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好きな音楽と、それにまつわる、個人的な話

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#音楽

音楽を聴くことの意味を考え続けた年に 2020年の個人的なベストアルバム25+1

音楽を聴くことの意味を考え続けた年に 2020年の個人的なベストアルバム25+1

いろいろなことを考えてばかりだった こんな年に、たとえば「NO MUSIC, NO LIFE」のような、音楽至上の言葉を掲げることにためらいがある。音楽を人前で演奏することがむずかしかったとか、そういうことではなしに。

 そんなふうに始めると、ちょっと大げさかもしれない。だけれども、生きていくだけで精一杯だった人たちが、世界中にいるようなときに、「音楽に救われた」と安易に書くことは、すこし乱暴で

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人の幸せを見ると自分が情けなくなる Judee Sill『Judee Sill』

人の幸せを見ると自分が情けなくなる Judee Sill『Judee Sill』

周りの人の成功や失敗を眺めながら 気がつくと、人の幸せを見ると、少しだけ苦しくなるようになってしまった。それは、まったく、自分の立場がそこまで届いていないところにいるからだろう。しかし、人生とは、他人と比較してどうこうというものでもないことも、すでに言われ尽くしていることだ。つまるところ、他人より上か下かというよりも、自分の至らなさを、さまざまなところに勝手に見出している。これはネガティブな自意識

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Spotifyプレイリスト:ちょっと変わったカバー集(洋楽編)

 「この曲がこんなことになるのか」「この人がこれをカバーしているのか」どういうわけか実在する、あの名曲の変わったカバーのプレイリストをSpotifyで制作。80〜90年代の原曲を中心に集めた。

 以下、短い解説。

Pleasure Beach / Smells Like Teen Spirit

 アシッド・ジャズというか、ハモンドが唸るモッド系のカヴァー。ギターの入れ方やドラムの跳ね方は明ら

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人は、収まるべきところにたどり着く Deacon Blue『Believers』

人は、収まるべきところにたどり着く Deacon Blue『Believers』

長い目で見れば、行くところは…… 大学院を退学するときに、指導教員(自分の人生の中でも「恩師」と呼べるのはこの人だけだと思う。それを強く言いたいというだけの理由で、以下、「恩師」と書く)に挨拶したところ、こんなエピソードを話してくれた。

 恩師には、アカデミックな世界には暮らしていないものの、お世話になっている人がいた。その人が仕事を探していたので、ある大学の教員の募集を紹介したものの、残念なが

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カウンセリングの途中にカレンダーを見て、自分は泣いた La Düsseldorf『La Düsseldorf』

カウンセリングの途中にカレンダーを見て、自分は泣いた La Düsseldorf『La Düsseldorf』

自分、カウンセリングに通っています
 音楽を聴くと、元気が出る、勇気が出る、ということが、あまりない。まして、ポジティブな歌詞の曲を聴くと、こちらまでポジティブになる……というようなことは、すくなくとも自分の人生には、ほとんどない体験だった。

 いわゆる「応援ソング」を揶揄するつもりはない。しかし、聴いていてポジティブな気持ちになるような音楽というものが、もしあるとするなら、それは、歌詞以上に、

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CDをプレゼントするのが難しい時代に 2019年の個人的なベストアルバム15+1

CDをプレゼントするのが難しい時代に 2019年の個人的なベストアルバム15+1

CDだけで「ベストアルバム」を選ぶのはむずかしい 自分の人生を逆算から考えるようになり始めた、どこにでもいる、人より少しだけ音楽が好きな男が選んだ15枚(+1枚)。

 中途半端な数になったのは、最初は10枚で選ぼうとしていたものの、何枚か、入れるか入れまいか迷ったアルバムがあって、いっそ入れてしまったほうが、読んでくれた人の選択肢が増えると思ったからです。

 ちなみに、ここに挙げたアルバムは、

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自分がこんな声で歌えたらいいのに Kenny Rankin『Christmas Album』

自分がこんな声で歌えたらいいのに Kenny Rankin『Christmas Album』

寝て起きたら菅田将暉になってないかな 「寝て起きたら、問題がすべて解決していないだろうか?」「寝て起きたら、自分があの有名人になっていないだろうか?」と夢想するときがある。ほんとうに意味がない話だけれど、考えたことがない、という人もめずらしいのではないか。たぶん。

 自分も、毎日の中で疲れ果てたときに、「寝て起きたら菅田将暉になってないかな〜」と考えることがある。馬鹿、という2文字では、ちょっと

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33歳になりましたが、卵を片手で割れません Everything But the Girl『Idlewild』

