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僕らの音(短編小説『ミスチルが聴こえる』)



 長雨は、様々な音を鳴らす。タッタとアスファルトを叩く音、シャララと草木に触れる音、ポツポツと水溜りに当たる音、トタン屋根に乗れば、パンパンって跳ねる音がする。そして、君がさしている黄色の傘からはプツプツと音がする。
 
 君はこの街全体が楽器になった気分で、思わず「ラララ」って言葉のない音を刻む。どこかで犬が吠える。蛙が鳴く。車のエンジン音が響く。おばあちゃんがクラップする。
 
 全ては雨が生み出す重奏で、音色は素晴らしいものだった。君は気分が高揚して、この情景を保存しておきたいほどだった。
 
 僕も交わるために、足踏みした。鈍い音だったが、それもまた楽器になった。鼻歌も入れた。雨の中カッパを着て自転車を漕ぐ音。野良猫のか弱い鳴き声。子供たちの合唱。最後は、君のラララ。僕らは奏でながら笑った。
 
 長雨は様々な音を鳴らす。そして、それら全てが僕らの音となって、今日も平和をもたらしている。

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