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蒼乃真澄
2022年7月30日 21:00
長雨は、様々な音を鳴らす。タッタとアスファルトを叩く音、シャララと草木に触れる音、ポツポツと水溜りに当たる音、トタン屋根に乗れば、パンパンって跳ねる音がする。そして、君がさしている黄色の傘からはプツプツと音がする。 君はこの街全体が楽器になった気分で、思わず「ラララ」って言葉のない音を刻む。どこかで犬が吠える。蛙が鳴く。車のエンジン音が響く。おばあちゃんがクラップする。 全ては雨が生
2022年7月29日 21:00
「君の思考に潜水しようか」「なんで?」「なんとなくだよ」 僕は君の小さな頭に触れて、目を瞑る。すると、広大な花畑に立つ二人の人間が見える。「これは、素敵な光景だ」「なんか、恥ずかしい」 僕はもう少し鮮明に見たいから、しっかり掴んでピントを合わせる。二人は間違いなく僕と君。そして、よく見ると足元に小さな子供がいる。「そうか、僕らは家族になるんだね」「それが、私の欲望だから」「そうか
2022年7月28日 21:00
彼女が飛ぶまで三十秒。残り百メートル。 僕の靴紐が解ける。 僕は色々と過去の記憶を思い出す。彼女との日常。あらゆる情景や匂い、音。そして足。彼女が歩む足。どこかへ進む足。「ヘヴンへ行きたいの」 彼女が飛ぶまで二十五秒。残り百メートル。 僕はどこへ行きたい? 彼女の元? それともヘヴン? 僕は屈んで、靴紐を直す。 彼女が飛ぶまで二十秒。残り九十メートル。 僕が描いている未来に、彼女は
2022年7月27日 21:00
「未来行きタクシーなんてどうだろう。私は考えたけど、はっきり言って時間の無駄だった。だって、タクシーに乗って目的地へ着くまで時間は進み続けるんだから。つまりそれって、未来へ進んでいるってことだろう」「そうですね」「しかし時間というのは不思議なものだ。どうしてか、未来へしか進むことができない。過去には戻れない。これだけ科学が進歩していて、なんだって便利になっていく世の中なのに」「うん」「未来
2022年7月26日 21:00
皮を剥がそう。その奥にいるのは、誰だ?「またモンスターが現れやがった」「六本木に神出鬼没したらしいな」「やばいですねえ、白昼堂々人を殺しているらしいですよ」「それも三人だって。しかも全員芸能人関係者。一人は有名な芸能プロダクションの社長さんだって。怖いわあ」「しかし、これで何人目だ?」「二十九人目ですね。全員に共通していることがあります。それは、『上級国民』であることです」 私
2022年7月25日 21:00
すなわち、僕らは朝の話をしている。ピカピカと光る太陽が日本を照らすなら、それは間違いなく朝であって、朝以外の何物でもない。オナガドリが元気に鳴き、子供たちが学校へ投稿する。お父さんらしき人がゴミを捨て、お爺さんが散歩をする。それは僕らにとって日常の一部であり、毎朝流れているラジオや、隣の家に届く新聞と同じように繰り返される出来事である。 だから僕らは、いつまでも夜明けが来ないことを祈ったのだろ
2022年7月24日 21:00
『天国行き』「こんなところにバス停なんか無かったはずだ」 栄治の言う通り、こんな田園が広がる田舎にポツンとバス停が立っていたら、さすがに知らないまま毎日を過ごすことはないだろう。「無かった。絶対になかった」「しかも、天国行きだって。乗ってみるか」「死んだらどうする?」 しかし、僕も彼も暇人だった。だから人生に対して大した期待もしていなかったのだ。「大丈夫。俺は、ちょっとワクワクしてい
2022年7月23日 21:00
僕はたくさんのものを失ってきた。同時に、たくさんのものを手に入れてきた。 僕から離れたもの、人。僕に寄ってきたもの、人。それらは全て、一本の糸で結ばれていて、長い線となってつながっている。昨日から今日、そして明日。僕の人生はその糸がはるか向こうまで延びている状態で、僕はその先を目指して歩いている。「お前、足遅いな」 誰かが言った悪口。「もっと努力しないと、上手くならないぞ」 誰かが言っ
2022年7月22日 21:00
「一つにならなくていいよ。認め合うことができるなら」 壁掛けのポスターに書かれた、あいつの文字。それはかつて一緒になろうとした人間たちに対するアンチテーゼであり、真実そのものだった。「あいつは良くも悪くも多様性に振り回された男だった」 小さい頃からあいつの世話をしていたという老爺が、マッサージチェアに腰をかけながら、懐かしそうに言った。「まあ、それが故に死んでしまったが」「健人は悪くない
2022年7月21日 21:00
頑固なあの人は、毎度僕が助けに来てもお礼を言ってくれなかった。「これで二十六回目。怪人も襲う人を変えればいいのに」 僕は深いため息を吐き、あの人の背中を見つめながら夕暮れ時のチャイム音を聞いていた。「ありがとう、お兄さん!」 子供は素直でいい。倒れた怪人を踏みつけながら、僕は「どういたしまして」と言って警察を呼んだ。 あの人も言ってくれたらいいのに。「いつもいつも、娘がすみません
2022年6月29日 21:00
「今の時代は風が吹いている。だから戦争は起こるし、疫病でたくさんの人が死んでいく」「その風を止めることはできないの?」「できない。自然現象に逆らえば死ぬだけだ。我々は風が吹く中を生き抜かなければならない」「でも、そんな状況で生きていくって辛いよね。正直、これ以上人間たちが不幸になっていく姿を見ているのは胸が痛むよ。どうにかならないの?」「残念ながら、この状況を変えることはできない。これは神
2022年6月28日 21:00
清風は青い春を巻き起こして、僕らを一歩前へ踏み込ませてくれる。それは偶然吹くかもしれないし、必然的に吹くかもしれない。だけど、いずれにしても僕は行動しないといけない。何もしないと始まらない。 今日、僕は君に想いを伝える。 風は背中を押す自然現象。それは物理的にも、精神的にもグッと前へ進ませてくれる。 そんな風が吹いている日に、告白しない理由はない。 好きな気持ち、伝えよう。俺は息を整え
2022年6月27日 21:00
「好きです、付き合ってください!」 告白しちゃった。三年間ずっと好きだった。頑張って距離縮めて、だけどなかなか想いを伝えられなくて、もどかしい時間を過ごした。いや、それじゃあいけない! となんとか自分を奮い立たせて、放課後空いてる? なんて意味深な誘い方しちゃって、授業中もずっとドキドキしちゃって、死ぬかと思ったけどここで死んだら告白できないだろ! ってやっぱり自分を奮い立たせて、やっと放課後に
2022年6月26日 21:00
朝、僕が家を出たのは仕事へ行くためじゃない。おそらく、この現実が嫌になったからだろう。何を客観的に見ているんだと自分自身を責めたくなるが、そうでもしないと理性を保てそうにない。 いつからだろうか。僕と君の間には見えない壁があって、それを打ち壊そうとするどころか、その壁は日が経つごとに分厚くなっていった。 僕に突然の進化が訪れたわけじゃない。僕は毎朝ドリップして淹れたコーヒーを飲み、今時