33歳になりましたが、卵を片手で割れません Everything But the Girl『Idlewild』

どうして片手で割ろうとしてしまったのか ぼくは、生卵を片手で割れない。

 卵を片手で割ろうと思ったのは、たしか、元・光GENJIの、諸星和己の話を知ってからだと思う。こんな大事な話を、たしか、と前置きするぐらいに、うろ覚えなのは、誰に対してでもなく、申し訳なく思うのだけれど。

 彼は5人家族(父、母、兄、妹)ではあるけれど、育ったのは祖父母の家で、家族で食卓を囲んだことはなかったという。そのよ

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奇跡と呼ぶにはありふれているけれど 西寺郷太『Temple St.(テンプル・ストリート)』

奇跡と呼ぶにはありふれているけれど 西寺郷太『Temple St.(テンプル・ストリート)』

心臓が2度、止まりかけた日 その日は、目が覚めたら、体調が悪かった。「悪かった」という4文字で、あなたが想像するより、もう少し悪い。

 胸が、ぐーっと詰まるように、苦しくて起き上がれない。自分は、気持ちが追い込まれると、胸がキリキリと痛みだすタイプだ(病院で検査してもらったこともある。異常なし、だそうだ)。何回も、経験したことではある。

 思い当たる節は、いくつもある。まず、ストレス。年末が近

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自分の人生は、ちょっとずつ取り返しがつかなくなっている PIZZICATO ONE『わたくしの二十世紀』

自分の人生は、ちょっとずつ取り返しがつかなくなっている PIZZICATO ONE『わたくしの二十世紀』

もっと、上に行くと思っていた 少し前に、「お前はもっと、上に行くと思っていた」と言われたことがある。

 突然のことなので、失礼だと感じるよりも先に苦笑してしまったのだけれど。よく考えると、いや、すこし考えてみただけでも、奇妙な話だ。

 上というのはどこだろう?

 なんとなく行ってしまった大学院で、業績を残す存在になると期待されていたのだろうか? ほんとうの秀才たちを目の当たりにして、レベル

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抑うつ状態の苦しみ、音楽としてのインダストリアル Esplendor Geométrico『Eg1』

抑うつ状態の苦しみ、音楽としてのインダストリアル Esplendor Geométrico『Eg1』

仕事中に立てなくなった日 自分は、「抑うつ状態」になったことはあるが、精神科医の診断では、「うつ病」になったことはないらしい。もしかすると、この見立ては、医師によって変わるものなのかもしれない。客観的な事実として、自分は、抑うつ状態になり、半年近く仕事ができなかった日々がある、ということはいえる。

 今回は、抑うつ状態のときの話を、少しだけ、する。2015年のことだ。自分は横浜DeNAベイスター

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鍵をかけたTwitterアカウント、かつて友人だった人 メンデルスゾーン『夏の夜の夢』

鍵をかけたTwitterアカウント、かつて友人だった人 メンデルスゾーン『夏の夜の夢』

推敲になっていない推敲 昔から、自分が言ったことを、後から引っ込めがちだっただけに、このnoteでも悪癖が続いている。一度、公開した記事の細部が、気になって、直してしまう。

 その価値があるほどのテキストを書いているつもりでもないので、なんとも気恥ずかしい。推敲のつもりが、推敲になっていないということも、しばしばある。それでも公開するからには、つまり、読んでもらう、誰かの時間をわずかでも使っても

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『LIFE』のパート2ではなく、『LIFE』のその後 小沢健二『So kakkoii 宇宙』

『LIFE』のパート2ではなく、『LIFE』のその後 小沢健二『So kakkoii 宇宙』

若かった男が、年を取っていく過程 小沢健二の『So kakkoii 宇宙』は、2006年の『毎日の環境学』以来、13年ぶりのアルバム。ボーカル入りのオリジナル・アルバムとなると、2002年の『Eclectic』以来、17年ぶりとなる。

 彼のこれまでのアルバム、『犬は吠えるがキャラバンは進む』『LIFE』『球体の奏でる音楽』『Eclectic』『毎日の環境学』を、通して聴いてみる。歌詞の中で歌わ

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負けることがうまいボクサーの話 Red Garland『When There Are Grey Skies』

負けることがうまいボクサーの話 Red Garland『When There Are Grey Skies』

恋人が元ボクサーだった人 井上尚弥とノニト・ドネアの試合を、居酒屋で見ていた。

 その日は、とても、悲しいことがあった。一人でいられない、というのが正直なところで、しかし、他人を過度に巻き込むのも気が引けて、何軒か、はしご酒をしていた。20時前だというのに、もう、3軒目に入った。いかにも場末の店、といえば失礼だろうけれど、カウンターと小さなテーブル、メインはホッピーと焼き鳥、そんな佇まいだった。

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