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いつでも微笑みを(短編小説「ミスチルが聴こえる」)




「今の時代は風が吹いている。だから戦争は起こるし、疫病でたくさんの人が死んでいく」
「その風を止めることはできないの?」
「できない。自然現象に逆らえば死ぬだけだ。我々は風が吹く中を生き抜かなければならない」
「でも、そんな状況で生きていくって辛いよね。正直、これ以上人間たちが不幸になっていく姿を見ているのは胸が痛むよ。どうにかならないの?」
「残念ながら、この状況を変えることはできない。これは神が人間に与えた試練だからだ。全ての人間は試練を越えなければならない。もちろん、越えられずに死んでいく人間も多い。だが、試練を超えることができる人間は、次の時代で幸せになれる。今は耐えるときだ。必死に耐えて、風が吹かなくなるまで生きていなければならない」
「せめて、生きていく上で大事なことがあったらいいのに。僕は少しでも多くの人に生きていてほしいよ」
「それは我も同じだ」
「風が吹く時代を乗り越えるための秘訣ってないの?」
「ある。簡単なことだが、これができる人間は意外と少ないかもしれない。憂うことばかり起こる世界だ。悲しさが溢れて空気がどんよりとしているせいで、気が滅入る。この世界は自然と辛苦を舐めることになってしまうシステムがあるからな。それでも、これができる人は幸せになれると我は思う」
「それって、何?」
「それは、笑うことさ」
 そう言って、爺は僕に一枚のチケットを見せた。
「いつでも微笑みを。その意識が、これからの時代を生き抜く上で大事なんだ。笑うことで、人は元気になれる。元気だったら、なんだってできる。生きていける」
「あ、うん」
 まあ、爺の言うことは間違っちゃいないだろう。笑うことは、大事だ。
「行こう。大宮セブンの寄席へ」
 爺、結構感覚若いし、お笑いマニアだな。

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