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人生が100秒だったら: 5秒目

なんでも逆さ実験


子供のころ「なんでも逆さ実験」に凝っていた。大人達のやることを見て、その逆さまを実験してみた。たとえば、靴磨き。おじいちゃんのよそ行きの革靴を雑巾でこすって、その後、靴クリームをたっぷり塗ったら、おじいちゃんの手と靴下が茶色くなった。

歯磨きも試してみた。歯ブラシでゴシゴシこすった後、歯に歯磨きクリームを刷り込んだ。喋るとクチの中があぶくだらけになったし、食べるものがみんな歯磨きの味になった。

おトイレに行きたくなるのは、ご飯を食べるからだと教わった。そうかその順番か。ではおトイレでご飯を食べるとどうなるのか試してみたくなって、お味噌汁とご飯とハンバーグとほうれん草のおひたしを便器に腰掛けながら食べてみた。じっと待っても特に何も起こらなかったし、すぐにみつかって叱られたので、これは実験にならなかった。

食事中、奥歯で噛んでいることに気がついた時は、さっそく、すべての食べ物を前歯で噛む実験もした。これは出っ歯になるぞと脅かされて、怖くなって辞めた。(出っ歯になる実験はしなかった。)

小学校に入る頃までは色々試してみたから、お風呂に入るのも、ご飯を食べるのも、洋服を着るのも、いちいち時間がかかって、いちいち面白かった。

学校というものに行くようになってからは、先生という人がいて、「大人はなんでも知っている」と教えられたから、実験をすることは少なくなった。

ああ、でも、タバコを喫うと大人になれると思って、一生懸命タバコを喫ってみたこともあったけれど、あの実験はなんの役にも立たなかったな。

今はもう、大人と言われる年齢をとうに過ぎて、とんと実験というものをしなくなった。「大人はなんでも知っているわけでは全然ない」ことに気づいているのだから、してみても良さそうなのに。

実験しなくなった私は、どんどんつまらない人間になっていくみたいだ。

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