を見送るのとはまた違い、子の介護や看取りをする方もおられる。 難病、外傷、自死の失敗など様々だ。何年たっても受け容れることができないという親御さんに、そんなこ…

ひつじ雲
3か月前

一日をすすめる

大事な人をなくしたこと、生活の中で受けとめ、受け入れ、一日、一日をなんとかすすめていく。 心穏やかに思い出せる日もあれば、やたら心が塞ぐときも。 肉体があるせいで…

ひつじ雲
3か月前

「何があっても驚かない」

日本では、親は子がみるものという根強い観念がある。 ひとつの信念か、信仰にも似たものか、感謝の念か。自分との約束みたいなものかも知れない。 すばらしいことだが、い…

ひつじ雲
3か月前
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「死に目に会いたい」

よく聞く言葉である。
しかし、これはなかなかそうもいかない。
時に神様らしき存在が、最高にうまくリードしてくれることもあるが、たいていはその瞬間まで右往左往するものだ。本人ではない。家族が…。

訪問看護をしていた頃のこと。
Kさんは、すでに余命長くない方だった。独居にはもったいないような立派なお家だったけれど、どこもかしこも何もかもが、硬く冷たく妙に寒いのだ。「階段あがって手前の部屋なんか怖くな

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ご飯が食べられなくなったら

ご飯が食べられなくなったらもういいよ。
管に繋がれてまで生きたくないよ。

多くの方がおっしゃっていた。
なのにこれまたむずかしいわけで…。

飲み込むことができなくとも、胃から下がまだ少しは元気なら、栄養剤を流すために鼻から管を胃まで通す。
胃瘻をつくる。などの選択肢がある。

それが困難でも、血管からしばらくは栄養や水分を送る方法がある。
だが、本人が意思を伝えられないことも多い。家族が決めな

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Aさんの友だち

比較的、日常生活動作は保たれていたAさんは、職員の目を盗んでカラスに餌付けを試みていた。
従業員が雨を凌ぐためのトタン屋根が、
Aさんの部屋から見下ろせる。そう離れていない。その屋根にカラスはやってくる。なぜなら、Aさんが病院食のパンや自前の菓子などを投げるからだ。

何度も注意を受けるが、あいつは俺の口笛を理解しているのだとか、俺が窓に見えると鳴くのだと話をすりかえ、誇らし気ですらある。
「そり

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感染症のさなかに

Aさんは、ちょっと大変な方だった。
入院時から酸素ボンベを手放さず、眠るときは無呼吸予防の機器を装着していた。「これは私の命綱。丁寧に扱ってちょうだい」対応が悪い職員には長いお説教。と、いう顛末の、ご本人からの報告もまた長く、なかなか解放してもらえない。
「薬局からお電話です〜」「ドクターから急ぎの指示です〜」と、適当な理由で救出したりされたりすることもよくあった。

さて、Aさんは世を騒がせた流

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「死に目に会いたい 」2

前述のとおり、これはなかなかそうもいかず…

かつてのAさんは、おむつを外しては投げたりと、何しろ元気いっぱいの方だった。月日とともに傾眠的になり、ケアをさせてもらいながら、やんちゃぶりを思い出しては口々に懐かしんだものだ。時々「やめろやー」「母ちゃあーん」と、いきなり大声をあげ、職員を喜ばせた。
DNAR(Do Not Attempt Resuscitation)
=心肺蘇生をしない方針に同意を

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父と、桜と

寒さが押しては返す。
ぼんやり霞がかった空、ぽわんとした陽気に油断していたら雪の予報だ。

ずっと前のことだが、父が余命を宣告されたのは、ちょうど今頃だった。
私は実家を出たばかりだったと思うが、なぜその時そういう成り行きだったのかは覚えていない。

父を助手席に乗せ、数キロ先の湖まで運転したことがある。
私のことをいつまでも小さい子どもだと思っていた父は、「とまれ、とまれっ」「信号信号信号」と気

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街の坩堝へ

マツコさんと村上さんの、「月曜から夜ふかし」がすきだ。
街なかにふつうにいる人々の、底なしの変人ぶりを垣間見ることができる。
奇妙キテレツな人があちこちに生息している、街は坩堝だ。ふところが深い。
そんな皆さんが、ある日ある時、各所からポッと入院してくるのだから、「いろんな人がいるよね〜」となる。
食事も内服も、睡眠も排泄も、人それぞれ。いかにも、予想を超えた事件もおきるわけだ。

私たちの仕事は

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偲ぶ

親を見送るのとはまた違い、子の介護や看取りをする方もおられる。
難病、外傷、自死の失敗など様々だ。何年たっても受け容れることができないという親御さんに、そんなことはとうていできないままでも仕方がないとしか、伝えることができない。

再生医療の未来に期待を寄せる家族は多い。ゆえに、1日でも長くと希望にすがる。一方で、現段階では元通りにはならないことも多い。
私自身、同じ苦しみに耐えられるか、まったく

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一日をすすめる

大事な人をなくしたこと、生活の中で受けとめ、受け入れ、一日、一日をなんとかすすめていく。
心穏やかに思い出せる日もあれば、やたら心が塞ぐときも。
肉体があるせいでお腹はすくし、なれば財布を握り買い物も必要だ。風呂に入らねば不快である。
そうして、ただ生活を重ねているうち、いつしかなくした相手の年齢に並んだり、追い越したり、年号が変わったりして嗚呼…と思うなどする。

その人が残したものは、生活とと

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「何があっても驚かない」

日本では、親は子がみるものという根強い観念がある。
ひとつの信念か、信仰にも似たものか、感謝の念か。自分との約束みたいなものかも知れない。
すばらしいことだが、いざとなったらプロを頼ってもよい。

入院担当をさせていただいたAさんは、すでに寝たきりの状態だった。口だけは威勢がよく、何をするにも「ヤメロー」「バカヤロー」「コノヤロー」と罵声が飛んでくる。器用に唾を飛ばして威嚇もしてくる。ずいぶんお行

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